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【第二部完結】俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~  作者: 岩重八八十(いわじゅう はやと)
第2部 最弱の八天導師

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64話 八天導師の総帥アイル・フリーダムの一日

ドライズ視点

「たのもーっ!!」

 ババンッと寮の一室の扉が開かれる。


「ほわぁあっ!!?」

 ビックゥッと身体を跳ねさせて、ファルマは二段ベッドの下段から転がり出たようだ。


「ドラリン借して!!」

 単刀直入に僕の名を呼ぶその声の主は、クラスメイトのエクレア。


「待て待て待てツッコミ所が多すぎるわッ!!」

 ファルマが立ち上がる気配を感じる。この辺りから騒がしさに意識がはっきりと覚醒してきた。


「夜中の三時に何言い出してんだテメェはッ!! つぅか異性の階層に無断で入ってくんな問題になるだろうが!!」

 ファルマにしては真っ当な事を言う。


 惜しむらくはそれが〝真夜中で〟〝無駄な大声〟で無ければ百点だったのだが。

 僕は片目をこすりながらベッドの梯子を降りてファルマの後頭部にぺしっとチョップを入れた。


「って!?」

「近所迷惑」

「あっ、はい、すんません……」

 しゅん、とファルマは萎んでしまった。


「で、僕になんの用だい?」

 あくび交じりにエクレアに問いかけると。


「よぉし、出発だぁ!」

 エクレアは僕の手を無理矢理引いて進み出す。

「ちょ、ま、せめて答えてよ!」

 もう逃げ出すことは出来ないと悟り、僕は腹を括った。


 そしてエクレアは漸く目的を教えてくれる。

「ふっふっふ! 今回のネタはズバリ、〝学園人気No.1最高学年主席にして新設された組織、八天導師の総帥アイル・フリーダムの一日に迫る!!〟だぜぃ!」


「あー新聞ね。……それになんで僕が付き合わなきゃいけないのさ」

「人手が足りないから!」


「人手って……他の部員居ないの? 新聞部」

「全校生徒百人にも満たない学校で新聞部なんてマイナーな文化系部活に人が集まるなんて思わないで欲しいな!!」

 無駄に自信満々に返されて、僕は思わずたじろいだ。


「そ、そうですか」

 こうして、僕の安眠時間は黄色い悪魔みたいなクラスメイトにぶち壊されたのであった。


      ◇  ◇  ◇


〝アイル・フリーダムの朝は早い。午前4時には既に起床して、寮の食堂を間借りして料理にいそしんでいる〟

「メモメモっと」

「アイルさん、料理できたんですね」

 僕も包丁を持ってアイルさんのお手伝いをしながら話しかけた。


「まーな。ちび共も居るし年長者として、これくらいのスキルは身につけとかないとなー」

 アイルさんが作っているのは、彼が嘗て所属していた孤児院の仲間達の朝食とお昼のお弁当だ。それなりに人数が居るのでこの時間から作り始めないと間に合わないらしい。


「リーゼのお弁当、アイルさんが作ってたなんて意外です」

「ハハハ! リーゼは料理下手っぴだからなー。なんつーか、真っ当な食事に興味ねーんだわ。栄養状態が心配になっちまうぜー」

 アイルさんは笑いながら調理をしつつ、時々指揮するように指を走らせる。何もその身一つで何人分もの料理を作っている訳では無いのだ。


 アイルさんの得意分野は〝自立魔導〟。予め設定したルーチンに従い動作する魔法の事だ。

 今アイルさんはその〝自立魔導〟を使う事で自分の作業とは別に包丁やフライパン等を同時に使役している。


 料理器具達がまるで透明人間に扱われているかのように勝手に動く様はファンタジックで賑やかだ。


 お弁当を作り終えたアイルさんは、箒を片手に寮を出る。

 もうすぐ日の出の時間だ。


「んじゃ、ちょっくら行ってくらー」

「毎朝大変ですね。どうしてこんな事してるんですか?」

「まー老婆心でなー。学園の連中の目覚まし時計代わりにでもなれねぇかなってさー」

「毎朝の奇行にはそんな理由が!? ドラリンナイス取材!!」

 エクレアが横で熱心にメモを取る。


 僕とアイルさんの付き合いは決して短い方では無い。何故ならアイルさんはティアロ校長の弟子、僕の師匠ルクシエラさんやイクリプスさんの兄弟弟子だからだ。関わる機会はちょくちょくあった。

 でも、思えばアイルさんの事はあまり知らない。


 エクレアに無理矢理連れてこられての仕事だけど、アイルさんの事が知れる事はちょっとだけ嬉しかった。


「イィィィィィヤッホォォォォォォ!!! フリィィィダァァァァァッンッムッ!!!」 


 今日もアイルさんはサーフボードにでも乗るかのように箒の上に立ち、奇声を上げて朝焼けの空を駆け回る。きっと、この学園の全ての生徒を想って。  

 

      ◇  ◇  ◇


 授業がもうすぐ始まる事を告げる鐘の音が聞こえる。

「っと、そろそろ教室に向かわなきゃ。それじゃあ後は頑張ってね」

 僕はエクレアにの肩を叩いてその場を立ち去ろうとした。


 が。


 がしっと僕の後ろ手を思いっきり捕まれた。

「なぁに言ってるの! 取材はまだまだこれからだっていうのに」

「いや授業あるし……」


「平気平気! ちゃんとこーちょーには許可貰ったから!」

「そんな馬鹿な」

「はい、許可書」

 ぺろんと出される一枚の紙。


 そこには課外活動の一環としてアイルさんの取材に一日授業を公欠扱いにする旨と、補佐人として八天導師・氷天ドライズを付ける事が書かれていた。


「これも八天導師の仕事だって言うんですかぁああ!!?」


 そもそもこれ僕の初仕事なんですけど!!


「困ってる生徒を助けるのが、八天導師だぜー?」

 困惑する僕の背中を軽くアイルさんが叩く。


「というか、アイルさんは授業無いんですか?」

「六年生は研究がメインだからなー。外に進学する奴らに講義が開かれてっけど学園の単位とは関係ねーんだ」

 説明しながら、アイルさんは箒に片足をかけていた。


「あの、どちらに?」

「イーヴィル退治。午前中に片付けちまうのが日課でなー」

「あっ撮影していいですか!?」

「構わねーけど自分の身は自分で守れよー?」

 不意にアイルさんに目配せされる。


 僕がエクレアの護衛をしろという事か。僕は少し気合いを入れ直した。考えてみればアイルさんは校長の弟子として様々な活動をしている。その取材を行うのだから危険は付きものだ。

 最初は戸惑ったが八天導師として僕が付けられた理由が判った。


「あ、僕たち風属性持って無いのでエンチャントして貰えますか?」

「おや、黄色い子雷専攻だろー? 原色持ってねーの?」

「あ、はい。私転成の単色なのです! えへへ、レアでしょ~?」

 自慢げに胸を張るエクレア。


 原色とは四大元素、火・風・土・水属性の事で、転成とは四大元素から生成される転成元素。光・雷・闇・氷属性の事だ。雷属性は風属性から生成される元素なので雷属性のみを宿す人間は珍しい。


「ほーん。じゃ、こいつを貸してやるよー」

 パチンとアイルさんが指を鳴らすと何処からとも無く箒が二本空を飛んでやってきた。


「わぁ。ちょっと憧れてたんだよね、箒で空を飛ぶの」

 僕は少しウキウキしながら箒に跨がった。物質を浮遊させるのは風属性の専売特許なので風属性を持たない魔法使いは基本的に自分の力で空は飛べない。

 風属性のマジックアイテムがあれば話は別なのだが人を浮遊させる程の風の魔力は相当高品質な魔石が必要なので簡単に言うとべらぼうにコストが高く、使う人は殆ど居ない。

 

 後は火、水、光、雷属性の魔力の持ち主は魔法によって物理的な推力を発生させられるのでそれを上手く利用すれば飛行ができる……けど正直学生が出来る技術じゃ無い。まぁ師匠達は学生だけど学生の範疇に収まる人間では無いので光属性の魔力で飛行とかできるけど。


「私、ルンルンさんの乗り方真似してもいいっすか!」

 エクレアはサーブボートに乗るように、箒の上に立つ。アイルさんにまた変なあだ名を付けてる事にはもう突っ込まない。


「おうよー。落っこちても自動で拾ってくれるから安心しなー」

 アイルさんが導く風に乗って、僕たちは学校の外へと飛び出した。

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