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【第二部完結】俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~  作者: 岩重八八十(いわじゅう はやと)
第2部 最弱の八天導師

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61話 下級生に哀れまれてる!?

 それからしばらく、静かな時間が流れる。

 ピンク髪の少女は上半身だけ起こして下半身を投げ出したままぽーっと虚空を眺めては時折やってくるチョウチョと戯れていて。


 俺はこの、突然現れた正体不明の一年生との距離感が掴めず……というかどう対応すればいいのかが判らずただ黙って少女の次の動きを待っていた。

 

 すると、


「んーっ!」

 背後から声。まだ声変わりの来ていない、『男の子』と称するにふさわしい高めの声色が耳に入る。そういえば目の前の少女に気をとられて忘れていたが背後でも見知らぬ一年生が寝ているんだった。


 金髪の少年は元気よく、ジャンプするように起き上がって数歩進み、太陽みたいにまぶしい笑顔を俺と少女に向けた。


「おはようだよっおねーちゃん、おにーさん!」  

 ピンク髪の少女は柔らかな笑顔を投げ返す。

「おはよう、キータくん」

 そして、キータと呼ばれた少年は、


「んー、寝起きの運動だよっ!!」

 と言ってその場でシャドーボクシングを始めた。

 俺はその光景を呆然と眺めている。


 すると、ピンク髪の少女が大きなあくびを一つして。

「ふわ。なかなかの寝心地だったのよ」

 と満足そうに言う。


「え、あ、え?」

「残暑厳しいこの晩夏の野外に、こんな快適空間を作り出してしまうなんて侮れないお昼寝力をもっているのね」

「お昼寝力??」

 謎の力を持っている事にされた俺は理解が追いつかずに混乱する。


「でも、寝ているおにーさんとっても苦しそうだった。折角のお昼寝力が勿体ないの」

 と、少女は残念そうに眉を寄せる。

「あの、お昼寝力は置いといて、君たちは一体何者……」

 俺が問いかけると、ピンク髪の少女はその半開きな瞳をハッとぱっちり開いて。


「あれま。そういえばまだ自己紹介してなかったの」

 少女は立ち上がり、シャドーボクシングをしているキータの元へ歩み寄って。

「キータくん。あれやるよ」

 といってキータが突き出した拳をさらりと外側から包みこむように取って。


「了解だよ!」

 キータは構えを解く。


 すると二人は繋いだ手と手を高く掲げ流れるように身体を動かし背中合わせにひっついて。

「私はハルカ」

「僕はキータ!」

 名乗ったかと思うと弾かれた用に身体を回転させながら互いに距離を取る。

 繋いでいた手を離すと同時に二人同時にパチンと指を鳴らして。

 二人の手に物体がマテリアライズされる。


「一年B組、光属性専攻。夢と眠りの魔法使い」

 ハルカと名乗った少女はふわふわしたナイトキャップを生成し、


「一年A組、光属性専攻! 星と正義の魔法使い!」

 キータの方は赤く細長い帯のようなマフラーを首に巻き、


 二人はポーズを決めるとニコッと星が飛ぶような満点のスマイルを作った。


「えぇ」

 なんか、児童作品の主人公がやる決めポーズみたいな一連の流れを、俺はただただ困惑しながら受け止める。

 そしてハルカは自分の頬に指先を当てて、言う。


「リーダーに頼まれたのよ。悪い夢に困っている人がいるって」

「困ってる人を助けるのは、正義の味方のお仕事なんだよ!」

 漸く得られた情報をかみ砕く。一年B組のリーダーって確か――


「ってシジアン!? てことは君達がシジアンの言ってた人!?」

 確かに夢と眠りの魔法使いという肩書きはまさしくそれだ。


「そうなのよ」

「そうだよ! 僕はオマケだけどね!!」

 名乗りを終えたキータは再びシャドーボクシングに戻る。ハルカの方はのんびり歩み寄ってきて先ほどまで寝転んでいた俺の隣にぽすっと腰を下ろした。


 しかし、シジアンが夢に関する魔法使いを紹介してくれるというものだからてっきり、それこそ霊媒師や呪術師みたいな風体の人間が現れると思っていた俺はすっかり面食らってしまう。


「ところでおにーさん。大事な事を忘れてるの」

 ハルカは人差し指を立てて真剣な面持ちで言う。


「え」


 大事な事と言われてもパッとは思い浮かばない。

 そんな俺にハルカはヒントと言わんばかりにもう片方の手を持ち上げて。

 そちらも人差し指を立てて横を指す。俺からみて左側だ。


 それだけではまだ理解できないでいると、ハルカは左を向いていた指先を少しずつゆっくりと上方向へ弧を描いて傾けてゆき、元々上を向けて指していたもう片方と指先とぴったり重ねる。その動きで完全に理解した。これは時計の針のジェスチャーだ!

 そして二つの針が上方向で重なるという事は、


「正午?」

「惜しい。もう一歩よ。何の時間?」

「え? ……あ、ひょっとしてお昼ご飯!?」

「正解よ」

 俺の解答を称賛するようにキラッと二つの指先から小さな星形の光が瞬いた。

 そしてハルカは何処から取り出したのか、お弁当箱を膝の上に乗せる。


「キータくんも来るの」

「はぁい!」

 呼ばれたキータは元気よく返事をして、俺たちの元へやってきて。

「ごっはんごっはん♪」

 機嫌良くお弁当箱を取り出した。


 マイペースながら無邪気に昼食を楽しもうとする二人の様子に俺は思わず微笑んでしまう。すると、

「……おにーさんは?」

 とハルカが不思議そうに首を傾げた。

「え? ああ……」


 言われて、俺も昼食を取り出す事を要求されていると察して枕元に置いておいたバッグを探る。そして昼食を並べた。


 ぽす、ぽす、とて。


 栄養補給三種の神器、カロリーバー、マルチビタミンジュース、ビーフジャーキー!

 イーヴィルでなくなったアリスに、俺へお弁当を作る義理はもう無い。あの事件が落ち着いて以降俺の食生活は元の様式に戻っていた。


 気がつけばハルカがその眠たそうな瞳を大きく開いて呆然としている。キータも驚きが隠せない様子だ。そして二人は無言のままお弁当箱を開いて。ハルカはミニハンバーグを、キータは卵焼きを一つ差し出して。


「「あげるよ」」

 と二人声をそろえて言った。


「下級生に哀れまれてる!?」

 ハルカはお弁当の蓋の上にミニハンバーグと卵焼きを乗せて俺の前に置き。


「それじゃあ、いただきます」

「いっただっきまぁす!」

 と二人は手を合わせた。俺もつられて、


「い、いただきます」

 と食事を始めたのであった。


 ハルカとキータはのんびり黙々と、けれどとても幸せそうにお弁当を食べてゆき。

 俺はといえば軽食なので一人すぐに食べ終わってしまって暇をしていた。

 幸せそうな二人につられて、少し笑っていたかもしれない。


 するとハルカがクスッと笑みを零した。     

「おにーさんは、ダメなの」

「はい!?」

 突然笑顔でダメだしされて面食らう。


「気持ちのいい眠りは、起きているときに充実しなきゃいけないのよ」

 ハルカはそう言うと、俺の食事を指さす。


「美味しいモノをおなかいっぱい食べるのは基本なの」

「いや別に不味いと思って食ってる訳じゃないけど……」

「百歩譲って味に満足していたとしても。一人のご飯は味気ないのよ」

「うぐぅっ!!」

 グサリ、と胸にでかい杭を打ち付けられたような衝撃が走った。


「おにーさん、ただご飯食べてただけなのに私たちを見て笑ってたの」

「そう形容されると俺不審者みたいじゃないかな!?」

 慌てるが、ハルカは首を横に振るった。


「悪いことじゃないのよ。おにーさんは誰かの喜びを自分の喜びに出来る人って事なの」

 言われて、少し戸惑った。誰かの喜びを自分の喜びに、なんて考えた事も無かったから。

「お昼ご飯、いつもは一人で食べてるんでしょ?」

「な、なんでそれを君が……」

「リーダーが言ってたのよ」

「あーシジアンか……」

 シジアンからこの子に相談が行っているのだから、俺の普段の様子などを伝えられていても全然不思議では無い。


「大好きな人たちと食べるご飯はとっても美味しいのよ。おにーさんにも好きな人、居るでしょ?」

 なんの含みも無い、すました顔でハルカが問いかける。『好きな人』という単語に少し気恥ずかしく感じて目を逸らすが、逸らしたまま頷いた。


「そりゃあまぁ、人並みには」  

「家族。友達、恋人。誰でも良いの。楽しい食卓が、悪夢を追い払ってくれるわ」

 言い終えると同時にお弁当を食べ終わったハルカはお弁当箱をしまう。 

「そしてもう一つ」

 ハルカは立ち上がり、俺の手を引いて。


 引っ張られるように俺も立ち上がる。

「ごちそーさま!」

 キータも食べ終わったようで俺のもう片方の手を握り。


「美味しいご飯を食べた後は」「めいいっぱい遊ぶんだよ!」

 二人は俺の両手を引いて、どこかへ歩み出した。


「ちょ、ま、一体何処へ連れてく気なんだ?」

 二人は呼吸ぴったりに進んでいく。

 向かった先は〝永久の森〟だった。


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