表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第二部完結】俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~  作者: 岩重八八十(いわじゅう はやと)
第2部 最弱の八天導師

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

78/168

59話 お、俺も遂に異能力者に……?

 朧気な意識の中で。

 曖昧な感覚と共に。

 なんとなく、判る。ああ、また夢を見ているのだ。


 風を感じる。

 奥から、手前へ。強い風が吹き付けている。

 視線の先には真っ黒な球体。


 そう、巨大な何かが空中に浮かんでいた。風は球体に向かって吹いている。

 違う。球体が大気を〝吸い込んでいる〟?

 俺は風に飲み込まれないように、槍を碇代わりに地面に突き立てて。

 多分、厳しい面持ちで、その黒い塊を見つめていた。


『居るんだろ……? そこに……!』

 心臓が高鳴る。じとりとした冷や汗が首筋を伝い落ちる。

『……ッ! ……ッ!』


 何かを――いや、誰かの名前を、叫んだ気がする。

 そして俺は――自ら闇の中へと飛び込んだ。



「イィィィィィヤッホォォォォォォ!!! フリィィィダァァァァァッンッムッ!!!」

 日の出を告げる先輩の鳴き声が。

「……う、あ?」

 俺の意識を現実に引き上げる。


 気だるい朝、学校に行くのが億劫だ。

 俺は睡眠欲に負けて、二度寝をしようとするが。


「『第一氷結魔法アイス』」

 突然、鋭い冷感を頬に感じ。


「冷たッ!?」

 慌てて飛び起きた。


「はいはい、起きた起きた。遅刻しちゃうよ?」

 どうやら同室のドライズが氷魔法を使ったらしい。

 俺は渋々ベッドから降りて、支度を始める……。


     ◇  ◇  ◇


 部活動の時間、俺は机に突っ伏していた。

「眠そうだね、ハル君」

 横からアリスの声が聞こえる。顔だけ動かしてチラリと見てみたが、彼女は優しく微笑んでいた。

「んぁ……なんかまた変な夢見て。そのせいか判らないけどスッキリしなくて寝不足気味なんだ、ふわぁ……」

 と、あくび交じりに答えるとアリスは目を丸くした。


「えっ、わ、私まだ何もしてないからねっ!?」

 嘗てアリスはイーヴィルの核に選ばれ、夢を通じて俺に魔法攻撃を仕掛けていた。その事が後ろめたかったのか、アリスは慌てて身の潔白を訴えたようだ。


「判ってるよ、それくらい」

 今のアリスにイーヴィルとしての力は残っていないし、疑ってなんか居ない。

 しかし、言葉の綾だろうが〝まだ〟ってなんだ〝まだ〟って。


「これは推測なのですが」

 ふと、窓際のシジアンが手元の巨大な本からこちらに目を移している。


「先輩は以前〝夢に干渉する〟イーヴィルと戦闘しましたね?」

「え、あ、ああ。なんでそれをシジアンが知ってるんだ?」

「その点についてはご想像にお任せしますが」


「待って!? なんでそんなこっちに丸投げするの!?」

「その戦闘の際、敵の術中にハマり発動された魔導にほぼ取り込まれかけたと聞いています」

「しかもすっげぇ詳しいじゃん!? マジで何で知ってんの!?」

「もしかしたらその後遺症かもしれません」

 俺の疑問をことごとくスルーするシジアン。


 シジアンの言うとおり俺には想像するしかない。ティアロ校長も全部知ってたし、八天導師のつながりで報告を聞いたとかだろうか。

「うっ……」


 もしかしたら自分が原因かもしれないと思ったのかアリスが気まずそうに貼り付けた笑顔を浮かべて目を逸らした。


「後遺症?」

「夢とは元々魔導と親和性の高いモノです。古代から夢に関する魔導はいくつも作られてきましたし」

「ああ、確かルクシエラさんもそんな事言ってたな」

「夢に干渉する魔導攻撃を受けた結果先輩の体内で偶発的に魔導の術式が複写、転写された、と考えても不自然ではありません」

「そんなまさか……」

 と、言葉では否定してみるが。思い当たる節がある。


 アリスに渡した魔石『ドリーム・ディメンション』を作っていた時、術式の構成があり得ない程すんなり行えたのだ。最も、完成した魔石は結局俺には使えず、本来の使い手であるアリス専用のものであったが。


 だから『ナイトメア・ダークマインド』が俺に何らかの影響をもたらしている、と言われてもそう突飛には感じない。

「……俺が喰らった魔導は『夢を現実に、現実を夢に変える』ものだ。それが複写されたにしては夢を操ったりできなかったけどな」

 俺の言葉に、シジアンは顎に手を当てて。 

 

「ふむ。何せ偶発的なモノです。複写の課程で術式に歪みや欠落があったのでしょう。となれば――夢に干渉出来なかったということは『現実を夢に変える』という部分がキーですかね」

「つまり俺が見た夢が現実に起こっている事ってか?」

「はい。もっと踏み込むならば、夢に関する魔法で最もメジャーなモノが浮かび上がります」

 シジアンの少し遠回しな言葉に答え合わせするようにアリスが呟く。


「『予知夢』……だね」

「起こりえる現実を夢としてシミュレーションする魔法。魔導という技術が確立されるよりも前の時代。古来より霊媒師や呪術師と等と名乗る者達が偶発的に会得、発動していた歴史があります。同じ事が先輩に起こったと考えても不思議はありません」

「お、俺も遂に異能力者に……?」

 偶然とはいえ予知能力を手に入れるとか主人公みたい!


「あくまで情報材料を元に演算される予測結果であって確実にその通りになる訳ではないのでそこまで大仰なものではないかと」

「ですよね」

 ぶっちゃけ知ってた。予知と言っても天気予報とかそのレベルだ。


 しかしはっきり覚えている訳では無いが、あの夢は決して和やかな雰囲気では無かった。それが予知……つまりは未来の出来事だというのは勘弁願いたいのだが。

  

「とはいえ、偶発的なモノです。意図的に保存しようとしなければそのうち解消されるのでは無いでしょうか。ただ、後遺症が続いている間は寝てる間も無意識に魔導を発動しつづけてしまうという事なので睡眠の質が下がっているのかと」

「マジかぁ……」

 俺はあくびをかみ殺しながら頭を掻く。


「ごめんね、ハル君……」

「アリスが謝ることじゃないよ」

 アリスがイーヴィルになってしまったあの事件の原因は俺にある。それに伴うどんな事だってアリスの責任では無い。すべては俺の自業自得、因果応報だ。


「差し出がましいようですが、ボクの知り合いに睡眠について詳しい方がいます。彼女なら後遺症をどうにかできるかもしれません。取り次いでみましょうか?」


「そうなんだ。まぁずっと寝不足ってのも辛いしお願いしてみようかな」

「では、近いうちにコンタクトがあるかと思います。今日の活動はもう終わりにして結構ですので早めにお休みください」


「ああ、そうする。ありがとな、シジアン」

「お大事にね、ハル君」

 その後早めに寮に戻った俺はそのままベッドに飛び込みすぐに眠りに落ちた。


よろしければいいねやご感想など頂けると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ