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【第二部完結】俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~  作者: 岩重八八十(いわじゅう はやと)
第2部 最弱の八天導師

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外伝58.3話 ……貴方一体何を企画したんですの?

 こうして、余りにもレンに依存した新魔導の製作が始まる。

「じゃ、とりあえず。何はなくともまずはレンに『サクリファイスの刻印』を解析して貰わないとな」

 俺の言葉に、レンはコクっと頷くとナギの方をジッと見つめた。表情は全く変化していないが〝さぁ早く見せてくれ〟と言わんばかりの強烈な圧力を感じる。


「ところで、前からずっと気になってたんだけどナギちゃんの『刻印』って何処にあるのかな? 魔法陣って言う事は身体に描いてあるんだよね?」

 アリスが指を頬に当てながら首を傾げると、ナギさんは。


「心臓の真上に当たる皮膚です」

 と、けろっと答える。


「え?」「ん?」


 アリスと俺が言葉の意味を解釈し考えている間にナギさんは、


「今から解析してもらう事ですし、実際に見た方が早いのでは?」


 という言葉と共に上着に手をかけた所で、

「ちょ、ちょっと待って!? それって胸だよね!? 男の子居るのに脱ぐ気なのかな!?」

 アリスが慌てて立ち上がり、ナギさんの方に詰め寄ってその手を押さえる。


「脱がなければ見せられないのでは?」

「だから男の子居るんだってば!!」

「殿方がいらっしゃる事に何か問題でも?」

「えええ!?」

 慌てるアリスと、何にそんなに狼狽えているのか全く理解出来て居なさそうなナギさん。思えば、ほぼ全裸に近い半裸のような格好のまま平気で活動できる人間に正常な羞恥心が備わっている訳がなかった。


「あ~……えっと、俺外出てるから解析終わったら呼んで……」

 俺は気まずそうにそそくさと席を立ち上がる。

 部室棟の廊下、魔導工作部の入り口すぐ横の壁に背中を預け。


「あっつ……」

 俺は額を拭う。時期は真夏、冷房の効いた部屋を出ただけで汗が噴き出す程だ。


「そういや前マナトがなんか言ってたっけな……たしかナギ達の国って基本的に女性しか居なかったから特に男女間における常識とか価値観が違うから気をつけろって……」


 さて。俺の仕事は魔法陣が完成してからだ。つまり暇なわけである。

 かといって荷物を部室に置いてきてしまったため端末で手慰みにゲームを、なんてことも出来ない。


「あ~……」

 暑さに思考が霞んでくる。俺は思わずその場に蹲った。


     ◇  ◇  ◇

  

「……あら?」

 数十分後の事である。小用のために部室棟の廊下を歩いていたルクシエラさんが汗まみれで縮こまっている俺を見つけたのは。


「あのキャラ編成難しいよなぁ。チェインさえ出来ればものすっげ強いんだけどそもそもの話チェインする為に他のヤツもそれに寄せないといけないけどそうすると素殴りの方が弱くなって結局火力が下がっちまう。かといってお手軽に火力出せるバースト系はチェインには向かないし。やっぱりとりあえず編成してサンドバッグ殴ってダメージ比較するのが一番手っ取り早いんだけど如何せん端末ねーしぶつぶつぶつ」


 『膝を抱えるように屈み込み床に向かって何やら意味の判らない文字列を詠唱しているその姿はまごうこと無き不審者だった』、と後から言われた。


「これは一体何事でしょうか」

 キョトンと首を傾げたルクシエラさんが問いかけると、


「うぇ?」

 俺が弱々しく顔を上げる。脱水のせいかは判らないが目が虚ろで光が消えていたらしい。


「あ、ルクシエラさん。こんちわ」

「こんちにわ、ではありません。この熱い中わざわざ廊下で何してますの?」

「いや、ちょっと部室が取り込み中で……」

「取り込み中?」


「俺の企画で活動しようとしてたんですけど、まぁホントに色々あって」

 熱気にやられた今の俺の頭では一連の流れを丁寧に説明してやるだけの能力が無かったので完結にそう説明すると。


 ルクシエラさんはややキョトンとした様子で、そのまま視線を魔導工作部の入り口の方に視線を向ける。そして、中の様子を伺おうと一歩踏み出しドアノブに手をかけると。


『やっ、ま、待って、落ち着いてくださ、れ、レンさんっ!! そこは神経に接続してるからびんか——ひゃんっ!?』

『……ハァ! ハァ! 何これ興味深すぎる……っ! 好奇心がッ収まらないっ』

『い、息がくすぐった——ぁふっ、ぁっ……』

『……うふふ。大丈夫。……大丈夫だから。私に任せて? 丸裸にしてあげるっ!』

『せ、せめて優しくしてくださっ——ぅあっ!?』

 なんて声が微かに漏れ聞こえてきて。ルクシエラさんは思い留まったかのようにそっとドアノブから手を離した。


 そして、なんだか呆れきったジト目を俺に突き刺し。

「……貴方一体何を企画したんですの?」

 その視線と言葉から、嫌悪やら軽蔑では無いにしろ決して明るくない生温かな感触を感じ取った俺は首を傾げる。


「普通にマジックアイテムの製作ですけど?」

「それ健全な道具なんでしょうね?」

「当たり前じゃ無いですか。そんな、校内で不健全なものを作ったりしませんよ」

 立ち上がって弁明するが。ルクシエラさんは視線をもう少しだけ鋭くして。


「あら。『服だけ溶かすスライム』なんてもの作り出した上に逃げられて大騒ぎを起こしたのは何処のどなただったかしら?」

「ぐぼぉふっ!!?」

 記憶の底に封じ込めていた黒歴史と言う名の言霊を顔面に喰らった俺は汗を散らせながら仰け反り、背中から廊下へ倒れ込んだ。


「男の子ですし別にそういう若さも否定はしませんけれど程ほどにしてくださいまし。もみ消すのも大変なんですから」

「もみ消さないと行けないような事件を俺が起こす前提で話すの辞めて下さい!!」

 上半身だけを起こして抗議するが。


「前科者が何言ってますの」

「ひ、被害者は出なかったじゃないですかぁ!」

「巻き込まれたのが身内だったから被害届出さずに済ませて貰っただけでしょうに。他の学年の子を巻き込んでいたら普通に警察沙汰でしたが?」

「あぅぅ……」

 ぐぅの音もでない正論に黙り込んでしまう。 


「合意の上で乳繰り合う分には咎めませんが。理由はともあれ女の子を泣かせたら許しませんからね」

「ちッ——!? そ、そんな相手居ませんって!! っていうかホントにそういう方向の企画じゃ無いんですよっ!!」

 結局俺は一旦頭を冷やしてからルクシエラに発端から一部始終を説明する事になるのであった。尚、頭を冷やすために自習中のドライズが突然召集され冷却魔法を使わされたのは余談である。


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