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【第二部完結】俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~  作者: 岩重八八十(いわじゅう はやと)
第2部 最弱の八天導師

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外伝58.2話 君が目指すべき魔導は、『決死の奥義』なんかじゃない

「私達が異国の民である事はご存じかと思います」

「あ、ああ、うん」

 俺はされるがままにテーブルについてお茶を一服貰ったが。ナギさんはそのまま俺の隣に立ったまま話を続ける。


「詳細は省きますが、そこで私は将軍の一人として国の防衛を司っておりました」

「へ、へぇ」


 ただ者では無いとは思っていたが、まさかこの歳で一国の将軍だとか言われるとは。ナギさんが下らない嘘を付くような人間でない事くらいは理解しているつもりだがそれでもやや理解が追いつかない。


 が、特別な人間が集まるこの世界ならそういう事もあるのだろう。


「一兵卒として国に——〝姫〟に仕える事は私の贖罪でもありました。故に私は己を殺し、歴代の戦士達が掲げた一つの目標へ向けて技を磨き研ぎ澄ませる事が生きる意味でした。その答えが『神風』。過去の私の到達点であり、限界です。この魔法を託し、次代の子らが私をも超えて目標へと到達する事を願い、私は剣を置いたのです」

「良くわかんないけど、とにかく君にとって『神風』っていう魔法にただならぬ思い入れがある事だけは伝わったよ」


「ですが。こちらへやってきて、再び剣を握れるようになり。私が心身を賭した祖国も今となっては過去の存在です。ある意味で、自由となった私にマナトは言ったのです。〝今度こそ、自分の為に生きて欲しい〟と」

 ナギさんは視線を落とし、ロングスカートの裾を僅かに摘まみ上げて続ける。


「この服装も、所詮はメイド達の真似事にすぎません。私が誇れるものは戦いだけなのです。ですから、〝自分の為に生きる〟ということは私に取っては〝戦いの道を極める〟事なのです」

「――誇れるもの、か」

 俺はお茶を飲み込みながら瞼を閉じた。


 誰にも負けないと自負できるような特技なんて俺には無い。だからだろうか。一つの技術に誇りを持っている人間に対して、嫉妬と羨望を抱いてしまう。


「『神風』はそんな私の歴史。あの技を否定する事は私の戦い全てを否定する事になります。それだけは……例えマナトの願いが私を想ってのことであっても納得はできないのです」


「――なら、話は簡単だな」

 俺はお茶を飲み干すとティーカップをテーブルに置く。

「と、いいますと?」

「マナトは君に傷ついて欲しくない。君は『神風』を否定したくない。それなら、君が目指すべき魔導は、『決死の奥義』なんかじゃない」


 二人の願いを叶える魔法。それは―― 

 

「〝君が傷つかない『神風』〟を作れば良いんだ」


 俺の提案にナギさんは困った顔を作る。

「あの。言っている事は判ります。けれど、それは余りにも理想的といいますか、非現実的では? 『神風』を始め、『サクリファイスの刻印』に起因する戦闘能力は心身を賭し、魂を薪にするからこそ得られる力です。代償無しに大きな力を発揮出来る程世の中は甘くありません」

 そんなナギさんの指摘に、俺はニッと笑う。


「当然の摂理だな。でもよ、別にその代償を〝君が〟払う必要性は何処にも無いんじゃないか?」

「……え?」

「題して、『サクリファイス・エスケープ』。もしも君が、これから俺が提示するいくつかの条件を呑めるって言うのなら——共同製作しようぜ。マナトを納得させる『新魔法』をさ」

 

 自分には誇れるものが無いからこそ、かもしれない。嫉妬や羨望の先に俺は、ただ純粋にナギさんの応援がしたいと思ったのだ。


     ◇  ◇  ◇


 場所は変わって魔導工作部室。狭い部屋内のほぼ全ての体積を占領する長机に。奥の方の定位置で部長のシジアンと、向き合うように座っている部員のアリスが興味深そうに手前へ視線を向けている。


 その視線の先、入り口のすぐ目の前の座席には三人の人物が座っていた。

「と、言う訳で」

 俺は簡単に状況を説明した上で。


「レンさんマジよろしくお願いしますっ!!」

 机に額を打ち付けるような勢いで頭を下げた。


「ご協力、お願い致します」

 その真横では同じようにナギさんも頭を下げる。

 二人と向き合うように無表情で二人の後頭部を見下ろすレン。


「……ふぅん」

 彼女は相変わらずの言葉の少なさで。ひとまず事態を理解した上で俺が用意した企画書に目を移す。


 俺が提示した条件は三つ。


〝まず、共同製作の魔導になるから完成した魔導の権利って言うのは関わった人間全員にある。要するに、例えば俺がナギさんの知らないところで新作魔導を勝手に利用するかもしれないって事だな〟

〝元より技術を独占するつもりはありません。その点は特に問題ないです〟


〝次に……君の『サクリファイスの刻印』。これの解析を行う。ま、『刻印』の効果を別方面で発揮しようっていう計画だから当然だわな〟

〝それも大丈夫です。『サクリファイスの刻印』は私達の故郷の秘伝ですがその故郷はもう存在しないので〟

〝――マジでお前等何があってどういう訳でこの国来たの? いや、ごめん、余計なお世話だな。次だ次。最後が最重要だな〟


 三つ目の条件。それこそがこの状況の原因。


〝レンの協力を取り付ける〟事だ。

 

 他人の能力を前提にして企画を考えるのもどうかと思うが。今回の案件、レンならば必ず乗ってくれるはずと言う勝算が俺にはあった。


 魔法陣に関して尋常じゃ無い探究心を持っているレンにとって、異国の魔法陣であるナギさんの『サクリファイスの刻印』は垂涎の代物の筈。それを解析、更には組み替えろというのだ。紋章魔導士の血が騒がない訳がない。


「……面白い」

 眉、目、頬は固定化されたまま、レンは口元だけを少しだけ伸ばした。

 そして俺は内心で拳を握り込む。


 『サクリファイスの刻印』は心身の生命力を前借りし、身体機能を大幅に上昇させる魔法であるが、作者不明、異国の固有魔法ともあってその機序は謎に包まれていた。

 それを魔法陣オタクのレンに解析してもらい効果対象を変更する。


「そんな事が可能なのでしょうか?」

 計画書を広げて説明する俺にナギさんが視線を向けてくる。

「ま、簡単じゃ無いだろうな。でも、レンなら出来ると思うぜ」

 強い信頼感を以て言うと遠くの席からアリスのツッコミが飛んで来た。

「ハル君、それ無茶振りってヤツじゃないかな?」


 確かにそうとも言えるだろう。突然異国の魔法陣を解析しろだなんて普通の学生なら面食らって当然だ。

「でも、レンならきっと大丈夫」

 レンは魔法陣に並々ならぬ情熱と教員を上回る程の技術を持っている。レンならばやってくれるという全くもって無根拠な自信が俺にはあった。何せレンは特別な人間が集まるこの学園の中で、更に選りすぐられた〝八天導師〟の一員なのだから。


「……ふぅん。ハル君、レンちゃんの事信頼してるんだね」

 ふと、アリスが少し寂しそうな視線を俺に向けていた。

「え? ――ああ、言われてみれば確かに」

 俺はアリスに言われて始めて、〝レンを信頼している〟と自覚する。それも尋常じゃ無い程に、だ。


 確かに部活動の関係で共同制作やらなにやらやる間柄ではあるが、そこまでの信頼感を持っている事に自分自身疑問を抱いた。俺はレンの事は少し前まで苦手だった筈なのに。


 と、黙り込んで考えているといつの間にか部室がシーンとしている。みんな俺の次の言葉を待っているのだと察して慌てて続けた。


「えっと、レンが新たに開発した魔法陣を取り込んだ鎧型のマジックアイテムを作って、マテリアライズレシピを構成すれば完成って寸法だ」


 言い出しっぺのくせに実は俺の仕事はオマケ程度のものなのだが、ともかく俺は計画を説明すると同時に簡単なロードマップを提示するのであった。

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