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【第二部完結】俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~  作者: 岩重八八十(いわじゅう はやと)
第2部 最弱の八天導師

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外伝58.1話 生き恥の様なものを感じています

部活動の時間を使って、俺は一人永久の森に来ていた。

 素材の採取の為だ。

「必要とは言え土を袋に詰めて持って帰るの、重いしだるいし、画ヅラも地味だな……」

 ぶつくさ言いながらスコップで土嚢に土を詰めていると。


「ん?」


 がさっと茂みが揺れる。永久の森には野生動物が住み着いている。加速された独特の気候と魔力に満ちた草木や土を糧に成長した野生動物は明確に異質な進化を遂げており、マジックアイテムの素材としての価値が高い。よくよく考えて見ればかなり危険な環境だと思われるのだが裏で校長や管理者であるジン先生が上手いこと調整しているらしい。


 最も、その調整ミスの結果が度重なる植物触手化暴走事件なのだが……もしかしたら今後は異常生物暴走事件が起こる可能性が微粒子レベルで存在しているかもしれない。


「どれどれっと」

 ともかく、魔導工作者としては見逃せない案件だ。俺はいつでも回収出来るであろう土嚢を放棄し槍をマテリアライズした。


 気配を感じた茂みへ、忍び足ですり寄って。

「へへっ悪ぃけど――」


 呼吸を整え、

「今日、偶然この場所に居合わせた事を後悔するんだなっ!!」

 小物くさい台詞と共に茂みに踏み込んだ。


 次の瞬間。


 びちゃっと生暖かい感触が額に広がると共に。


 彼の視界は真っ赤に染まった。

 

「ぎゃあああ!!? 目がぁぁぁぁぁ!!? 目がぁぁぁぁぁ!!!」


 染みる。その一言に尽きるがそこまで言葉が出てこない。

 ただ、必死に顔を拭う中で謎の液体が自身へ大量にぶちまけられた事だけは判った。


「おや? これは申し訳ありません」

 聞き覚えのある声が近づいてくる。


「どうぞこちらをお使い下さい」

 と、わたわた藻掻いている俺の手に柔らかい物が握り込まされた。恐らくはハンカチか何かだろう。


「あぁ、さんきゅ。この声、ナギさんだな? って事はこの真っ赤な視界は……」

「私の血が降り掛かってしまったようで申し訳ありません」

「ですよねぇぇぇ!!」


 ぶっちゃけ、突然クラスメイトの血液が顔面に降り掛かってきたらわりかし気持ち悪いのだが、流石にそれを言葉にするのはナギさんに悪い。受け取ったハンカチで血を拭い去ると、今日、偶然この場所に居合わせた事を後悔した。

 

「で、こんな所で何してんだよ」

 ハンカチを返しつつ、周囲を見渡す。現在永久の森の季節は夏。青々と茂った木々が赤黒い飛沫によって血みどろに汚染されている地獄絵図のような光景が広がっていた。


「いえ、新しい技の開発を少々」

「新技? 必要あんの?」

 俺が知りうるナギさんの技——固有魔法はどれも強力な代物だ。ナギさんの戦闘能力は俺達八天導師に負けずとも劣らないだろうに。


 と、頭を捻っていると。その穏やかな表情を滅多に崩さないナギさんがやや落ち込んでいる風に視線を下方に逸らしていた。

「いえ、その……少しマナトと喧嘩しまして」

 続く言葉に、俺は思わず声をあげた。


「はぁっ!? お前等喧嘩とかすんの!?」

 二人の間にただならぬ信頼関係が築かれている事は誰が見ても明らかな上に二人とも物腰が柔らかく(戦闘中のナギさんはともかく)丁寧で控えめな性格をしているのだ。そんな二人が喧嘩をする理由という物が全く想像出来なかった。


「そんなに驚かなくても。私達だって喧嘩くらいは普通にします」

「でもそれと新技と一体なんの関係が……」

「私の固有魔法、『神風』はご存じですか?」


『神風』。ナギさんが戦闘中に常時展開している『サクリファイスの刻印』というエンハンス魔法の出力を極限まで高め、生命力・魔力を双方一気に放出して放つ一太刀。使用後は四肢が弾けるようにひび割れ血が噴出し、回復が終わるまで一切身動きが取れない程の反動を受けるが、その威力は基礎魔法など比較にもならず、物理的斬撃と魔法的衝撃が組み合わさってあらゆる守りを打ち砕くナギさんの究極奥義だ。


「あのヤベー威力の特攻魔法か」

「はい。あの魔法は私という一人の剣士の終着点であり、本来であればあの魔法は一回限りの代物で使用後は剣を握れなくなる事も、場合によっては命尽き果てる事も厭わぬ覚悟で作り上げました」

「あの魔法そこまでヤバイヤツなの!?」

「事実、こちらの学園で『回復魔法』というものを習得するまでは私の人生の中でも一度しか披露しませんでしたし、その後は自力で立つ事もままならず前線を退き、車椅子での隠居生活を謳歌していたのですが」

 確かに『神風』を使った後のナギさんは血まみれになって、場合によっては倒れてしまう程であったが。


「え、でも、こっちじゃナギさんってかなり頻繁『神風』撃ってるよな?」

「はい。こちらでは『回復魔法』がありますので。しばらく多少の後遺症は残りますが逆に言えばその程度で済むのです、出し惜しみなどせずに機を見て放つのが一番だと思い使用してきました」

 ここまで聞いて、俺には喧嘩の内容が大まかに掴めてきた。元々は心身を酷使する非常に危険な魔法なのだ。いくら回復出来るからと言ってもお人好しのマナトが何も思うところが無い筈が無い。


「ですがどうにも、マナトとしては私が『神風』を繰り返し使う事に抵抗があるようでして。『神風』を使うのは月に一度までにしてくださいと言われてしまい」

 それだけの負担を強いる魔法だ。ナギさんは回復魔法でどうにかなると言っているが人体は機械ではない。修理して元通りとはいかないはずだ。恐らくは『神風』を使う度に何処か見えない部分で負担が蓄積していくのは想像も容易い。


「ですが、あの魔法は私の全てであり、誇りでもあります。それを『使うな』いうのはいくらマナトが相手と言えども納得しかねるのです」

「う、うーん」

 個人的な評価をするならば。


 マナトの心配の方が全面的に合理的で正しいだろう。だが外野がどれだけ心配しようと、ナギさんの意志・身体はナギさんの物だ。それをどう使おうとナギさんの勝手であり、いくら仲が良いと入っても自分が人生をかけて作り上げた代物を他人にとやかく言われる事は決して良い気分がしないであろうという感情も判らなくは無い。


「私もマナトの言いたい事は判らなくもありません。私もあの技は今生に悔い無しという覚悟で放つ魔法ですので、その後当たり前の様に回復し、その上何度も繰り返し使う事に生き恥の様なものを感じています。マナトが言いたいのはきっとそういう事でしょう」


「俺、マナトとそんなに仲良くねぇしアイツの事良く知らねぇけど確実に言える事がある。マナトが言いたい事は絶対にそういうことじゃねぇ」


 生き恥とかいうとんでもないワードが耳に飛び込んで来て、思わず呆れ果てた表情を隠す事も無く反射的に言葉を漏らした。


「そういう訳なので、『神風』を超える新たなる魔法……死して屍拾う者無し、真なる意味で〝決死〟の奥義を編み出そうと——」

「まてまてまてまてまてまてまてッ!!!?」

 流石に耐えられなくなった俺は慌ててナギさんの言葉を遮った。


「どうかしましたか?」

「どうかしましたか? じゃねぇよっその方針はマナトが求めてる事と真逆だっ」

 いまいちナギさんの価値観がずれているような気がして結局俺はマナトが何故『神風』と言う魔法を忌避しているのかを、特に仲良くも無いくせに一から解説する。


「――だから、要するに、マナトは〝身体がボロボロになるような技を何度もつかって欲しくない〟んだよ! きっと単純に、君の事が心配で!!」

「……それは、困ります」

「なんで!?」

 ナギさんは珍しく表情を暗くする。そして、剥き身だった刀を納刀した。


「話せば少し長くなりますが……」

「――なんかあんのか? いや、まぁ俺なんかで良ければ相談くらいは乗るけども」

「お気遣いに感謝を。折角ですので相応の支度をさせて頂きます」

「支度?」

 俺がハテナを浮かべている間に。ナギは回復魔法を発動し身体の傷を癒やす。


 そして戦闘用の、最低限胸と下腹部だけが守られた軽鎧のマテリアライズを解除した。その下からは装飾の無い無地の下着が現れ、鬱蒼とした森の中に半裸の女学生が堂々と仁王立ちしているとかいう謎の光景が広がる。まぁナギさんの戦装束は露出が多く元から半裸と言えば半裸なのだが。


「ぉあ!?」

 思わず俺が狼狽えているとナギさんはパチンと指を鳴らした。すると彼女の身の回りに衣類が形成されていく。


「すぐにお掃除致しますのでご容赦を」

 一連の出来事に何一つ思う所はない、と言わんばかりそう告げる彼女の服装は制服などでは無く。


「……え?」

 慣れた手つきでマテリアライズする、小さなテーブルと椅子。更に近くに放置されていたリュックから水筒を取りだして。


「自分の水分補給用にと用意した物なので余り良い代物ではなく恐縮ですが」

 これまたマテリアライズしたティーカップに注ぎ、俺へ差し出す。


「少しばかり、お付き合い願います」

 ふわりとしたロングスカートの両裾をつまみ上げ、ぺこりと一礼するその仕草は、普段目にするバーサーカー染みた側面とは対照的で。


 俺は半ば呆然としつつも引き出された椅子に腰を下ろしながら、どうしても聞きたかった事を口にした。

「……え? なんでメイド服??」

 ナギさんが身に纏った服装は、黒と橙を基調にした落ち着いた雰囲気のロングスカートのメイド服だった。


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