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【第二部完結】俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~  作者: 岩重八八十(いわじゅう はやと)
第2部 最弱の八天導師

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58話 好きになっちゃったんだからしょうが無い

アリシア視点

 シジアンちゃんは、レンちゃんほどでは無いが常に冷静であるが故に表情の変化に乏しい。だから、固まりつつも動揺を表に出さない振る舞いからは彼女の本心をうかがい知る事は難しい。


「……なるほど。そういう訳ですか」

 重い沈黙を破って、シジアンちゃんは口を開く。


「まだ事件のほとぼりも冷めやらぬ状況で、どうしてこの部活に入る事にとしたのか疑問でしたが。ボクを牽制する為、という訳ですね」

 シジアンちゃんの推察に、私は無言の肯定を返す。


 私がイーヴィルとして暗躍していた頃、ハル君に近づくためにこの部活動に見学という形で転がり込んだのけど。その時点から、シジアンちゃんがハル君を強く意識して居るという事を感じ取っていた。


 ただでさえ今の私はハル君との接点が少ない。習慣として朝、本当に僅かな距離を一緒に登校するくらいしか無いのだ。それに対して部活動は一週間のうち半分以上が活動日で、かつ二人っきりの部活動……危機感を感じるのも当然だよね?


 多少のリスクを覚悟してでも手を打っておきたかった、っていうのが本音。 


「でしたら、ご安心下さい」

 けれど、続くシジアンちゃんの言葉は私のの予想を裏切るものだった。

「ボクに、貴女の邪魔をするつもりはありませんから」

 シジアンちゃんはそう言うと僅かに微笑む。


「先ほどの貴女の質問には、こう答えさせていただきます」

 そして――彼女は、言う。


「ボクにとって先輩は、好きだとか嫌いだとかそういう次元に存在していません」 


 真っ直ぐで、真摯な瞳が私を貫く。

 嘘やはったり、口車の類などででは無いと、確信させるような重みがあった。

 しかし、言葉そのものの意味はいまいち判らない。


「ど、どういう事かな?」

「解釈はご自由に。理解や共感を求めている訳ではないので。ただ一つ、敢えて言うならば。寧ろボクは貴女を応援したいと思います」

「応援ってどうしてそんな……」

 困惑するばかりだ。私からしてみれば、シジアンちゃんのハル君に対する好意は底が見えない程だった。それは、不自然な程に。


 ハル君から聞いた話では二人は出会って間もない筈なのに、だ。


 だからこその警戒、牽制だったのだけどね。

 それだけの何か強い想いを背負っていながら、恋敵となり得る自分を応援する、というのはにわかには信じがたい。


「……寧ろ、ボクの方からも確認したいです」


「え?」


「貴女にとって先輩は加害者である筈です。この世界の仕組みが生み出してしまった不可抗力である事を考えても、わだかまりや憤りを感じるものではありませんか?」

「ま、待って! 部長さん一体何処まで知ってるの!?」

 私がイーヴィルとして暗躍し、ハル君を襲おうとした事、そして私がそんなイーヴィルとなってしまった原因の一端にハル君の〝願い〟が関わって居た事、私とハル君が交戦し、事件が収束した事。これらの事実はハル君が気を回してくれて公表されていない。


 しかしシジアンちゃんの口振りは、明らかに全ての真実を知っている様子だ。

「知ってますよ、全部」  

 シジアンは机に置いていた巨大な書籍を持ち上げた。彼女がいつも抱えている謎の本だ。


「ボクは〝記録する兵器〟ですから」


 イタズラに本のページを繰りながら、シジアンは不敵に笑う。

 自らを〝兵器〟と称する真意は読めない。


 が。


「……なんて、少し格好付けてみましたが。ボクの事等どうでも良いのです。質問に答えて下さい」

 と、改めて私を問いただす。


「あれだけの事があって尚、本当に先輩の事が好きだと言えるんですか?」

 何が何だか判らない。シジアンちゃんは私が予想していたものよりもずっと大きな〝何か〟を抱えているのかも知れない。


 全てを見通されているような、そんな緊張感の中。

 それでも私は揺るぎない思いを伝える為に、首を縦に振る。


「……うん」


「貴女が先輩へ強い好意を向ければ向けるほどに、先輩はもっと深く後悔するでしょう」

「――私もそう思う」

「面倒だとは思いませんか? 前途は多難です。見切りを付けるなら今しかありませんよ」

 そう。切っ掛けから、結末まで。何もかもがねじ曲がってしまった、そんな歪な関係でも。


「……それでも。好きになっちゃったんだからしょうが無いじゃん」

 つい先日の記憶が蘇る。


 誰も居ない、独りぼっちの霧の中、絶対絶命の窮地に駆けつけてくれた赤い少年の姿が今でもハッキリと脳裏に浮かぶ。我ながら単純かもしれないが、それは間違い無く強い切っ掛けとなった。


 元々、イーヴィル化の影響でハル君に対して悪い感情は抱いて居なかったのだ。そこにあんな経験をしてしまえば、もう止まらない。

 感情とは、制御出来るモノでは無いんだからね。

   

 シジアンちゃんは私の答えに、満足した様子で。

「左様ですか」

 嬉しそうに、何か、幸せを噛みしめるように穏やかな笑顔を浮かべて。


「ならば協力は惜しみません。なんなりと、お使い下さい」

 こちらに手を差し伸べる。

 

シジアンちゃんの目的、意図が読めないまま素直にこの手を取っても良いのだろうか?

 一抹の不安を拭い切れない。けれど、障害だと思って居た彼女が協力者へと転じるのならばその恩恵は計り知れないだろう。


 私はおずおずと、しかし決心したように、シジアンちゃんと堅く手を結んだ。


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