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【第二部完結】俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~  作者: 岩重八八十(いわじゅう はやと)
第2部 最弱の八天導師

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57話 新入部員のアリシアさんです


 部活動の時間。

 こじんまりしたマジックアイテム工房の中には俺含めて三人の生徒が居た。

 一人は部長であり、この部活動をまとめる一年生のシジアン。

 もう一人は少し前になし崩し的に入部して、なんやかんやで活動に精力的な俺、ファルマ。


 そしてもう一人……。


「紹介します。新入部員のアリシアさんです」

 俺と対面に座ったシジアンは、彼女の隣に座るアリスに手を向けて淡々と事務的に事実だけを伝えてきて。


「アリシアって言います。幼馴染みからはアリスって呼ばれてます」

 知ってる。すっげーよく知ってる事実を伝えられる。


「これからよろしくね!」

 アリスがニコッと笑うと、首元で括られた小さな紫色の髪がチラッと可愛らしく揺れた。

 

 俺は一呼吸ついて。

 

 額に指をあてて俯き、目を閉じて。

 天井を見上げて瞼を開き。

 落ち着いて、もう一度目の前を確認した。

 

 ――そして。

 

「えええええーッ!?」


 叫んだ。

 二人の方はあらかじめ指先を両の耳に突っ込んで待機していて。


「まぁ、想定通りのリアクションですが」

「そうだね」

 指耳栓を外して顔を見合わせる。


「アリシアさんはマジックアイテムの製作に関して何一つ予備知識の無い素人になります。是非熟練の先輩として指導してもらえればと」

「いや俺だって始めて数ヶ月とかの素人なんだがッ!?」

「先輩の実力は最初からプロ級ですよ。自信をお持ちください」

「突然持ち上げるな!? そんな事はぜってー無いと思うけど!?」


 だって今までに作ったヤツを思い返してみたら……他人の力を借りまくった『破魔のルクスエクラ』はノーカン。『ドリーム・ディメンション』も『ナイトメア・ダークマインド』の丸パクリだから外して、あとは『原初の魔剣なんたらかんたら』と『不死槍ハルベルト』と『服だけ溶かすスライム』――。


 過去の痴態を思い出して頭を抱えた。


「まともなのがハルベルトしかねぇ……」

「ハルベルト? ああ、あの魔法凄かったね。『フレアレッド・クラスター』だっけ」

 喰らわせた本人が凄いと認めてくれるのは嬉しい半面あの事件をアリスが鮮明に覚えているという証拠を突き付けられているようで恥ずかしくなる。


 というか。

「全然効かなかったけどな?」

「いやいや効いたからね? 四分の一くらい」

「世間一般ではそれを〝効いてない〟って言うんだよ・・・・・・」

 決戦用に作った魔法も難なく突破されて。そうやって考えて見たら俺、今までまともなアイテム作って無いんじゃ……。


 このままだと落ち込む一方だ。思考を変えよう。

「でも、なんでこの部活に? 確かアリスって普通にスポーツとか好きだったよな?」

 俺が問いかけるとアリスは一瞬目を逸らす。


「それは、その、」

 そしてもじもじした様子を見せ、一呼吸置いた後改めて俺と目を合わせ。

 にっこり満面の笑みで微笑んで答えた。


「ハル君と同じ部活動がしたいなって思って!」

 言われて、言葉を失う。


「な、」

「折角仲直りしたのにクラスが別で朝一緒に登校する以外殆ど会えないでしょ? もっとハル君と一緒に居たいなって思ったんだよね」

 アリスは照れくさそうに頬を掻きまた目を逸らしながら言う。


 好意を隠さない、大胆な発言に俺は戸惑うばかりだった。


     ◆  ◆  ◆


 そんなこんなで部活動の時間。

「アリス、喉渇いてないか?」

 ハル君が問いかけると、私は、

「う、うん。少しだけ」

 と、やや戸惑いつつも返答し。


「すぐにお茶を淹れるよ」

 ハル君はそう言って三人分のお茶を用意する。


 更に、

「冷房、寒くないか?」

「だ、大丈夫」

「欲しいものとか足りない物は無いか?」

「大丈夫だってばぁ……」

 と、この日の活動が始まってからずっとこの調子だ。


「そうか……。判らない事があったらなんでも聞いてくれ」

 とハル君は席に着くも。数秒毎にチラチラと私の様子を伺う。

 気にかけてくれるのは嬉しいがあまりに過保護過ぎて困惑していた。

 すると、


「先輩。アリシアさんの活動として杖を作って貰おうかと思うので、永久の森から樫の枝を幾つか採取してきてくれませんか?」

 シジアンちゃんがそう言うと、


「判った! すぐ取ってくる!」

 とハル君は飛び出していって。

 ハル君が居なくなってから数秒の間を置いて。


 緊張の糸が途切れたかのように、私はへたり、と机に突っ伏した。

「うぅ、ハル君が不自然に優しいよぉ……」

 と、言葉を漏らす。


「先輩はいつでもお優しい方ですよ」

 シジアンちゃんはそう言うと、私のコップにお茶を注ぎ足した。

「それはそうだけど……」

 私はお茶を一気に飲み干して、


 もう一度机にへたり込んだ。

「同じ部活に入ったの失敗だったかなぁ……」

 机の木目を指先でなぞりながら、苦悶する。


「こうなる事は目に見えていたではありませんか」

「うぅ……」

 シジアンちゃんの言うとおりだ。ハル君は私の一件を酷く後悔しているし、――私に強い負い目を抱いて居る。それは自分自身も理解している所だった。


 だから、今は様子見、ハル君の感情に整理がつくまで待つのが定石であったかもしれない。

 しかし。それでも私にはここで動くしかない理由があった。


「まぁ、確かに少しの時間でも先輩の側に居たいという気持ちは判りますが」

 シジアンちゃんはもう一度私のコップにお茶を注ぎ足すが。


「……部長さん」

 私はは机で頬を潰しながら視線だけをシジアンちゃんに投げる。


「はい?」

「さっきからさらっと言っちゃってるけど。この際だから確認しておくね」

 身体を起こし、訝しげな表情で続けた。


「部長さん、ハル君の事大好きだよね?」


 ピクッと、ティーポットを持つシジアンちゃんの指先が固まった。


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