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【第二部完結】俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~  作者: 岩重八八十(いわじゅう はやと)
第2部 最弱の八天導師

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56話 〝第四の賢者〟

「アリス、これを」

 取りだした黄金の魔石。ソレは、嘗ての大魔導を俺なりに再現したマジックアイテムだ。

「まだ調整中で俺には使えなかったんだけど、多分アリスなら使えると思う」

 そう言ってアリスの手に握り込ませた。


「これって……!!」

 魔石を受け取った瞬間、この魔導の正体をアリスは察した様だ。


「アリスにとっては嫌な思いをさせるかもしれない。それでも、協力してくれるか?」

「嫌なんかじゃ無いよ! これなら私にも……ううん、私だからこそ扱えるっ!!」

 アリスは魔石を握り締めた。


「詠唱は少し変えてある。いけるか?」

「うんっ大丈夫!」

 魔石に記録した情報を読み取り、アリスは大きく頷いた。

 そして魔石を掲げる。


「時間は稼ぐッ任せたぞ、アリスッ!!」

 言いながらアリスの一歩前に出て水弾から彼女を護る。


「任せて、ハル君ッ!!」

 アリスは一度深呼吸をして、詠唱を始めた。 


「『司るは鏡写しの夢』」

 黄金の魔石が形を無くし、小さな、手の平サイズの翼となってアリスの背に備わる。


「『嫌な〝現実〟を隠してあげるね。良い〝夢〟を見せてあげるね』」

 紡がれる言葉は、嘗ての再現。


「『夢と現の境界で、私が助けてあげるっ』!!」

 黄金に輝く小さな翼が微かに震え。優しい光が溢れ出す!


「『ドリーム・ディメンション』!!」

 光はアリスを中心に球状に広がってゆき、周囲と共に敵を飲み込んだ。


 それは、イーヴィルであったアリス最大の魔導、『ナイトメア・ダークマインド』を再現した魔法。数多の魔道士達の魔力で構成されていたそれと比べてばその規模は非常に小さな物だが、それでも〝夢を現実に〟〝現実を夢に〟変える権能は再現されている。


「む?」

 異変を感じ取った敵は、優しい光に包まれた黄金の空間を見渡して、ニヤリと笑みを漏らす。


「これは……ふふ、そういう事か。僥倖だな」

 意味の判らない事を呟いてにやけている敵に向けて俺は奇襲を仕掛けた。


「『虚像・第三閃光魔法ミラーズ・アルギュロス・レイ』!!」

 嘗てのアリスがそうしたように、詠唱や魔法陣と言った補助的な過程の全てを省略し魔法効果を直接発生させる!


 空から無数の光条が降り注ぎ、敵に殺到した。

 敵は足元に手を付くと魔法陣が展開される。


「『浄界』」

 魔法陣から円柱状の水が壁のように発生し、光条を防ぎ乱反射した。


 しかしそれは、今まで攻勢だった相手に、防御を取らせたという事だ!


 ――ここは押すしか無いッ!!


 俺はもう一つ魔石を取りだしてアリスに渡すと、敵に向かって猛進した。

 敵が展開していた『霧の結界』とやらに上書きするように『ドリーム・ディメンション』を発動したため、黄金の優しい光に包まれている空間は平坦で何も無い地形へと変化している。


「ハル君、使って!! 『ミラーズ・ミラージュ』!!」

 アリスが得意の魔法を唱える。『ミラーズ・ミラージュ』はあらゆる物体の鏡像を生成して敵を混乱させる魔法だ。


 しかし『ナイトメア・ダークマインド』——もとい、『ドリーム・ディメンション』の支配下においては〝実体を持った鏡像〟を生成する事が可能になる!


 アリスの助けによって、アリスに渡した魔石の複製が数百個、俺の前に出現した。

 この魔法の一つ一つは、〝破滅の光〟を極限にまで希釈した物。逆に言えば、こうやって〝数〟を揃えて束にすれば完全な〝破滅の光〟を再現出来るという事だ!


「『強度1範囲タイプB』!!」

 数を揃えても強度は1が限界だが、例えそれでも絶大な破壊力を誇るこの魔法を受けきれるものなら受けてみろッ!!


「『ルクス・エクラ』ッ!!」


 範囲タイプBは直線上に光を放出する、一言で言うなら〝極太ビーム〟の放出設定だ。

 光の氾濫が、水の円柱によって守られた敵を飲み込むッ!!


「消えて無くなれっ!!」


 この魔法は、ちっぽけな俺なんかの魔法じゃ無い。

 誰よりも強く、誰よりも気高い大魔導士の、

 世界に選ばれた正真正銘特別な人間の大魔導だ!!


 並の人間に防げる筈が無い。


 そう確信していた。だからこそ――


 氾濫する光の波を、同じく〝氾濫する闇の波〟が受け止め、驚愕した。

「なっ!?」

 あらゆる魔法・魔導を魔力レベルまで分解する筈の〝破滅の光〟が、せき止められ、相殺されていく。


「馬鹿なッ!? 〝原初の魔力〟なんだぞ!? そんな事あり得る筈が無いっ!!」

 確かに、属性相関的には光属性の魔法と闇属性の魔法が競合すると互いに相殺し消えさるのが正しい挙動だが〝破滅の光〟に関しては例外で、〝破滅の光〟に対して数百倍以上の闇の魔力が無ければ相殺する事は出来ないはずだ。


 それを、対等に、同等に真っ向から相殺するという事は――。


「まさかあれも〝原初の魔力〟だって言うのか!?」


 『ルクス・エクラ』に乗じて距離を詰め、追撃する予定だったが俺は前進をやめて様子を伺う。相手の正体は不明で底が知れないとは思って居たが、『ルクス・エクラ』が防がれるとは思って居なかったのだ。


 やがて光と闇の衝突が収まると、男のため息が聞こえて来た。

「やれやれ。やはり〝破滅の光〟は厄介だな。一番の障害になるのは間違い無いか」

 男は埃を払い、身なりを正す。


「まぁいい。目的の物は手に入った。この魔導を施設で解析すれば……」

 気がつけば男の手には魔石が握られていた。この戦いの中で何かしらの魔力、或いは魔法を採取したのだろうか。


 敵は俺に敵意を込めた視線を送り、言う。

「テラに伝えろ、炎天」

 それは、一つの宣戦布告だった。

 

「私は〝第四の賢者〟。お前達三賢者を超え究極魔導に至って見せる、とな」

 

 男はそう言うと踵を返し去って行く。

 彼の姿が見えなくなるまで緊張が続いたが、見失って暫くして漸く、ホッと息が漏れた。


「見逃して貰った、のか……?」

 『ドリーム・ディメンション』で作られていた黄金の光と、『霧の結界』で作られていた霧と虚像の街並みが消えていく。


 景色が徐々に浮き彫りになってきて、気がつけば俺とアリスは大通りのど真ん中に立っていた。周囲では何事も無かったかのように人々が当たり前の日常を過ごしている。


「……あぅ」

 緊張の糸が切れ、アリスは力無くへたり込んだ。


「あ、アリス!? 大丈夫か!?」

 心配して近寄ると、アリスは俺の足にしがみついてきて。


「うぇぇぇん!! 怖かったよぉぉぉ」

 思い出したかのようにアリスはまた泣き出して。

「ちょ、アリス、人目がっ、おーい!!」

 注目を集めてしまうが、足にしがみつかれたこの状態で身動きも取れない。

 結局俺はアリスが落ち着くまでなだめ続けるしか無かった。


     ◇  ◇  ◇


 後日、俺は〝第四の賢者〟を名乗る正体不明の男に襲われた事をティアロ校長に報告しに行った。一方的に預けられた言伝を伝える為に。


「〝第四の賢者〟、じゃと……?」

 校長は目を大きく見開いた。


「何か、その者の特徴は無かったか?」

「外見的な特徴は正直特にありませんでした。眼鏡をかけたちょっと痩せた普通のおじさん、って印象で。戦闘では水属性の基礎魔法を詠唱無しで連発してました。それから、『浄界』という固有魔法も使っていました」

 部屋に居合わせていた三賢者の残り二人、セレスティアル先生とジン先生は納得したように、しかし認めたくないように目を伏せて、言う。


「間違いありません」

「カイ君、だねぇ~」

 ティアロ校長は眉間に指を当てる。


「あやつもこの世界に……。あやつにも未練――〝願いがある〟のか」

「それから……強度1ではあるんですがアリスの力を借りて『ルクス・エクラ』を放ったんです。でも謎の闇魔法で相殺されました。そのカイさんって〝原初の魔力〟を宿していたんですか?」

 俺の報告に、校長は信じられないと言わんばかりに身を乗り出す。


「馬鹿な!? そもそもカイは水の単色だった筈じゃ!」

「我々が把握していない原初の魔力まで出現するとは……」

「厄介事が増えたねぇ~」

 三賢者達は一様に表情を曇らせる。


 が、ティアロ先生は少しだけ安心した笑顔を見せて。

「ともかく、あやつの次の動きに警戒せねばなるまい。報告、ご苦労であった。それから、よくアリシアを守ったな。やはりお主を八天導師に選んで正解だったようじゃ」

 と、お辞儀をした。


 恐れ多くて半歩引きながら応答する。

「いや、見逃して貰えただけですよ。下っ端って言われましたし」

「それでも多くの情報を持ち帰ってくれた。感謝する。今後何が起こるとも限らん。十分に警戒しておいてくれ。下がって良いぞ」

「は、はい。失礼しました」

 不穏な気配を残したまま、俺は校長室を後にした。

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