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【第二部完結】俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~  作者: 岩重八八十(いわじゅう はやと)
第2部 最弱の八天導師

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53.5話 ストーカーではありませんっ!

シジアン視点

「うふふ、えへへ」

 寮のとある一室で。ボクはベッドに寝転がり一枚の羽根を見つめてにやけていた。テーブルに座ってパソコンで動画を見ていた同室の女子生徒は呆れた様にため息を吐く。

「アーちゃんよ、また日がな一日中そうやってにやけているつもりか? それももう何度目になる? 流石に気持ち悪いぞ」

 ふわふわした夕焼け色のツインテールに、室内だと言うのに軍帽を被った少女がキリッと鋭く冷たい視線がボクへ向かう。


 ムスッとして言い返した。

「休日は日がな一日中実姉の動画を視てニヤけているユーちゃんに言われたくはありませんが」

 ユーちゃんは痛い所を突かれたと言わんばかりに視線を逸らした。言われた通り、今まさにアイドル活動している実の姉のライブ動画をパソコンで眺めていた所だ。


「八天導師、だったか。柄にも無く随分と嬉しそうじゃないか」

 ボクが眺めていたのは、八天導師である事を示す勲章だ。真っ黒な羽根飾りは八天導師の一翼、黒天の証である。


「当然です。八天導師は〝ボク〟を受け入れてくれた——ボクが〝ボク〟であって良い居場所なのですから。正直この学園にはマナトさんを始め闇属性専攻でボクよりも優秀な魔導士が揃っているので、ティアロ様にまた選んで貰えるとは思って居ませんでした。他のメンバーを見るに、本来の構成員を崩さずに再編した様ですね」

 ニヤけた顔を戻し切れないまま言葉を紡ぐボクの様子に、

 

「居場所、か。君がそこまで嬉しそうに言うと言う事は……またあの〝先輩〟絡みか?」

 ユーちゃんことユウサリはからかう様にニヤリと笑って問いかけた。


「……相変わらず鋭いですね」

「ハハハッ! 君の様子を見ていれば私でなくても判るモノさ」

 過去を思い返して瞳を閉じる。


「先輩が八天導師であったからこそ、ボクは〝ボク〟になれた……八天導師とはボクにとっては先輩と同じくらい大切な〝前提〟なのです」

 

 ボクは〝八天導師〟という組織に強い感謝を抱いて居た。嘗て存在した〝八天導師〟こそ、ボクが〝シジアン〟という人間になれた切っ掛けを作ってくれたからだ。


「ま、称号や地位に思い入れを持つ気持ちもわからなくも無い。私とて、今や無意味な肩書きだが〝魔導将軍〟の名に誇りを持っているし、嘗て同じく将軍だった先輩達との絆は強いモノだと思っている」

 ふと、ユーちゃんは思い出した様に首を傾げる。


「ところで先輩と言えば、アレはどうしたんだ? 確か前言っていたよな。『先輩に危機が訪れているから、無礼を承知で本体に登録させて貰った』と。〝異伝〟だったか? 登録者の日常生活から経験した事まで、全てを自動で記載していく書物。その登録は切ったのか? もう危機は去ったのだろう?」

 言われて、ボクは自分でも判るくらい露骨に目線を逸らした。


 無言の返答にユーちゃんは察する。

「……切ってないな、君」

 

 答えない。


 ユーちゃんはジト目で追撃した。

「意味も無くそんな魔法を発動し続けるのは、最早ストーカーと同じだぞ?」

「うぐっ」

 後ろめたさに思わず呻いてしまった。


「しかも他人の生活を読み耽って悦に入って無いだろうな? そうだともう完全に言い逃れの出来ないストーカーだからな?」

「ぐぅっ……!」

 ボクは先輩が〝イーヴィル・アリシア〟さんに攻撃されている事を悟った。けれど一人で戦おうとしている先輩の意志を尊重して影ながらバックアップできるように自身の本体である書物、〝異伝〟に先輩を仮登録した。


 幸い、ボクの横槍は必要無く先輩はアリシアさんを助ける事に成功したが、その後倒れた二人の救援をスムーズに行えたのもこの魔法によってボクが先輩の動向を常に見張っていたからだ。

 

 だからそこまでは、無意味な発動にはならなかった。

 

 …………が。

 

 今尚その登録を続けて居るのは、完全にボク個人の趣向によるものだ。

 元々は危険が無いように監視する為に行った施策だが……手の伸ばせる距離にあるものにはいけないと判っていてもついつい手が伸びてしまうのが人情じゃないですか?


 ボクは欲求に負けて、先輩という人間の〝人生〟を読み始めてしまった。

 なんて事は無い、先輩という人物の日常を書物という形でなぞる、それだけで最高の娯楽になったのだ。


〝異伝〟は現在だけではなく〝過去〟も記載するからボクが知らない先輩の姿を知る事も出来た。

 気がついたら読み耽っていた。だから、ユーちゃんの指摘はズバリ図星で。ストーカーに片足を突っ込んでいる自覚があった。


「踏ん切りがつかないなら私が監督してやろう。今、切りたまえ」

 ユーちゃんが席を立ち、ベッドのシジアンの方へ近寄る。


「い、いや、しかし、先輩は元々無茶をしがちな気風です! またいつ、突然危機的な状況に陥るか判りませんし、こうして予防線を張っておく事の意味はある筈です!」

 食い下がるボクの両頬を、ユーちゃんは引っ張った。


「脆い理論武装は辞めたまえ。本人に許可を得ているならともかく、無断で監視する予防線などただのプライバシー侵害だ。第一、可哀想だとか申し訳無いとか思わないのかね? 生活の全てを自動で記録するという事は他人に見られたくないような行為も君に筒抜けと言う事じゃ無いか」

「うぐぐぐ……」

「さ、今やるぞ。すぐやるぞ。本を出したまえ」

 ユーちゃんに詰め寄られ、観念したボクは渋々両手に抱える程の巨大な本〝異伝〟を取り出して先輩の――ファルマの登録を抹消した。


「まだ最後まで読んで無かったのに……」

 名残惜しそうに白紙になったページを力無く繰る。

「最後まで読む気だったのだな……」

 ユウサリはやれやれと肩をすくめた。


「しかしまぁ、判らんものだな。そこまで〝先輩〟に強い好意を持っているのならば告白してしまえば良いじゃ無いか。男女の恋愛とは秘め通すものなのか?」

 マナトさん以外男性の居ない国で育ったと聞くユーちゃんには男女の恋愛観があまり良く判らないらしい。だが、ボクが先輩に対して距離を取った姿勢を取るのはボクが特殊なだけだ。

 それくらいは自覚している。


「ボクは別に、先輩と恋仲になろうとは思って居ませんから」

「何故だ?」

「ボクには先輩を幸せにするだけの器量がありません。もっと相応しい人が先輩の前に現れる筈です。ボクの幸せは先輩の幸せ、その邪魔をするような事などしたくないのですよ」

 強い意志を宿した眼差しでそう言い切るボクに、ユーちゃんは苦笑いを浮かべた。

「君も面倒な性格をしているなぁ」


 そんなユーちゃんの頭上に手を伸ばし、

「帽子一つでコロコロ性格が変わるユーちゃんが言えたことでは無いと思いますがっ!」

 素早い手つきでユーちゃんのトレードマークである軍帽を奪い去る。


 するとキリッと鋭かった目つきがほんわかまん丸になって。

「あ、ちょ、勝手に取るなぁ~!」

 先ほどまでとは別人のような口調でユーちゃんが憤慨する。


「散々弄り倒されたお返しですっ!」

 ボクはユーちゃんの両頬を引っ張り返して言った。

「ひょもひょもあーひゃんがふほーはーふるはらひへはひんへひょ!!(※訳・そもそもアーちゃんがストーカーするからいけないんでしょ!!)」

「ストーカーではありませんっ! 多分辛うじて!!」

 ボク達はベッドの上でじゃれ合うように互いの顔を引っ張りあうのであった。


 くだらない喧嘩に見えるかも知れないけれど……同じ年頃の友達とこうやって触れあうというのはボクにとってはとても新鮮で。ユーちゃん――ユウサリは良いルームメイトだと思ってる。

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