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【第二部完結】俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~  作者: 岩重八八十(いわじゅう はやと)
第2部 最弱の八天導師

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52話 人手がッ!! マジで足りんのじゃ!!!

 校長室に入ると下級生から最上級生まで、複数人の生徒が集まっていた。そうそうたるメンツでとりあえず優秀な人間が集められている事を直感する。俺がそんな人間に交じって呼び出されるなんて考えられない。

  

「お邪魔しました」

 ぺこり、と流れるようにお辞儀をして扉を閉め、

「いや、この部屋で合っている。お前が最後だ。早く中に入って貰わないと困るんだが」

 ようとした所に、がっとイクリプスさんの足が扉の間に差し込まれ鋭い視線を向ける。身長差が三十㎝近くあるため威圧感が凄い。


「え、ええ……何かの間違いでは……場違い感半端ないんですけど……」

「異議申し立ては後ろに居るティル爺に直接問うがいい。俺は与えられた指示に従うまでだ」

 と言われ、

「へ、後ろ?」

 と振り向くと、そこにはこの学園の校長兼理事長、賢者ティアロ先生が立って居た。


「うむ、丁度揃ったようじゃな。ではこれから用件を話す」

「えっ、えっ、えぇぇ……」

 結局俺はそのままひょいっと校長の小脇に抱えられ校長室へと連れ込まれたのであった。


 八天導師とは。嘗てティアロ校長が世界の適正な魔法使用と運用管理を行う為に創設した私営組織で参加者達は各々が取り持っている研究への設備、材料、費用を援助する代わりにティアロ校長が指示する職務、主に魔法を悪用した魔導の取り締まりや、暴走した古代魔法の削除・討伐を行ってきた。


 と、校長が説明する。


「その八天導師を、この学園に改めて開設したいと思い皆に声をかけたのじゃ」

 話を聞いて、ひとまず胸をなで下ろした。どうやら少し前の事件についての詰問、説教の類では無かったようだ。


「つまり、私達にティル爺が抱えている雑用を押しつけようという魂胆ですわね?」

 ルクシエラさんがティアロ校長を糾弾するように視線を突き刺して言う。すると校長は、

「ワシとて生徒に負担をかける事は本意では無い。じゃが——」


 俯き、手の平を握り込み、僅かに震える。そして抑圧された感情を放出するように叫ぶ。


「人手がッ!! マジで足りんのじゃ!!!」


「現在、総生徒数70名に対して教員数が十五人。クラス担任だけですらぎりぎりの状況、ですか」

 シジアンは、いつも抱えている巨大な本のページを繰りながら補足する。そんな情報まで記載されているとはあの本は一体なんなんだろうか。


「爺さんが気に入った奴ら手当たり次第入学させるからそんな事になるんだぜー?」

「しょうがないじゃろう!? ワシが知らん間に増えてる生徒も居るのじゃぞ!?」

 それは管理者として大問題なのではないか? という疑問を誰もが抱いたが年甲斐もなく涙を浮かべている校長の姿に思わず言葉が引っ込んだ。


「ともかく、現状ワシは学園の管理で手が回らん。じゃが、周辺諸国からはイーヴィルの討伐・魔導遺物の調査・魔導不正使用組織の検挙などの依頼が押し寄せているのじゃ」

 魔導師の問題は魔導師しか解決することはできない。だが、優秀な魔導師の多くがこの学園に集まっているため一般人では対応しきれない高度な問題はティアロ校長の元へ依頼としてやってくるのだという。


「今まではワシの弟子であるアイル、イクス、ルーシーの三人に分担して対応して貰っていた。じゃが、最近の物量は三人でさばける許容を越えている。再編する八天導師にはこの仕事を引継ぎ、一人当たりの負担を軽減して貰いたいのじゃ」

 校長の説明を受け、ルクシエラさんの表情が柔らかくなった。


「つまり八天導師に参加したとしても私としては今までと状況が変わらないどころか負担が減るという事ですわね?」

「そういう事じゃ。もちろん、これは本来ワシが片づけるべき任務になる。更に、内容によっては身の危険も十二分に起こり得る。故に、正式な対価として相応の報酬を用意するつもりじゃ。また、任務による欠席は該当時限の出席単位として扱う」

 学園の活動とは別に完全に独立した組織として任務が課せられる代わりに、報酬をもらえる上に授業が免除になる、という学生には魅力的な条件が提示される。


 だが、その内容に対しておずおずと手の平をゆっくり下から伸ばして発言する者がいた。

「あ、あのぅ。それでも、私たち学生が高クラスのイーヴィル討伐やその、犯罪者たちの検挙を行うというのは危険なのでは……」

 至極真っ当な疑問である。それに対して校長は真剣に、落ち着いた様子で答えた。


「その通り、確かに危険じゃ。じゃが、ここに集めた者達はこの学園の中でも特に優秀で、この案件を任せるに相応しい実力を持つとワシが判断して呼びかけた。君たちならば十二分に役目を果たしうると信頼しておるのじゃ」

 学園の長たるティアロに、冗談や建前ではなく真摯に信頼を向けられて、悪い気がする者はそういない。


 ――……事、この場においては約一名を除いて。


「なるほど、話は分かりました」

 うんうん、と腕を組み深く頷く。俺は妙に自信と納得に満ちた態度で言う。


「ここに集められた生徒は九人。八天導師という名称からして校長が優秀な人材として選出なされたのは八名」


 そう、イクリプスさん、ルクシエラさん、アイルさん、イルゼルナさん、ドライズ、レン、アーシェさん、シジアン、そして俺とこの場には九人の生徒が居るのだ。


「つまり俺は部外者、別件で呼ばれたと言うことですね。外で待機してます」

 と勝手に納得し、流れるように退出しようとしたところを、

「じゃからお主もメンバーじゃと言っておろうが」

 むんずと首根っこを校長に捕まれつり下げられる。


「いやいやいや、校長なら俺の成績知ってるでしょう? 中の下ですよ?? 優秀とかおかしいじゃないですか」

 ぶらーんとぶら下がったまま抗議するが。


「紙面の成績だけを基準に選んだ訳ではない。お主がたった一人でクラス3相当のイーヴィルを討伐したこと、ワシが知らぬ訳が無かろう?」

 校長のその言葉に、俺は目を丸くし言葉を詰まらせた。


「なっ」

 同時に、他の面々がざわつき始める。

「へぇー。見かけによらずやるねぇー。さすが姐さんのお気に入りだー」

 アイルさんが見直すように笑い、


「ふふんっ、もっと誉めてもいいのですよ?」

 ルクシエラさんが嬉しそうに無い胸を張って、


「相変わらず親馬鹿ならぬ師匠馬鹿なのだな、君は」

 その脇腹をイルゼルナさんがつつき、綺麗にカウンターの関節技を喰らって。

 とにかく、俺に注目が集まってしまった。


 だが、俺は冷や汗を浮かべる。校長の評は決して「真っ当な真実」とは言えない。一人でイーヴィルと倒した、というのはアリスの一件について言っているに違いないが、俺は自分に出来る全ての魔導を尽くして戦い、完全敗北したのだ。勝負を決めたマジックアイテムは他人の力の集約。即ち、俺の実力ではない。


 それをさも俺の手柄のように認知されることは非常に居心地が悪かった。

「ちが、俺はっ――」

 思わず反論しようとする俺の口を、校長が押さえ封じる。

「むぅ!?」

「今、この場で多くは語るまいて。異議申し立てはきちんと後で聞き受ける」


 校長の言葉に、口を封じられながら俺は顔をしかめる。今この場で訂正しなければ、意味がない。後から校長にだけ真実を伝えようとも、ここに集まった他の生徒達はすでに解散しているだろう。それでは誤解を解く事が難しい。


 そうなってしまえば、ここに集まる「本当に優秀な魔導師」達に「同じく優秀な魔導師」として見られてしまう。


 世間からの評価が高いこと、それは喜ぶべき事だろうか? いや、違う。それが努力や才能に裏付けされた真実の評価ならともかく。単に運や偶然、他人の力だけで達成された結果を誇張されて認知される事はデメリットでしかない。


 なぜならそんな張りぼてのような評価などいずれボロが出て真実に気づかれる筈だからだ。自身が本当はそんなに優秀な人間ではないと。

 

 俺の評価が勝手に浮き沈みするだけなら問題はない。だが、それに伴って、ルクシエラさんの評価まで上下してしまう。


 ルクシエラさんに余計な迷惑はかけたくない。俺は必死にもがいたがティアロの手をはずす事は出来なかった。


「当然、割り振る任務の内容も留意する。実際、ここに集まった者達は各々単独で相応のイーヴィルと対峙し討伐を果たした経験のある者が大半ではあるが、だからといって平時から単独でクラス3イーヴィルと討伐せよ等といった無理難題を押しつけるつもりは無い。そのあたりは基本的にワシ自身やイクス達の領分として片づけるし、どうしても討伐が必要な場合は三人以上のチームで動いて貰う」

 もがく俺を押さえ込みながら、校長は説明を続けた。


「そして、今この場にいる九人じゃがイクスは八天導師には数えん。イクスには独立した存在として、別件の仕事を引き受けて貰う。……ややほの暗い内容のな」

「なるほど、今まで私たち三人が押しつけられてきた課題を改めて整理し、比較的簡単なもの、単純なもの等をこちらに、それ以外のちょっとした問題がある者をイクスに任せるという事ですわね?」

「その通り。イクスはワシの右腕として、そしてお主等八天導師達はワシの左腕として働いて貰いたい。八天導師全体の統括を行うリーダーにはアイルを指名する。そしてサブリーダーにルーシーを指名。組織の運用方針等は二人で相談し、最終判断はアイルが下すように」

 だんっと床を踏みつける音が響いた。


 つい先ほどまで穏やかな表情をしていたルクシエラさんが突如苛立たしげに強く床を踏んだのだ。

「ちょ、待ちなさいな!! なんで私がアー坊の下なんですの!? 年功序列じゃありませんわ!!」

 ティアロの弟子としての遍歴は、ルクシエラさんとイクリプスさんの方が長いらしい。それなのに立場が逆転する事に憤りを覚えたようだ。


 が。そんなルクシエラさんの訴えを校長は一蹴する。

「そんなもん理由は簡単じゃ。お主のようなじゃじゃ馬に権力を与えたら組織を私有化して乗っ取るじゃろうが。果てにはワシの任務よりお主個人の研究に人員を裂きかねん」

「うっ、ぐ、それは……」


 図星をつかれたルクシエラさんは半歩のけぞる。

「お主達の負担軽減の為に設立するとは言え、お主の小間使いを増やす為に作る訳ではないのじゃ。故にリーダーはアイルが相応しい。これでいて真面目なやつじゃからな」

 普段から奇声を発して上空を駆け回る奇行が目につくが、師匠である校長がそう言うのだからアイルさんは真面目な人間なのだろう。


「概要は以上じゃ。ここからは、組織参加に関する個人面談を行う。何度も繰り返すが決して報酬がいいだけのアルバイト、なんてものではない。どうしても危険が付きまとう仕事じゃ。辞退する事を止めはせん。それを含めて、各人の意見を聞きたいと思っている。——まずは、この、言いたいことが多すぎると言わんばかりに口をもごもごさせているファルマからの」

 

 校長は俺をつり下げたまま、校長室の扉を開いた。

「面談は横の応接間で行う。順番に呼ぶので待機していてくれ」

 そして、俺をつれてすぐ横の応接間に入るのであった。


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