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【第二部完結】俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~  作者: 岩重八八十(いわじゅう はやと)
第2部 最弱の八天導師

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51話 八天導師を再編する!!

 そこには、戦場があった。

 広い部屋に並べられた電子機器とデスク。山積みになった書類。駆け回る職員達は広さの割にとても少ない。


「テラぁ~。ウチのヨルちゃんが一年の野外実習先でイーヴィルに絡まれて討伐してるってぇ。あの子次の時間二年生の光魔法基礎の担当だからぁ代替して欲しいってぇ~」

「判った、二年の授業にはフォノンを向かわせる」

「ま、マスター!? 私まだ四年生の光魔法応用の小テストを添削しなければならないのですが!!」


 横から、ばっと手が伸びてくる。

「光魔法なら多少知識がある。解答はあるのだろう? 添削程度ならば問題無いこちらに回せ」

「ユウキ先生大丈夫ですか? 仕事を抱え込みすぎでは……」

「俺に休息は必要無い。振れるモノは全て回せ。だが、流石に身体は一つしか無いからな。限度はあるぞ」

 

 そこへ、鳴り響く電話の音。

「ティアロ様、ルクシエラさんがまた魔法の巻き添えで公共物を消滅させたらしく損害賠償請求が届いています」

「またか!? いつもの手続きでワシの口座から賠償しておいてくれ!!」

「ティアロ様。自治体からクラス3イーヴィル出現の報告と討伐依頼がきています」

「イクスかアイルを向かわせるのじゃ!」

「マスター。お二方とも既に出払っております」

「な!? だ、誰か手が空いている者は居らぬか!?」

 この学園では日常茶飯事な光景だ。


     ◇  ◇  ◇


 そんなある日の事。

「……ジン、ティア、ユウキ。決めたぞ」

 ふと、両手を組んで、眉間に寄せた皺へ親指を宛がっていたティアロは立ち上がる。

 名を呼ばれた三人には、何事かと意識は向けつつも手元の仕事を片付けることに精一杯で目線を送る事はしない。だが……。


八天導師やてんどうしを再編する!!」

 テラが続けざまに発したその言葉が聞こえると同時に、三人の指先がピタリと止まった。

 そして、ゆっくりとティアロの方へ顔を向けて。

 苦渋の決断の意思が表れた苦い表情のティアロの様子から真剣さを悟り。


 ――……三人同時に首を傾げた。


「八属性が関係してるのかなぁ?」

「聞いた事ありませんが、再編という事は一度組んだのですか?」

「何だ、その八天某とは?」

 そんな腹心達の反応をみてティアロはあっと声を漏らし、


「そう言えば以前はお主等の死後に作った組織じゃった……そりゃ知らんわな」

 と頭を掻いて。


八天導師やてんどうしとは、八属性からそれぞれ一名ずつを選出し構成される精鋭魔導士の集団でワシが直轄する魔導管理組織の事じゃ」

「そんな組織作ってたのぉ? でもなんで今は居ないのさぁ。お仕事すっごい大変でぇネコの手も借りたいぐらいなのにぃ」

 ジンが小柄な上体を椅子の上でゆさゆさ揺すって頬を膨らませテラこと、ティアロに不満げな視線を送る。


「構成メンバーに問題があってのぅ。〝学園〟という雛形の悪影響がもろに出てしまっておるんじゃ」

 ティアロの言葉を聞いて、ジンは何かを察した様に頷いた。


「あ~、判ったぁ。要するにぃメンバーの殆どが〝生徒側〟に()()されちゃってるんだねぇ」

「うむ……。生徒に負担をかける事は出来る限り避けたかったじゃが……ジンの言うとおりネコの手でも借りたい状況じゃ。最早割り切るしかあるまい」

 そしてティアロは電子端末を操作するのであった。


     ◆  ◆  ◆  


 その日は休日だった。早朝、携帯端末に学園からメールが届いていて確認してみると文面には「午前十時校長室に訪れるように。重要な案件なので詳細はそこで伝える」というものが。

 想像してみて欲しい。そんなメールを朝っぱらから目にした学生の心境を。


「あ、あわわ、あわわわわ」

 メールを確認した手が震えていた。だってそうだろう。まさかの休日呼び出し、しかも校長室だ。どう考えても説教としか思えない。しかも、俺はつい最近ちょっとした事件を巻き起こした所。心あたりありまくりなのである。


 それだけでも大変なのに。俺の心音はどんどん激しくなっていく。首筋の裏がすぅっと寒くなって嫌な汗が止まらない。


 何故なら……俺は前日、酷い夜更かしをした。漸く就寝したのは午前四時。

 そう。俺は今、起床したての寝ぼけ眼でメールを確認し。そしてその内容に戦慄し、更に現在時刻に絶望したのだ。


 午前九時五十分。


 もう、あと十分で指定時間なのである。

「うわあああああ!! もっと早く連絡してくれよぉぉぉ!!!」

 二段ベッドの下段から転げ落ちるように跳び出す。慌てて制服を身に纏い、もうボタンを絞めるのもめんどくさがって紅いボサボサの寝癖もそのままに寮室を出て。


「着替え最短で五分ッ!! 学校までダッシュで三分!! 校長室は最上階、階段駆け上がってえぇぇっと、だいたい四分くらいって間に合わねぇぇぇ!!!」

 と叫びながら寮の廊下を駆け抜けていった。


 仮に、もしこれが俺の危惧しているような説教話なら。


 ――……いや、そうじゃないにしても教師からの呼び出しを遅刻するのは問題なのだが、説教だとするともう最悪だ。心証悪化というレベルでは無い。教師への宣戦布告、喧嘩を売ってるレベルであろう。


 ただでさえ一悶着を起こして立場が悪いのにこれ以上追い詰められるわけには行かない。

 何より問題なのは、俺の失態でルクシエラさんに迷惑が掛かってしまうことである。ルクシエラさんのコネによって入学した身で問題を重ねればその顔に泥を塗ることになる。


 それだけは絶対に避けたかった。起こってしまった事を今更どうにも出来ない。ばれてしまったのならば事件を引き起こしたことは全面的に認めつつ、とにかく頭を下げるしか無いのだ。

 上り階段を数段飛ばしで無理矢理よじ登っていく。腕時計に目を落とせば時間は九時五十九分。まだ、まだギリギリ間に合う。学園の時計と腕時計にある数十秒の誤差を考えれば辛うじて遅刻判定は回避出来る筈だ!!


 乱れた服で息を切らし、横スライディングで辿り着いた校長室の前。

 あからさまに慌てた様子で入室しては、ギリギリでやってきた事がばれてしまう。

 俺は深呼吸を数回行い、手ぐしで髪を溶かしつつ制服を整えた。落ち着くと、これから問い詰められるであろうという予想が緊張を掻き立ててくるがもう時間的猶予は無い。


 意を決して扉をノックする。

「四年A組、ファルマ。失礼します」

 俺は扉を開いた。


 そして――


「あら、やっぱり最後は貴方でしたの」

「あ、ファルマも呼ばれたんだ……って、何そのだらしない格好。さてはさっきまで寝てたな?」

 聞き慣れた声が二つ。


 そして、上級生から下級生まで、計八対の眼光が俺に集中する。


 最上級生学園主席、アイルを筆頭に。

 最上級生、イクリプス。

 最上級生、ルクシエラ。

 五年生、イルゼルナ。

 同級生、ドライズ。

 同級生、レン。

 同級生、アーシェ。

 下級生、シジアン。


それぞれ、優秀な人材が集まるこの学園の中でも特に秀でた能力を持つ魔道士達。

 そんな彼らの視線を感じ、そしてルクシエラさんが零した〝最後は貴方〟という言葉の意味を即座に解釈し。俺はモノの数秒で結論に至った。

「すいません、部屋間違えました」


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