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【第二部完結】俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~  作者: 岩重八八十(いわじゅう はやと)
第1部 俺は主人公になれない

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49話 忍者かよ

馬鹿な、馬鹿なっ、馬鹿なぁッ!!

 人の気配なんて無かった筈だッ!!

 それが、いつの間に背後を取られていた!?

 悔しさに奥歯を噛みしめ。


 処刑宣告を待つだけの罪人の気持ちで。

 せめて最期に、俺を殺す事になる者の顔を見ようと。

 涙ながら、振り返る。

 そこに居たのは……。


「お困りですか? 僕で良ければ力になります」

 

 柔らかく包み込む様な優しい笑顔を浮かべた、黒髪の少年。

 クラスメイトのマナトだった。


「っ、く、はーッ、ふーッ」

 一瞬で身体の力が抜ける。そして呼吸を忘れて居た事を思い出し、貪るように息を吸い込んだ。ひとまずは、即死確定であった女子生徒では無かったのだ。


「脅かすなよマナトッ!!」

 と、叫ぶと目立つので小声でマナトに訴える。

「すみません。退っ引きならない様子に見えたので、多少驚かせる事になっても早めに接触するべきだろうと思って」

「はーッ、はーッ、ホントお前ってヤツは……」

 

 四年A組。闇属性専攻、マナト。

 人助けが趣味で、毎日ボランティア活動に勤しむ聖人だ。

 そして、開口一番俺の事情も聞かずに〝力になります〟と来たからには。

 

 コイツは敵じゃ無い。地獄にもたらされた、蜘蛛の糸……!

 マナトは改めて、俺を見る。

 そして視線を俺の手へ移し。


 更に寮の方を向いて。

「なるほど。恐らくは、風で飛ばされてきた女子生徒の下着を偶然手にしてしまい処遇に困っていたという事ですね」


 ものの数秒で一切の間違い無く俺の状況を察してくれた。

 神か。こいつは。


「百二十点だよ……」

「ありがとうございます」


 マナトは基本的に影が薄い——というレベルでは無く〝日常的に気配が無い〟。

 全神経を集中させていたのに俺が背後を取られたのも納得だ。


「でも、すげぇ良いタイミングで現れたな……」

 ここで出会ったのがマナトでは無かったら。

 そう考えると身体が震える。

 この偶然の出会いに感動しかけていた俺へ、マナトは笑顔を崩さず答えた。


「〝困っている人の波動〟を感じたので」

「ホンット便利なセンサー持ってんなお前等ッ!?」

 なんか、つい最近別のクラスメイトから似たような事を言われた気がする。


「さ、このまま立ち往生していても仕方がありません。本題に移りましょう」

「あ、ああ……」

「モノがモノですので、このまま落とし物ボックスに届けるのはいささか問題があります」

 まぁ、確かに。


 仮に自分のパンツが落とし物ボックスに並び衆目に晒されるというのは相当気恥ずかしいだろう。更にそこから回収する勇気は俺にはない。

「ここは、女性方のネットワークに任せる事にしましょう」

「どういうことだ?」

「この下着の持ち主を特定する事自体はそこまで難しくはないのです」

「マジかよ。お前何者だよ」

 やっぱり忍者なんじゃないか?


「ですが、それだと僕が下着の持ち主を〝知ってしまう〟事になるので、やはり異性にこういった情報が漏れる事は女性としては避けたい筈です」

「じゃあどうするんだ?」

「二階以降の適当に選んだ部屋のベランダにこの下着を設置します」


 ウチの寮は一階が男子寮、二階より上が女子寮になっている。つまり、適当な女子にこのパンツを見つけさせる事で女性内のやりとりで落とし主へ渡して貰おうという事か。


「でも、どうやるんだよ? 投げるのか?」

「いえ、僕が壁伝いに登ろうかと」

「忍者かよ」

 そういえば前も教室の天井に張り付いていた事があったので遂に言って見た。

 普段気配が無い事も相まって、マナト忍者説が俺の中で産まれるが。


「良く言われますが、忍者ではありませんよ」

 良く言われるんだ……。

 俺が呆れていると、不意にマナトからある物を手渡された。


「すみません、これで目隠しして貰えますか?」

 どうやら即興でマテリアライズしたバンダナ的なモノらしいが、待ってくれ。


「目隠しすんの!?」

「はい。女子寮を覗くわけにはいきませんので」

「でもお前壁登るんだよな!?」

「この辺りの地形は完璧に把握しているので問題ありません」

 なんだその台詞。かっこよすぎる。チート系主人公かよ。


 マナトの要望通りしっかりときつく目隠しをしてやった。


「では」


 準備が整うと、マナトは迷いの無い動きで寮の壁へと近づき、

 謎の技術で貼り付いて、ヤモリのように壁を登って行く。


 しかもこれがまた謎の技術で(恐らく光か闇系統の魔法だろうが)壁の色と同化しておりかなり意識的に目を向けないと姿を捕捉できない。

 姿をくらまし、隠密に壁をよじ登るその姿は特殊部隊か何かにしか見えない。


「やっぱり忍者なんじゃ……」

 ともあれ、マナトのお陰でこの一件も無事解決だ。

「一時はどうなるかと思ったぜ……」

 あとは壁を登るマナトを見守るだけ。


 いやー良かった良かった。

 と、安心したその時。


「なッ!?」


 マナトがいよいよ二階の壁に手伸ばすと、黄色い魔法陣展開する!

 今のマナトは視覚を封じている。俺は思わず声をあげた。


「マナトッ!! 迎撃魔法だッ!!」

 マナトの対応は早かった。

 俺の声が届くのとほぼ同時に壁を蹴り宙に身体を投げ出す。

 対して、魔法陣の方では金属の塊がマテリアライズされていた。

 腕のように長い支柱とその先端に銃口を備えた迎撃兵器が、三つ。


「魔導兵器が三つお前を狙ってるッ!!」

 空中で身を捻りながらマナトは目隠しを解く。

 銃口から一閃、光の線が発射された。


「『グリード』ッ」

 マナトの腰から黒い霧のようなモノが発生し、空の一点に集うと浮島のような塊となった。マナトはソレを強く蹴りつけ、空中での軌道を変える。

 直前までマナトが居た空間を閃光が通り抜けていった。


「次が来るぞッ!!」

 攻撃を回避したマナトを挟み込むように、アームを伸ばした二つの魔導兵器。

 それぞれから光線が照射され、交差するようにマナトを狙う!

 

 黒い霧がマナトの足元に集い、マナトは再び跳躍。

 更に跳躍した先でもう一度空を蹴り、見事な空中多段ジャンプによって一気に魔導兵器へ距離を詰め。黒い霧が、今度はマナトの両手にそれぞれ集うとそれは二振りの剣を形取った。


「『二刀裁断』ッ」

 振り下ろされる二つの刃。

 しかし、その動きとは裏腹に。

 三つの魔導兵器に幾つもの筋が走ったかと思うと、

 次の瞬間にはバラバラの機械片となって爆発した。


 そのままマナトの身体は自由落下し、俺の前に着地する。

「警告、ありがとうございました」

「いや、流石の身のこなしだったよ。でも迂闊だったな……まさかあんな魔法が仕掛けてあるなんて」

 これではパンツをベランダに設置する事が出来ない。


「別の方法を探すしかないか……」

 ため息と共に頭を掻くが、マナトは笑顔で首を横に振るった。

「その必要はありません」


「へ?」


「最初の攻撃を回避する際にあの下着を最寄りのベランダに投げ入れてから離脱しましたから」

「あの一瞬でそんな事までやってたのか!?」

 この男、本当に凄まじい。


 普段の戦闘においてマナトは基本的にナギさんのサポートに回っている為目立った戦果を上げることは少ない。けれど、今の一連の動きを見ても、ナギさんに匹敵するほどの身のこなしで、相当な戦闘能力を有している事は一目瞭然だった。


 ともあれ、一件落着……。

 と行くわけもあるまい。

 あれだけ派手に騒いだのだから。


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