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【第二部完結】俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~  作者: 岩重八八十(いわじゅう はやと)
第1部 俺は主人公になれない

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46.5話 『服だけ溶かすスライム』ぅ!?

俺はすぐに玄関を飛び出す。

「お前も来いっ!!」

 咄嗟の判断で、明らかに落ち込んでいたドライズの腕を引いた。


「な、何、なんなのさっきから……?」

 二人して寮の廊下を走る。


「アイツを消さないといけないんだ!!」

 ドライズの腕を引きながら、もう片方の手で目の前を逃走するピンク色のスライムを指差した。するとドライズは首を傾げる。


「何あれ?」

「『服だけ溶かすスライム』ッ!!」

「『服だけ溶かすスライム』ぅ!?」

 ドライズは走りながら、色々悟った様にため息を吐く。


「深夜テンションが高じて作ったは良いものの、冷静になって考えて見たら凄く恥ずかしいモノを作ってしまったと気付いて無かった事にしようとしたら逃げられたんだね」

「さっすがドライズ!! 憎たらしいほど完璧な推察だよ畜生!!」

 まだドライズだからダメージは少ないが、それでも僅かに涙ぐむくらい恥ずかしかった。


 不意に、俺達の前に人影が現れる。

「ちょっと、あんた達! 休みだからってはしゃぎすぎよ!!」

 進行方向の先、廊下の奥。リーゼがご立腹な様子で仁王立ちしていた。

 

 ――……遂に女子生徒と遭遇してしまったぁああああ!!!

 

 内心で絶叫しつつ。極限まで加速された思考が最速で次の一手を導き出す!!

「わー! リーゼに危険が迫ってるー!!(棒読み)」


 ガッシャァアアアン!!


 俺の渾身の棒読み台詞が言い終わるのとほぼ同時に廊下の窓ガラスがぶち破られた。

 そして外から、雨でずぶ濡れになったアイルさんがリーゼの前に割り込み、


「無事かァァリィィィゼェェェ!!」

 そのままリーゼを庇うようにギュッと抱き締める。

 逃走していたスライムは、突然目の前に現れた障害物に動じず、リーゼを庇うアイルさんの背中を器用に踏み台として跳び越えていった。


 その際、スライムが触れた部分のアイルさんの服がバッチリ溶解されて穴あきになってしまう。

 俺は走りながらすれ違い様に、


「すいません後で弁償します!!」

 とだけ伝えてその場を通り過ぎた。

「な、なんなのよ一体……」

 状況について行けず、ぽつんと取り残されるリーゼの呟きが遠くに聞こえた気がした。


「ああ畜生!! どうして失敗作に限ってバッチリ仕様通りに動くんだよ!!」

 スライムがアイルさんの服を溶解した事を思い返す。


「あ、でも人工知能なんて組み込んでないから意志を持ってるのは仕様外かぁ!?」

「言ってる場合じゃ無いでしょ!? あんなの放置してたらセクハラと器物損壊で訴えられるよ!?」

「ソレは俺が一番良く判ってんだよぉぉ!!」

 寮の廊下はそこまで長く無い。


 スライムは遂に廊下を抜けて、寮のエントランスへと辿り着いてしまった。

 スライムはそのまま寮の外へ出てしまう。


「やっば!?」

 ただでさえ不味い状態なのに街中に放ってしまったらもう収拾が付かない!!

 俺達も慌てて後を追った。


 すると。


 スライムはグランドの方に出ると、その動きを止める。

「遂に観念したか……!」

 焦りから好機到来と気がはやる俺を、ドライズが静止した。


「待って待って! あれなんかどんどん大きくなってない!?」

「ああ? そんな事あるわけ——」

 ドライズの指摘を受けて改めてスライムの様子を伺う。


 ざあざあと叩き付ける豪雨の中で。

 スライムは明らかに目に見える速度でムクムクと膨張していた。


「雨を吸収してるぅっ!!?」


 もしかしてコイツは初めからこれを狙って外を目指していたとでもいうのか!?

 どんどん巨大化していくスライムが、のっそりとこちらに寄ってきた。

 既に3メートルくらいの巨体になってしまっている。


 もしかしてもしかしてこうやって物量を高めて俺に反逆するつもりだった!!?

 スライムの行動を漸く察した俺は、それでもニヤリと悪い笑みを浮かべた。


「所詮は脳みその無い軟体生物だな!! いや生物を作ってたつもりはねぇんだけど!!」

 俺はドライズをずいっと前に引き寄せる。


「逃げられたら困るから慌てていたが……向かってくるなら好都合!! ドライズ!!」

「な、何?」

「『ルクス・エクラ』で吹き飛ばしてしまえ!!」

「あぁ、そのために僕を連れて来たんだね……」

 この期に及んで他人頼りなのは忍びないが、この好機を逃す手は無い!


「ごめんね、スライム君。『強度5、範囲タイプA』」

 ドライズが氷の細剣をマテリアライズし、スライムを差す!

「『ルクス・エクラ』ッ!!」

 刹那、白く眩い光の奔流がスライムを中心にドーム状に広がっていく!


 その威力は、本家大本のルクシエラさんが放つモノよりやや劣るが、それでも豪雨をもたらしていた雨雲を吹き飛ばし、ここら一体だけを台風の目のように晴天へと変える程だ。


「さっすが主人公!」

 俺は勝利を確信して拳を握りしめた。

 次の瞬間。


 収まっていく光の中から、巨大な影が飛び出す! 

「はぷぅっ!?」

 〝破滅の光〟の奔流から飛び出して来たスライムはそのままドライズを飲み込んでしまった。


「ドライズゥゥゥ!!?」

 ドライズを取り込んだスライムはゆらり、とこちらの方を向いて。


「あっ――」

 俺の方へ大きく跳躍する。

 周囲に影、走っても落下位置から逃れる事は出来ない事を一瞬で悟り。

 俺は最早笑うしかなくて潔くスライムに包み込まれた。


 視界がピンク色の半液体に染まる。

 気道からヌルヌルした物体が侵入してきて気持ち悪い。もっとも、攻撃目的で作っていないので安全性に配慮して呼吸できる仕様だ。 

 

 捕まってしまったモノはもうしょうが無いので、俺はあぐらを掻いてどうして破滅の光が効かなかったのかを考察する。

 そして、スライムの中で手を打った。


 このスライムはそもそも〝破滅の光〟を利用して作り出したマジックアイテムだ。そのため構成魔法陣の中には〝破滅の光〟制御機構が入っている。宿主に似てじゃじゃ馬な魔力である〝破滅の光〟を暴走させない為にその機構は想定よりも何倍も丈夫に、耐容量上限を高く設定してしまったのを思い出して納得した。


 ああ、そら効かないわ。

 考えている間にも服が溶けていく。


「ばばべべぇぇ!!(助けてぇぇ!!)」

 すぐ近くを漂うドライズが半狂乱で叫んでいた。そう言えばドライズは水中恐怖症だった。

 とはいえ、俺に出来る事はもう無い。


 スライムなので当然水属性だから得意の自爆魔法も相殺されてしまう。 

 このまま服を溶かされスライムに取り込まれたまま醜態を晒しつつスライムが暴れ回るのをスライム視点で眺めるしかないのか?


 完全に詰んだと思われた、次の瞬間。

 凄まじい衝撃と共にスライムの身体が爆ぜ散った。

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