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【第二部完結】俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~  作者: 岩重八八十(いわじゅう はやと)
第1部 俺は主人公になれない

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46話 俺はなんてモノを作りだしてしまったんだ

「ふふふ……」

 早朝の事だ。俺は部屋の電気を付けず机のスタンドライトだけを灯して何処か壊れたように不自然な笑みを浮かべていた。


「イィィィィィヤッホォォォォォォ!!! フリィィィダァァァァァッンッムッ!!!」 

 日の出を告げる先輩の鳴き声が、仄暗い寮室にまで聞こえてくる。他に、ざあざあと大雨が叩き付ける音が聞こていた。雨の日でも律儀に鳴き叫ぶのだからアイルさんは案外真面目な人なのかもしれない。


 ピシャン、と稲妻が閃く。


 一瞬だけ窓ガラスに俺の顔が怪しく映った。目の下にクマが出来ている。当然だ。眠らずにぶっ通しで作業していたのだから。


「遂に完成してしまった……!」

 思い立ったのは二日前の夜。連休直前の事である。

 折角の連休なのだから大がかりな事をしてみようかと思い立ち。


 道具を広げてマジックアイテム製作に悪戦苦闘する事……三十六時間。

 気がつけば徹で没頭してしまっていた。

 途中からテンションがおかしくなっていた。


「俺、天才かもしれねぇ……」

 多大な労力と情熱をかけて作り上げたアイテム。

 それは……!


「『服だけ溶かすスライム』だッ!!!!」


 今度は2回、雷が落ちた。

 ここまで長い道のりだった。

 元はといえば、〝破滅の光〟を有効活用したアイテムを作れないかという考察から始まり。考えに考え抜いた末に辿り着いた答え!


 その濃度によってあらゆる魔導を分解する〝破滅の光〟を適度な濃度に制御する事で人体に危害を加えず、特定の物質——即ち服だけを崩壊させる事に成功した!

 思春期男子の夢(?)!!


『服だけ溶かすスライム』を実現させたのだ!!


「ふふふ、ハァーッハハハ!!!」

 俺の高笑いに合わせて、今度は3回稲光が迸った。

 

 ……。


「ハッハッハ……」


 ……。


「……」


 パチン、と部屋の電気を付ける。

 そして、もう一度机の前に戻り。


「……」

 見下ろす。机の上にちょこん、と置かれたピンク色のぷよぷよした塊を。

「……」

 夢から覚めるように、ぼんやりとしていた思考がすぅっと冴えてゆき。

 思った。


「俺はなんてモノを作りだしてしまったんだぁあぁあぁあ!?!?」

 

 作って三分で後悔が洪水の様に押し寄せてきた。冷静になって考えてみると多方面からドン引きされてやむなしな事をしでかしたのでは?


「あぁ深夜テンションって怖ぇー」

 手の平でぐしゃりと前髪を掻き分け頭を抱える。

 この一日半、ストッパー役となるドライズが不在だった事も原因の一つだろう。


「と、とにかく、誰かに見つかる前に処分してしまおう……」

 こんなモノを作ってしまったなんてバレたらどうなる事やら。

 特に女子からはもう人間扱いして貰えなくなる気がする……。

 俺は机の上でぷるぷる穏やかに揺れるスライムに手をかざし。


「……っ」


 迷った。

 別に、『折角作ったんだから使ってみたい!』なんていう煩悩丸出しの理由などでは無い。断じて。これを壊すという事は……俺の休日三十六時間をただただ無意味な時間にしてしまうということになってしまう。それが引っかかった。


「……うぅ……」


 あれ、涙が滲んできた……。

「俺、貴重な休みを一日半も使って何してんだろう……」


 その果てで出来たモノがこれって。もっと有意義なモノを作れば良かったのに……。

「だが、だがッ!! お前の存在は必ず災いを招く!! 今ここで、無かった事にしなければならないんだッ!!」

 涙を呑み覚悟を決めて改めて、魔力を右手にかき集め。


「『第二火炎魔法プロミネンス』!!」

 割と強めの炎魔法を、机の上のスライムに向けて放つ。炎の帯が腕を軸に迸り、机へと向かい。

 スライムを包み込んで焼却しようとした。


 が。


 ぴょい、とスライムが横に飛び跳ねた。

「……え?」


 外れた火炎魔法机の上で渦になってうねるがスライムはその炎から怯えるように距離を取る。

「……え??」


 混乱した。


「……」

 落ち着いて、深呼吸をする。とりあえず机の上で燃えさかっている炎の事は後回しにして、俺はハルベルトをマテリアライズする。


 両手で刃の近くを短めに持って、大きく振りかぶり、

「ていっ」

 スライム目掛けて突き下ろす!

 

 ぴょい。

 

 また、スライムは軽快な動きで俺の攻撃を回避した。

 槍の切っ先が乾いた音を立てて机に突き立つ。

 俺は、愕然とした。


 ――こいつ……意志を持ってやがるッ!!?

 そんな馬鹿な。人工知能機能なんて俺は組み込んでいない。

 なのに、こちらの攻撃に対して明確な回避行動を取るのだ。


「こ、このっ!」

 何度槍を振り下ろしても、結果は同じ。そもそも寝不足な徹夜の疲労で俺の動作もキレが悪い。顔なんて無いのだがスライムが余裕綽々にどや顔でこちらを見つめている様な感覚に支配される。


「……貴様ッ創造物の分際で創造主であるこの俺に刃向かおうとでも言うのかッ!!」

 気がついたらゲームの悪役みたいな事を口走っていた。

 俺の殺気を感じ取ったのか。スライムはビクゥっと一瞬身体を跳ねさせるとそそくさと身体を引きずって机から逃げ出す。


「ふはははっ!! 何処へ行こうとも無駄だッ!!」

 俺はハルベルトを片手に、照準を定めるように逃げ惑うスライムを目で追った。

「この部屋は今、密室状態にあるッ」

 そして、スライムが僅かに動きを止めた瞬間。


「そこだァッ『二連朱槍』ッ!!」

 俺は槍を投げた。※室内です。

 槍は二つの火炎弾へと変貌し、スライムへと向かい。


 着弾点である俺とドライズの二段ベットが爆破四散した。

 寸でのところで直撃を躱したスライムが、爆風に吹き飛ばされて転がる。


「しぶとい奴め……だが!!」

 本能で俺から距離を取ろうとするスライム。しかし、ヤツが逃げた先は部屋の入り口。

 玄関は堅く閉ざされている。

「都合良くドライズが帰って来ない限りはお前に逃げ場など――」

 

「ただいまー」


「バカヤロォォォォォォ!!!!!」

 

 あまりにもタイミング良く玄関の扉が開かれ、俺の絶叫が寮の廊下に木霊する。

「えっ、ごめん……」

 帰宅早々俺に怒鳴られたドライズはしゅんと表情を暗くするが今は構っている場合では無い。抜け目ないスライムはこの僅かな隙を見逃さず、ドライズの横を通って室外へと脱走してしまった……!!

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