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【第二部完結】俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~  作者: 岩重八八十(いわじゅう はやと)
第1部 俺は主人公になれない

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45話 友達居たんだ

部室棟の最上階。俺はその一室に足を運んだ。

 トントントンっと三回ノックして。

「失礼しまーす」

 そこまで気負わずに扉を開いて。


「うぇっ!?」


 俺はぎょっとして思わず情けない声を零す。


「あら、ごきげんよう」

 部屋の主、ルクシエラさんは何事も無いかのような普段の様子で座っていて。


「え、えっと。あの、この前言われたヤツの提出に来ました……」

 とりあえず俺は用件を済ませることにした。

 ルクシエラさんから直々に、実験用のマジックアイテムを注文されていたのだ。

 魔石を幾つか取りだして、渡す。


「あら早い仕事だこと。体調はもう大丈夫そうね」

 ルクシエラさんは少し嬉しそうに言う。

「いや、まぁ、あれから結構経ちましたし」

「あ、そうですわ。折角ですからお茶でも出しましょうか?」


「えっ」


 普段ならなんて事は無い誘いなのだが、戸惑った。

 この状況でなんでこの人はここまで平然としていられるのだろうか……。


「そこにかけてお待ちなさい」

 断るのも忍びないので俺は言われるがままに近くの座席に腰掛け。

 ――そして、否応なしに視線を下に向けてしまう。


 暫くして、ルクシエラさんがお茶とお茶請けを持ってきて。

「うふふ、お茶もお菓子も貴方が好きなモノを用意しておきましたわ」

 ルクシエラさんは和やかに微笑んで俺の前にお茶とお菓子を差し出した後。


 もう一度〝ソレ〟に座った。


「うッ!!」

 うめき声が一つあがる。


 俺はお茶を一口啜って、言うべきがどうか迷ったが、決心をして。


「あの……」

「ん、どうかしまして?」

「いや、その——そういうの、やるなら人目につかない所でした方が良いですよ」


 俺の視線の先では。見知らぬ女子生徒が四つん這いになってルクシエラさんの〝椅子〟にされていた……。

   

「ぐぉぉぉ!! 下級生に憐れまれているッこの屈辱忘れないぞルゥゥシィィ!!」

 俺の事を下級生、というからには五年生か六年生なのだろう。


「一体どうしてそんな事してるんですか……イジメですか?」

「失敬な」

 ルクシエラさんは澄まし顔でそう言うと。


 イタズラを思いついた子供の様に悪辣な笑顔を浮かべて。

「ほら、イズナ。私の可愛い愛弟子が疑問を抱いています。どうしてこうなったのか教えてあげなさいな」

 と、自分が座っている女子生徒の頭を優しく撫でながら告げて。


「いや、俺は弟子じゃ無いですって」

 いつもの流れて否定するがこれまたいつも通りスルーされ。  

 

 イズナと呼ばれた女子生徒は。

 一瞬唇を噛んだかと思うと俯き。


「……た」

 か細い声で、ボソリ、と何か呟いて。


「んん~? 聞こえませんわ。もっとハッキリ仰いなさい?」

 ルクシエラさんはにっこにこの笑顔で催促し。 


「……負けたのだ」

 イズナさんが次に呟いた言葉は何とか聞き取れたが。


「誰が? 何をして負けたのかしらぁ? ちゃんと言わなきゃ判りませんわぁ」

 ルクシエラさんは大変愉快そうに追い打ちをかけて。

 観念したのか、イズナさんは声を張り上げる。


「私はッ! ルーシーと勝負してッ! 負けた罰ゲームで椅子にされたのだァァッ!!」

 

 説明されてもいまいち状況が把握出来なかった。


「ルクシエラさんと何の勝負をしたんですか?」

「普通にボードゲームだッ!!」

「あ、てっきり決闘か何かだと思いました」

「〝普通に〟だなんて貴女が言います? 〝つまらないから罰ゲーム有りでやろう!!〟と言い出したのは自分でしょうに」

 あれ、それって自業自得というヤツでは……。


「私としては食事を奢るとかそういうモノを想像していたんだッ!! それがなんだこの仕打ちは!? 君は悪魔か!!?」

 と抗議するイズナさんを。

「敗者は良い声で鳴きますわねぇ」

 ルクシエラさんは容赦なく煽る。


「うおぉぉぉッ!!」


 イズナさんは、椅子にされている疲れからなのか羞恥からなのか怒りからなのか判らないが、顔を真っ赤にして悶えていた。

 そんな様子を見て。


「ふっ」

 俺は思わず笑いを零してしまい。


「笑ったなッ!? 君今私を笑ったな!!?」

 とイズナさんに怒られるが。


「ああ、いや、すみません。貴女を笑った訳じゃ無くて、ちょっと微笑ましいなと思って」

「何処がだ!? この状況の何処が微笑ましいのだ!? 師匠がドSなら弟子まで価値観が狂っているのか!?」

 と、俺まで価値観が狂ってるように思われた様なので訂正する。


「いや、そういう事じゃなくて。ていうか弟子じゃ無いですって。元はといえば普通にボードゲームをしようという話からこうなったんでしょう?」

「まぁそうですわね」

「ルクシエラさんに〝遊び相手になってくれる友達〟居たんだ、と思って」

「張り倒しますわよ?」

 

 ルクシエラさんは天上天下唯我独尊というか……ぶっちゃけ交友関係については俺と同類だと思っていたのに友達が居ると知って正直驚いた。


「イズナとは長い付き合いですわ。これでも大事なお友達です」

 と。湯飲みを片手にその〝大事なお友達の上に座って〟のたまうルクシエラさんに。


「私は今まさにルーシーとの友情を疑っている真っ最中なのだが!!」

 イズナさんはそう言うが。

 ぶっちゃけた話、本当に嫌なら従う必要は無い。ルクシエラさんは横暴な人間だが、流石にたかだか遊びの罰ゲームのために権力や暴力を振りかざすような人では無い。


 イズナさん自身、〝自分が言い出した手前〟というのもあって引けなかったのかもしれないが、まぁルクシエラさん的にはこの行動はじゃれ合いに近いものだろう。


「悔しかったら次は勝てば良いのです。私が負けたときは潔く貴女の指示に従いますわ」

 その言葉はきっと建前などではない。

「言質は取ったからなッ!! 覚えてろぉぉ!!」

 こういう遠慮無いやり取りが出来るのは一つの美徳だ。

 ――……まぁ、画ヅラが酷い有様なのは確かなんだけど。

よろしければいいねやご感想など頂けると嬉しいです。

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