41話 これが俺の、正真正銘の全力だぁッ!!
己に残る全ての力を引きずり出し、槍を大きく振るって持ち上げる。
「『求めるは第四の叡智、制するは炎』ッ!!」
地面に刻まれた紅い光の筋は一つに繋がり円を構成。そして紅い軌跡を空中に残しながら槍を縦横無尽に回転、回旋させていく。
「『原初の炎を宿す者。擬えうるは人智の極致』ッ」
地面の赤い円の内側に紅い光の紋様を幾重にも折重ねて。
「『蜷局を巻きて悉くを滅却せよ』ッ」
言葉と共に、仕上げと言わんばかりに槍を強く地面に突き立てる!
「『第四火炎魔法』ッ!!」
槍の切っ先が魔法陣を突き破ると同時に槍の柄やローブに取り付けられた魔石が強く輝いて。闇を赤熱で照らす炎の龍が俺に巻き付くように現れた!
基礎魔法は様々な使用者を想定し一から四の階級が設けられ、保有する魔力量や魔導に対する習熟度によって推奨される階級が異なる。
学生ならば三年生で第二階級まで使えれば上等、第三階級は専攻ならば卒業までには詠唱・魔法陣の省略での発動が目標と評される魔導である。
第四階級というのはさらにその上を行く段階。その道の専門家レベルの技術であり自在に操れるとすればその属性に関しては教員と同等以上の実力と見なされるだろう。
「最高位の基礎魔法……素直にすごいね、ハル君」
嫌味は感じ無かった。魔力制御の技術や総魔力が基準に足りていなければそもそも魔法としての発動すら起こらないのだ。
詠唱、魔法陣だけに留まらず高品質の魔石も利用し、事前に準備したマジックアイテムであるローブとハルベルトを触媒にして、そんな本来よりもよっぽど手間暇かけた大量の事前準備が必要だったが曲がりなりにも最高位の基礎魔法を起動出来た事はそれだけでも、俺にとっては相当な背伸びだった。アリスは素直に感嘆したようだ。
「ぐっ……!」
額に脂汗が浮かぶ。身の丈に合わない魔法の使用は心身に大きな負担をかける。ただでさえ既に身体も心もボロボロで、その上所詮は背伸びして手を出した付け焼き刃の魔法。安定した運用には程遠い。
「焼き、払えッ……!!」
重たい槍をアリスに突きつけると同時に、蜷局を巻いていた炎の龍はその身体をうねらせ〝夢〟の世界を駆け抜ける! 闇を裂き炎の道と無数の水晶を残してアリスを飲み込まんと猛進していく!
「こんな隠し球があったんだね」
アリスは翼をはためかせ宙へと舞い上がって炎の龍を回避する。
「『第二水流魔法』ッ!」
そしてその脇腹にカウンターで水の基礎魔法を叩き付けるが龍を形取る炎は僅かにその輪郭を細めただけで変わらず燃え盛り、炎の龍はアリスとすれ違ったところでその頭を持ち上げ、追って空へと昇る。
「……確かに厄介だけど、でも!」
アリスは翼を強く打って炎の龍を大きく引き離した。
そしてくるりと振り返って待ち受ける。
「ここはもう私の領域。〝夢〟を広げる前なら対処も難しかったけど——ここではそうもいかないからねッ!」
人差し指を立てて右腕を掲げ、まるで何か重いモノを引きずりながら投げつけるように大きく振りかぶって腕を振り下ろした。
「『虚像•第四水流魔法』ッ!」
アリスの背後に突如大瀑布が現れたかと思うと、空を昇り行こうとする炎の龍を大津波のように上から飲み込んだ。魔法陣の展開も無く、魔石の補助も無く、ただ指先一つで俺と同等の基礎魔法を放ったアリシアは自慢げに語る。
「言ったでしょ? 〝夢〟の中なら何でもできるって! 構築、起動、詠唱、制御、あらゆる工程を無視して魔法の〝効果〟だけを呼び出しちゃうからね!」
魔力が干渉し、赤と藍の水晶のようなモノをマテリアライズしながら霧散し炎の龍も大瀑布も少しずつ消えていく。
その気になれば、初めからこの大津波を俺に直接ぶつける事も出来た筈だ。俺が隠し球を用意していた様に、アリスもまだまだこの〝夢〟を支配する力の底を見せては居ないと誇示する様に、
「これで消えちゃえっ! 『虚像・第四水流魔法』!!」
更にもう一度大津波を発生させ、衝突する二つの魔法をまとめて飲み込んだ。
拮抗していた二つの魔法はあっと言う間にアリスの優勢へ傾いて、炎の龍は完全に水に飲み込まれてしまう。
まるで喰らいつかれ胃袋の中で消化されていく小動物の様に、水の中で呆気なく、どんどんその姿を小さくしていく。
「残念だけど、この魔法は私には届かないかなっ!」
しかし。
「でも。足止めには、なった……だろ?」
槍を杖代わりに身体を支え。全身ボロボロで今にも倒れそうにもなりながら。俺は不適に笑ってみせた。
「〝燃料〟は蓄えたぜ……アリスッ!!」
手元には、更なる魔法陣が既に描かれている。
「『第三暗黒魔法』っ!」
魔法陣の中央から小さな黒い魔力を発射した。アリスが警戒し、その場を退避しようとするより僅かに速く、黒い魔力は口を開くように巨大な渦へと変貌し、周囲の物体を飲み込む重力を発生させる!
「わわっ!? 何かと思えばっ! 詠唱破棄なんて、私の真似かな? 第四階級の後に第三階級の基礎魔法を見せられたって見劣りするだけじゃないかなっ!」
重力に逆らうように羽ばたき、何とか体勢を立て直したアリス。
「『虚像・第三閃光魔法』!!」
そして同じように反属性となる基礎魔法を発動した。アリスの四枚の翼が白い光を放ち、無数の筋として幾つも重力球に降り注ぎすぐさま掻き消す。
アリスが本来所有する属性は水と闇。魔力の転成によって生成出来るのは氷と土。光属性は魔石などの外部的な補助が無ければアリスには使えない魔法である筈だ。
「ふふんっ、この翼がある限り今の私に扱えない魔法なんて無いんだよねっ!!」
アリスは勝ち誇った様に胸を張った。だが、直後に気付く。重力球を消滅させると同時にジャラジャラと宙に舞う何か。
重力球が捉えたのはアリスでは無い。今まで散々マテリアライズしてきた小石や水晶であったという事に。
「『不屈の炎を翼に変えて。天へと羽ばたけ、何度でもッ』」
俺は最後の力を振り絞ってハルベルトを構える。
「『その名は〝不死槍ハルベルト〟』ッ!!」
詠唱と共に放たれた槍は、炎に包まれ宙に舞う石ころや水晶を飲み込んで。
「なっ!?」
炎の翼は五つの方向に帯として拡散し。アリスを一瞬で包囲して尚、燃えさかる。アリシアは咄嗟に翼で自分の身体を庇うが先ほどの『第四火炎魔法』で生み出された炎の龍など比較にならない程の炎と熱が彼女を飲み込んでいく。
「そんな!? 何なのこれ!? こんな量の魔力なんてハル君には無い筈なのに一体何処から――あっ!?」
俺が言い放った言葉、〝燃料〟という単語。そして、わざわざ足元に引き寄せられた小石の山。アリスは答えに辿り着いた様だ。この魔力の正体は——アリスから奪った魔力。
マテリアライズという形でアリスの魔力へ干渉し、俺の魔力とアリスの魔力双方を使って作成された小石。それは一見、ただの石ころに見えてもその内部に二人分の魔力が秘められている。
マテリアライズとは魔力を緻密に、重厚に構成しその性質を変化させて物質の成分を再現することで物質を精製する技術であるので〝元の魔力という形へと還元される〟というのは本来ならば失敗にあたる。だが俺は敢えてその失敗を利用した。
俺が作り上げた、俺だけの魔法。
俺に出来うる全てを詰め込んだ魔法。
「『フレアレッド・クラスター』ッ!!」
詠唱と共に炎は更に五芒星へと姿を変え、その中心にアリスを据える。更に五芒星の頂点にあたる五つの点からドーム状に炎が広がって球体のようにアリスの全方位を取り囲んだ。
翼から絶えず黒い魔力が溢れ、アリスの身体を守る。だがその魔力は炎に飲み込まれて小石をマテリアライズし打ち消される。そしてマテリアライズされた小石はそのまま炎へと飲み込まれ炎は絶えず燃え続ける。アリスの魔力が尽きるまで、アリス自身の魔力を薪に燃え続ける炎がこの魔法の正体だった。
「これが俺の、正真正銘の全力だぁッ!!」
アリスは翼で身体を守りながら納得したように頷き、炎の封印に包まれ姿を隠していく。これだけの規模ならば確かに一人でも相応のイーヴィルを倒しうる大魔導。
「これが本当の切り札だったんだね……凄いよ、ハル君……」
ここまでの防戦は全て、この魔法を始動する際に発生する炎の規模を大きくする為の『燃料』稼ぎに過ぎず。俺は初めからのこ魔法による一手詰みを狙っていた。
「はぁ……はぁ……」
へたり、とその場に座り込む。立って居るのもやっとだったのに支えとなっていた槍はこの魔法を発動する触媒にしてしまった。あの炎が燃え尽きるまでハルベルトは再生成できない。
俺は座り込んだまま、空を見上げる。
闇に閉ざされた〝夢〟の空間。
その中央で炎の塊は赤々と輝き、闇を照らす。
まるで、夜の終わりを告げる朝日のように。
限界を超えて、目一杯背伸びをして、成し遂げた大魔導。
——けれど。
太陽にも見えたその炎は。
……次の瞬間に黒く染まった。
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