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【第二部完結】俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~  作者: 岩重八八十(いわじゅう はやと)
第1部 俺は主人公になれない

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35話 目が、覚めたんだ

「ふぁ~あ。あれ?」

 朝、ドライズが欠伸混じりに身体を起こしたのを感じる。

 ベッドのカーテンがズラされ、梯子を降りてくる音。


「わ!? ファルマ、何やってるの!?」

 背後から、驚きの声が聞こえてきた。俺は勉強机のライトを付けて、定規と筆記用具、大きな白紙を広げて作業をしていた所だ。


「見りゃ判るだろ。マジックアイテムを作ってるんだよ」

 正確には、今はその設計図を思案している段階だ。俺の机には他に、永久の森から採取してきたと植物や土、動物の骨、そして万年桜の枝などを置いていた。


「部活かい?」

「まぁ、そんなとこ」

 ひとまずドライズは洗面台の方へ行き、顔を洗って歯を磨く。


「それにしたってこんな朝早くから活動するなんて珍しいじゃないか」

 長い髪を後頭部で縛り上げ、支度を整えたドライズが設計図を覗き込んできた。

 そんなドライズに、答える。


「目が、覚めたんだ」


 ドライズはその言葉をそのまま受け取って、呆れ笑いを作る。

「また早起き? 最近どうしちゃったのさ」

「ま、色々な。でも多分これが最後になるから」

「え、そうなの? 勿体ない。折角真人間に戻るチャンスなのに」

「うるせぇ。あ、ドライズ。今度教えて欲しい魔法があるんだけどいいか?」

「ん、良いよ。でもファルマが勉強なんて本当に珍しいじゃないか」

「勉強って訳じゃねーよ」

 いつもの調子で軽口を言い合う。


 そして。


「……良かった。やっといつもの調子だ」

 ドライズがぼそりと何かを言った様だったがよく聞き取れなかった。

 恐らくは独り言だろう。俺は作業に集中した。


 時間は流れて登校時間。この日ドライズはルクシエラの部屋を掃除する日なので登校時間がずれる。俺は別れる前に一つ、ドライズに頼み事をした。

「ドライズ! 数日中の近いうちにルクシエラさんの所に行くつもりだから、そう伝えといてくれるか」

「ん~? 判った~」

 

その後寮の部屋を出て。廊下を過ぎ玄関先、気持ちを切り替えて寮を出る。

「おはよう、アリス」

 ドアを抜けると同時に、声をかけ。いつもの場所で待っていたアリスの方は少しだけ目を大きくした。


「お、おはよ」

「なんだよ、鳩が豆鉄砲喰らった様な顔して」

「だって、ハル君の方から声かけてくるなんて珍しいから、びっくりしちゃったかな」

「挨拶しただけで驚かれる俺って一体……」

 今、俺は来たるべき日に向けて準備を進めている。


 だから現状アリスと問題を起こすわけにはいかない。そう思って不自然にならないよう気をつけた筈なのに。


「あれ?」


 ふと、アリスは俺の前方に回り込み、俺の顔を覗き込む。

「な、なんだよ」

「なんだか今日のハル君、綺麗な目をしているね」

「突然何言ってんの!?」

 瞳を覗き込まれてそんな事を面と向かって言われて照れない人物は居るだろうか。顔が熱い。視線を逸らして仰け反った。


「ていうか、俺の目は普段は濁ってるとでも言いたいのかよ!?」

「ノーコメントかなぁ」

「おいっ!?」

 アリスは誤魔化す様にニコッと微笑んで先に進む。


「さ、ハル君。学校、行こ? ね?」

「……ああ」

 アリスが意味深な事を言って、思わずドギマギして、結局、いつも通りだ。

 ――……結果オーライ、か。

 俺は内心でホッとした。

 

 けれど、やはりどうも客観的に見て自分の様子が変わっているらしい。感づかれるのも時間の問題かも知れない。準備を急がなくては。

 いつもの様に、二人でのんびり校舎までの短い道のりを歩く。


「暑いねぇ」

 時期は初夏の終わりかけ……つまりはこれから夏本番と言った所。

 もう早朝の時点から暑苦しい季節だ。


「冬が恋しいな」

「そうだねー。あっ、冬と言えばハル君。あれ覚えてるかな?」

「あれ?」

「小さかった頃、冬場に一緒につららを見つけて遊んでたよね」

「あぁ……あったな、そんなの」


 子供って言うのは本当に無邪気で純粋だ。

 ただのつらら一つで大いに盛り上がれるし、はしゃげてしまうのだから。

 確かに昔、アリスと一緒につららを探し回って遊んだ記憶がある。


「なつかしいなー」

「つららと言えば、たまに永久の森の温度設定がバグって氷河期みたいになるんだよな。その時この世のモノとは思えない程馬鹿でかいつららが出来てたりするぜ」

「何それ面白そうだね。……ところで〝バグって〟ってどういう意味かな?」

 他愛の無いやり取りを続けながら、俺は思った。

   

 ――やっぱり、このアリスが偽物だなんて思えない……。

 未だに残る淡い期待……僅かな逃げ道を自ら封鎖する。俺が考え得る、最悪のシナリオ。それを前提として立ち向かうと腹をくくるのであった。


 さて、事が起こる前に済ませなければならない用事がある。

 しかも、後の全てに関わる最優先事項だ。


 昼休みが始まると同時に俺はレンの席へと向かった。

「レンっごめん!」

 そして、頭を下げる。

「……?」

 突然の出来事に戸惑うのはレンだけではない。まだ授業が午前の終わったばかりで教室に残っていた他のクラスメイト達もざわめき始めた。


 またファルマが何かやらかしたのか、とか聞こえてくるし何やら視界の隅に黄色い影がちらつくが気にしている場合ではない。

 っていうか〝また〟って何だよ。

 このクラスでやらかしてる率なら俺よりナギとかもっと色々居ると思うんだけど!! 

 ……と、いう言葉はぐっと飲み込んで。


「本当に、突然で迷惑なのも判ってる。無茶苦茶言ってるも判ってる。それを承知の上でお願いしたいんだ。この仕様書の魔法陣を作ってくれないか?」

 そう言って俺は一枚の紙をレンの机に広げた。

 レンはその紙に視線を落とし、静かに持ち上げ内容を目で追う。


「後でどんな埋め合わせもするから!!」

 俺はもう一度頭を下げる。言葉の内容や様子から、周囲のクラスメイトは部活動のマジックアイテム絡みだろうと予想を付けて、納得したような様子で興味を失っていった。対してレンは多くを語らない。


 ただ、仕様書を読み込み、顎に手を当てて、尋ねる。

「……期限は?」

 その言葉に、もの凄く答えづらい。けれど、嘘や誤魔化しは出来ないと観念して答えた。


「あ、明日の昼……」

「明日ぁっ!?」

 あの寡黙なレンが。珍しく声を荒げて戸惑った。


 仕様書に書かれた内容は魔法陣の専門家であるレンでも『骨が折れる』と感じる程挑戦的なモノだという事だ。俺はそれを判ってて提示した。


「言い訳になるけど、正直、本当の意味での期限がいつになるのか判らねぇんだ。ただ、数日中に俺にとって大事なことが起こる。それまでに間に合わないといけない。だから、早ければ早い方が良い……魔法陣に関して、こんな無茶お願い出来るのはこの学園中を探してもレンしか居ないんだ! だから、頼むっ!!」

 

 もう一度深く頭を下げた。

 レンの描く魔法陣は教師すら凌駕すると認識している。レンの力がどうしても必要だった。だから初めから頭を下げてお願いするしか無かった。


「……そう」

 俺の様子から、レンもただ事ではないという事を察する。少なくとも、普段の活動やら趣味やら、そういう次元の話では無いと。


 レンは何やら思案して、口を開いた。

「……断ったら、どうする?」

 俺は頭を下げたまま、考える。その可能性を考慮していない訳ではない。

 これは、俺に取っては大切な事かも知れないが他の人間からしたら下らない拘りにしか過ぎず、知った事ではないと言われればそれまでの事なのだ。

 

 だから、その時は……。

「困る」

 その一言に尽きた。それ以上の事を言えば、自分を人質に取った脅迫になる。ここで力を借りる事が出来ないのならば、その先に自分自身がどうなろうとそれは身から出た錆である、他人は巻き込まない、と覚悟を決めていた。


「……」


 レンはもう一度仕様書に目を落とし。瞬き。

 仕様書を机の隅に置いた。

 鞄から描画用の白紙を取りだして、魔法陣を描くため専用の筆箱を取り出す。

 そして、ペンを構え、俺に一言だけ告げる。


「……お礼、期待してる」

 その言葉に、顔を上げる。

「ああ!! 俺に出来る事は何だってする!! 頼んだぜ!!」

 そう言い残して俺は席に戻った。


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