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【第二部完結】俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~  作者: 岩重八八十(いわじゅう はやと)
第1部 俺は主人公になれない

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外伝34.5話 何かを感じ、考え、生きているのはボク自身の意志ですから

※そこそこ重大なネタバレを含みます。読み飛ばして、第二部終了時から戻って来ても大丈夫です!

 本来は、傍観者である筈だった。

 その人物はグラウンドへと駆けていったファルマ少年の背に侮蔑の眼差しを送り。

 けれど、その場を立ち去ろうとする。


 そこへ。


「おいおい、兄ちゃんよー」

 待ったをかけた生徒が居た。

「こんな時間に、そんな格好。ま、良い趣味とは言えねーぞー?」

 水色のローブで顔と身体を隠す侵入者に、箒を突き付ける。

 学園最上級生主席。校長、ティアロの弟子。


 アイル・フリーダム。


「……こんな時間まで起きてるなんて、健康に悪いですよ」

 謎の人物は特に驚いた様子も無く。そう言い返す。

「そりゃ、ご心配どーも。でも俺の事はどーでもいいんだ」

 不審者を挟み込むように、竜巻が三つ現れる。


「ウチの後輩が世話になったみてーじゃねーか。お前さん、何者だい?」

 詠唱も魔法陣も無く発動された魔法。本気を出せばこの比では無い規模の攻撃が出来るという威嚇に、不審者はそれでも狼狽えず。


「辞めて下さい僕が貴方に勝てるわけ無いじゃ無いですか」

 ふっ、と。呆れた様に、あるいは達観したように乾いた笑いを上げた。

「殊勝なこった。なら、詳しい話を聞かせてもらおーか。ティル爺達と一緒にな」


 アイルがそう言って、一歩距離を詰めようとした。


 しかし。


 謎の人物が腕を払うと、包囲していた竜巻が一瞬にして消え去る。

「っ!?」

「勝てるとは思ってませんが……捕まるわけにもいかないので」


 アイルは、謎の人物をキッと睨んだ。警戒度を一段階引き上げる。

「逃がすと——思うかい?」

 強く踏み込み、不審者と間合いを詰める。大きく振りかぶった箒の穂が、形を無くして崩れ去り。代わりに、巨大な刃が形成される。


 箒から巨大な斧となった得物が不審者を狙いその刃が夜の闇を走る。

 対して、不審者は懐に手を入れ、何か策を講じようとしていた。

 しかし。


「そこまでです」

 二人の魔道士の間に、小さな影が割って入った。

 闇の魔力が、アイルの刃をせき止める。


「なっ、お前さんは――」

 新たに現れた人物。それはシジアンだった。

「申し訳ありませんが、刃を収めて下さいますか。アイル先輩」

「おいおい、いきなりそりゃねーだろ。そんな見るからに私不審者ですって言ってるヤツをみすみす放置するってのもなー」

 と口では言いつつもマテリアライズしていた刃を消去するアイル。


「そいつはお前さんの知り合いかい?」

 アイルの問いかけに、シジアンは頷いて答えた。

「はい。僕の――とても大切な人です」

「ふーん……」

 思わぬ回答に、アイルは訝しげな表情でもう一度、謎の人物を足元から頭部へと視線を移動させて観察する。


「ま、わざわざ割って入ってまで止めてるんだ。嘘じゃあなさそーだな」

 アイルはやれやれ、と肩をすくめた。

「そこまで言うのなら、ここは退いてやるよ。でもな。そいつが本当にお前さんにとって大切なヤツであったとしても。もし、学園ウチの生徒に手を出そうってんなら」

 アイルはくるりと踵を返し、最後の言葉は背中を向けたまま。

 

 けれど、確かな威圧感と共に。

「その時は、容赦しねーぞ」

 そう言い残して寮の中へと戻っていった。

 

 その様子を見届けたシジアンはホッと一息吐く。

 シジアンは一年生の中ではダントツの成績を誇り、戦闘能力も高いが流石に最上級生の主席であるアイルと対等に渡り合える程では無い。


「こうなるのは目に見えていたでしょうに……どうして出てきたのですか?」

 シジアンは呆れつつも、背後でバツの悪そうにしている不審者に語りかけた。


「やっぱり、君は気付いてるんだね。僕が何者なのか。君達が何者なのか。この世界の仕組みに」

「ええ。僕は〝記録する兵器〟ですから。気がついた時、真っ先に違和感を覚えましたよ」

「……そっか」

 不審者はシジアンに近づき。


 わしわしとその頭を乱暴に撫でた。


「な、何を急に……」

「いや、寂しかっただろうなって思って」

 シジアンは目を丸くする。そして、目の端が滲むのを感じた。


「な、そ、それは、」

「図星って顔してるねぇ」

「か、からかわないでくださいっ!」

 シジアンは不審者の手から逃れるように、ぷいっとそっぽを向く。


「あらら」

 そして僅かに距離をとり、

「……この世界を、ボク達を、どうするつもりですか?」

 問いかけた。核心に迫る問いだ。


 それに水色ローブの不審者は――

「どうもしないよ」

 ケロッとそう答える。


「少なくとも、今はね。様子見ってヤツ」

 

 ――その、様子見していた人物が思いきり干渉してきた事について。

 シジアンは怪訝な眼差しを向けた。

「もう一度聞きますけど、ならどうして出てきたんですか」


「いや、流石に見てられなかったっていうか。後先は考えて無かった。あそこでアイツを殺しても良いって本気で思ってた」

 その言葉に、シジアンは頭を抱える。


「相変わらず衝動的なんですから……」

「そうだねー。後から後悔してばかりの人生だよ」

 やがて、不審者は歩き出す。


「ま、さっきも言ったけど今は様子見って事になってるから。この辺で帰るとするよ」

「是非そうして下さい……そして無闇に干渉しないでください。収拾が大変ですから」

 少しずつ離れていく不審者に。シジアンは少し寂しさを覚えた。


 すると。


「ねぇシジアン」

 ある程度離れた所で、不審者が最後にと言わんばかりに問いかける。

「アイツに構う理由はなんだい? 判ってるんだろう?」 

 この世界の、核心を言葉にする。


「何もかも全てが偽物だって」


 シジアンは真っ直ぐに、迷い無く答える。

「そうであったとしても。彼がファルマ先輩である限り――そして、ボクが〝シジアン〟と言う名である限り。己の全てをかけて尽くすのがボクの願いですから」


 水色ローブの不審者はシジアンの覚悟を確かめるように、フードの隙間から強い視線を差し向けた。

「……その記憶すら偽物なのに?」

「関係ありません。例えこの記憶が偽物であろうと、今、こうして何かを感じ、考え、生きているのはボク自身の意志ですから」


「……そっか」

 謎の人物は呆れた様な、でもどこか嬉しそうな様子を見せると。

 夜の闇に紛れて姿を消したのだった。



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