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【第二部完結】俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~  作者: 岩重八八十(いわじゅう はやと)
第1部 俺は主人公になれない

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31話 お目が高いですねぇ!

 さて、波瀾万丈の出発を迎えた魔石実習も無事全生徒達が現地に集合して予定通り進行する。リーゼを初めとする洞窟恐怖症の孤児院組は鉱山前の施設に待機し、俺達は鉱山内部へと入っていった。


 じっとりした冷たい空気、独特な鈍い匂い。

 ライトの付いたヘルメットを装備して、鉱山を進んでいく。

  

「坑道の環境はある程度管理されていますが外部より気温が低いです。寒ければ各自自己判断で防寒具のマテリアライズをしてください」

 引率のセレスティアル先生がそう言う。


 ただでさえ全校生徒100人に達さない学園で、一部の生徒が待機している状態だ。列は作りつつも全学年ごちゃ混ぜで歩いていた。


 そして、俺の横を歩くアリスが両二の腕を擦りながらにっこり微笑みを浮かべて。

「はーるーくーん?」

 と、明らかに何かを期待する眼差しと声色で呼びかけてきた。


「はいよ」

 察した俺は防寒用のコートをマテリアライズしてアリスに羽織らせる。


「温度調整できるから、暑くなりすぎないようにしろよ?」

 俺がそう言うと、アリスは。


「うん! ありがとね、ぽかぽかだ!」

 と嬉しそうにコートの袖を頬に擦り付けて笑い。その仕草に思わずドキッとして。少しだけ幸福感を感じたのに、またチクリと胸に痛みが走って思わず目を逸らした。


 ――まただ……。なんで、胸が痛い? なんで目を逸らす?

 疑問に思いつつも、やがて坑道は過ぎ開けた場所に出る。


「到着です」

 そこは、神秘的な光景が広がっていた。

 赤、青、緑、紫、様々な色の鉱石が壁や地面から突出していて煌びやかで。

 まるでイルミネーションされた空間のように美しい。


「既に目視出来ているモノもありますが、色の付いた石は全て宝石の原石です。これらから各自で自由に採掘して構いません。ただし、量は配布した籠に入るまでにしてください」

 セレスティアル先生の通りやすい声が鉱山に反響する。


「各種宝石には付与しやすい魔力が異なったり魔石としての適正の違いなど様々あります。ですがここでは敢えて教えません。自分の感覚で幾つか選び出してみましょう。それを後に魔石化する際に特性の説明などを解説・学習します」

 と、伝えられ。


「それでは定刻になったらこの場所に集合して下さい。採掘出来る場所は広いので迷子にならないように。迷ったらすぐに緊急回線を私の携帯端末に繋げるように。以上、解散です」

 セレスティアル先生の説明が終わると、生徒達はわーっと散り散りになって各々目当ての宝石を探しに行き始める。


「ハル君、私編入したばかりだからまだまだ魔法について詳しく無いんだよね。ついて行ってもいいかな?」

 アリスの提案を俺は。


「勿論、構わないぜ」

 二つ返事で了承する。そして二人で鉱山内を探索し……、


「どんな魔石を作るかで適正なサイズが決まってくる。マテリアライズ用の魔石みたいな〝単体で魔法を発動する〟ための魔石だと少なくとも4cmから6cm大きさは欲しいな。要するに掌サイズだ。原石のままでも魔石に出来なくは無いけどカッティングされたモノの方が込められる魔力が高くなる。それも踏まえると拳一つ分くらいのクラスターを探した方が良い」

 魔石はマジッククラフト・マテリアライズ共に必要不可欠な代物だ。俺にもそれなりの知識がある。


「基本的に宝石として有名且つ高価な鉱石ほど魔石としてのポテンシャルは高い。……けど、この鉱山、すごいな」

「何が凄いのかな?」

「にわかの俺でも判るくらい、有名からマイナーまで多種多様の宝石が見え隠れしてる。今回は実習だから適当に選んで良いだろうけど作った魔石を貰えるらしいから出来るだけ良いモノを採りたいよな」


 俺はそう言って近場にひかる紫色の鉱石に触れた。

「例えばこれはアメジスト。大きなクラスターが採れ易くて比較的安価な宝石だがその分メジャーで魔石としてのポテンシャルはそこそこ良い。そして紫色は闇属性の魔力を宿しやすいからアリスにはぴったりだと思うぜ」

 そう説明するとアリスは、


「ホント!? それじゃあそれ採掘してみようかな!」

 と、支給された採掘道具を両手に突出している鉱石の周りを掘り始めた。


「それじゃあ俺も――」

 適当に周囲を見渡し、俺の火属性の魔力と相性が良い赤色の鉱石を探して。

 キラリと遠くにほのかな輝きを見出した。


「アリス、俺向こうの方掘ってくるわ」

「わ、判った! 私は採掘の続きを――石を傷つけずに掘るのって結構難しいね……」

 アリスは初めての採掘に悪戦苦闘している様子だ。


 俺は少しだけ離れて、壁を掘る。

 そして発掘した。拳サイズの紅い原石。


「これは――」

 それは初めてみるモノ。


 しかし、魔力の吸収性が良く魔石の適正の高さを感じる。

 基本的に有名な宝石ほど優秀な魔石になるだけに見知らぬ鉱石がこれほど高品質である事に違和感を覚えていると、


「お目が高いですねぇ!」

 不意に横から声をかけられたビクッとする。


「わっ、あ、アーシェさん!?」

 そこには、目を輝かせた4年B組委員長アーシェさんの姿があった。


「それはバーナライトという鉱石です。龍脈と呼ばれる特殊な魔力が根付いた土地でしか採れない貴重な一品! 色合いなどの美しさはルビー等に劣る為宝石としての価値や知名度はかなり低いですが魔石原料としては最上級品ですよぉ!」

 普段大人しくて控えめな印象を持つアーシェさんは舞うように身振りしながら饒舌に語る。


「そ、そうなんだ。文字通り〝掘り出し物〟を見つけちまったな……」

 ただでさえ普段は絡みの無いアーシェさんが、いつもと違うテンションでいるモノものだからややドギマギして応対する。


「はいっ! 火属性のマジックアイテムを作るならこれ以上無い特別な原石ですぅ! 運がいいですね、よろしければ魔石化の際にはお声をかけてくださいぃ! 私が特上の一品に仕上げて見せますよぉ!」

「あ、ああ、よろしく……」

 やがてアーシェさんは宝石よりもキラキラした瞳を向けて、ふんすと意気込んで他の生徒達の元へいく。そう言えば、実習が始まる直前にアーシェさん張り切ってたっけ。

 

 再びアーシェさんが魔石製作技術という特別な才能を持っている事を意識してしまった。

 そんな事を思い返していると、


「なんとか発掘できたぁ。でも少し削れちゃった。初めてだから仕方ないよね?」

 とアリスが掌サイズのアメジスト鉱石を手に近寄ってきて。


「あ、ハル君も収穫あったんだね!」

 と、俺の掌の上で淡く紅い光を見せる魔石を見つめる。俺も釣られてもう一度自分が手にした原石に視線を落とし。


「……特別な原石、か」

 その言葉の響きから不意に、自分がちっぽけな石ころである事を思い出してしまう。


 そして、モノにすら劣等感を覚えている自分が愚かしく、浅ましく感じた。


 そんな俺の意識を。


「ねーねハル君! まだ少し籠に余裕があるからもっと採掘手伝って欲しいな!」

 とアリスが腕を引っ張って引きずり戻す。


「え、あ、うん。判った」

 俺はアリスの為に彼女の属性、水と闇にあった藍色と紫色の鉱石を探す。


 ふと、ぼそり。


     ×  ×  ×  ×  ×

 

「……辛くて、悲しくて、理不尽な現実なんて、忘れちゃえば良いんだ。そうでしょ、ね? だから〝夢〟の中においで。私、待ってるから」

  

     ×  ×  ×  ×  ×


 アリスが何か呟いた気がする。

「ん、アリス何か言ったか?」

「ううん、なんでもない!」


 一瞬、強い眠気と共に温かく心地の良い何かが心の中に流れ込んで来た気がする。しかし、今はなんともない。


 その後実習は滞り無く進み、俺は偶然手にした最上級の火属性魔石を手にして学園に戻る事となった。


 そして――


 その日の夜は驚くほどすんなりと、深い深い眠りに落ちた。

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