29.5話 二人ともギルティですわ!
「改めて収集した〝不朽型〟のデータを参考に弄ってみたら魔法的加護が強く効き過ぎちゃってぇ、前よりすっごい事になっちゃったよぉ……」
俺は視線をジン先生のから、その後方である永久の森へと移して。
「うっわジン先生またやりやがったぁぁぁ!!!」
叫んだ。またやった、というのはアレである。以前に話に出た『永久の森の植物を異常生長させてしまった』という事だ。ここはグラウンドで永久の森の入り口は近い。その入り口から既にウネウネと触手めいた異常植物が溢れ出そうとしているのだ。
「アレは我々で処理をする! 生徒諸君は下級生から順に魔法陣に入りなさい!」
校長が突いていた杖を差し向けて異常植物の方へ土の魔法を放ちながら指示を出した。校長先生の魔法により異常植物が大地の牙によって大きく削り取られる。
「ティアッ! 転移先での生徒の管理を頼むッ他の教員とルーシー、イクスはこっちの手を貸してくれ!」
その隙に、教員達やルクシエラさん達へも呼びかける。
だがもう既に触手めいた異常植物が超再生を果たし、何本かグランドに侵入してきて生徒達に迫っており、生徒達、特に戦闘経験の少ない下級生は殆ど恐慌状態で悲鳴を上げながら巨大魔法陣へ向かっていく。
「ま、待って下さいぃ~! エクレアは今まともに動ける状況では……」
酔っ払ったように夢見心地でふわふわ身体を揺らしているエクレアの側でアーシェさんが泣きそうになっていたが。
「では、失礼して」
ナギがひょいっと片手でエクレアの身体を持ち上げ、米俵のように抱え上げる。
「全力で走りますので血痕が付着する事にはご容赦ください」
※ナギの全力疾走は残像が残るレベルです。
「では、参りますっ!!」
「ほわあぁぁぁ!!!?」
エクレアの悲鳴でドッブラー効果を残しながら、文字通り目にも留まらぬ速さでナギはかけていった。
「慌てず急げー! 絶対に、前の人を押しのけたりするなよー!!」
また、あるところではアイルさんが箒に足をかけて空へと舞い上がり先ほど抗議に使って居た旗を、魔法陣の方へぶんぶん振り回して誘導するも、
「〝反対〟と書かれた旗を進行方向に振るなアホウが。みんなが混乱する」
と、跳び上がった一人の上級生がアイルさんの後頭部を強打。
「ごっ!?」
アイルさんはそのまま箒からたたき落とされ、グラウンドに激突。
アイルさんはすぐさま起き上がって、自身のすぐ横に着地した同級生に詰め寄った。
「何しやがるーっ!! イクリプスゥーっ!!」
が。この時放棄した旗が地面に広がってしまう。この混乱した状況でそんなモノが転がれば必然——
「うわぁっ!?」
逃げていた生徒の一人が足を取られ、転倒。それに巻き込まれドミノ倒しように次々生徒が倒れていく。
「む、しまった……」
イクリプスさんは僅かに冷や汗を浮かべる。
「きゃっ!?」
「アリスっ!!」
そのままアリスまでもが巻き込まれ、咄嗟に手を伸ばした。
「あ、ありがとハル君」
「礼を言ってる場合じゃねぇって! 走れっ!!」
俺はそう言って退去方向とは反対方向に身を乗り出す。
アリスのすぐ後ろにまで異常植物の蔓……もはや触手と形容しても過言では無い何かが一つ迫っていたのだ。
「このっ!!」
俺はアリスの前に出てマテリアライズした槍を横に薙いで触手を切り飛ばす。
だが、切られた触手断面から新たに蔓が成長し伸びる!
「嘘だろ!?」
そのまま俺は触手に掴まり宙づりにされてしまった。
「ああもうっ! 格好付けといて君が捕まっちゃ世話ないでしょっ!!」
刹那、青白い閃光が走る。
ドライズが氷で出来た白く輝く細剣を片手に触手とすれ違い、再び両断したのだ。
解放された俺は地面に受け身を取って落下し、体勢を立て直す。
じとっと切り落とされた植物を見つめて納得いかない様子で漏らした。
「流石〝破滅の光〟万能過ぎる。俺がやった事の意味とは一体……」
以前似たような事があった時は再生なんてしなかったのに、と不貞腐れる。
「愚痴って居ないで、早く立ちなさいな」
気がついたらルクシエラが横に立っていて肩をすくめて呆れていた。
「わぁっ!? いつの間に!?」
「ウチの愚弟が余計な事をしたせいで二次被害が起こったので尻拭いに来ましたわ」
「根本的な問題はアイルにあると思うんだが……悪いとは思っている」
星の輝きのような光沢を持つ特徴的な黒髪。薄く開かれた瞼から覗く瞳は宵闇のような漆黒の中に鋭い輝きを宿す最上級生。ルクシエラさんの双子の弟であるイクリプスさんがルクシエラさんに対して不満げに呟いていた。
「お前が叩き落としたからこうなったんだろうがよー!!」
その後ろでアイルさんが未だに文句を言っている。
「だったら貴方達二人ともギルティですわ! とっとと働きなさいなっ!!」
ルクシエラさんは腰に両腕を当て少し前屈みになり、二人を叱り飛ばすように言った。
「下級生に迷惑をかけたのは本意ではない。埋め合わせはするつもりだったがな」
イクリプスさんはそう言うと大剣を一つマテリアライズして蠢く異常植物の山に飛び込み、重さを感じさせないほど軽やかに、片腕で大剣を振るう。
「『我が名は凶兆。破滅を告げる厄災の剣』――」
大剣の軌跡は、直視出来ない程の眩い閃光を残して弧を描く!
「『ダイヤモンドリング』」
刹那、無数の植物が輪切りになったかと思うと氾濫する光が周囲を球状に飲み込んだ。
やがて光がゆっくりと収まっていくとうねる植物の群れの中に綺麗にぽっかりと丸い空白が生まれる。言うなれば、剣技版『ルクス・エクラ』。攻撃規模が収束している分その輝きは一層眩く輝いて見えた。
「僕もお供します!!」
ドライズも剣を片手に、イクリプスさんの後へと続く。
「じゃあオレは誘導の続きをー――」
と旗を拾い上げようとするアイルさん。
するとその背後に小さな影が忍び寄り、ぴょんっと軽くジャンプしながら頭をはたいた。
「だからそれは混乱するから辞めなさいって言われたでしょ!」
「てっ!? リーゼまで叩くこたねーだろー!?」
「私達は空から〝エンハンス魔法〟を使ってみんなが混乱しない程度に脚力へ補助をかけるわよ!」
リーゼはそういうとアイルさんの襟首を掴んだまま歩き始める。
「ちょ、わ、判ったー! 判ったから離してくれよー! リーゼ小っちぇーから体勢がひでー事に——」
今にも倒れそうな程身体を反らせつつリーゼに引きずられるように去って行く。
「やれやれですわ」
ルクシエラさんは呆れた様に呟くと、くるりと俺の方に向いた。
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