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【第二部完結】俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~  作者: 岩重八八十(いわじゅう はやと)
第1部 俺は主人公になれない

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29話 そういう人間を貴方が集めたんですよ?

 くすんだ茶髪と眉間に皺を寄せた気難しそうな表情を常にしている長身の男性。年齢は大体四十代くらいに見えるが、実際はその数倍を優に超えるらしい。所々に魔石が装飾された土色のローブと自身の身丈ほどある大きな杖を突いているのが印象的な教師。


 この学園を運営し、管理する者。

 大地の賢者という異名を持つ、紛れもない大魔導士。

 校長兼理事長のティアロ先生だ。


「生徒諸君、良く集まってくれた」

 重みのある低い声が拡声器によって校庭中に響く。

「今日は私の研究の成果たる魔石技術の基礎に触れるという名目で原石採掘場の見学と魔石製作の実習を行って貰う。魔石に関する技術はあらゆる魔導に応用ができ、非常に重要なものじゃ。みな真剣に取り組んで欲しい」


 お約束とも言える、校長独自の堅苦しい前置きが耳に入ってくるが果たしてここに集った百人弱の生徒のうち果たして何人が真面目に内容を聞き入れているだろうか。


「移動には四年生のレンが考案した瞬間転移魔法陣をルーシーが大人数用に調整したモノを使う。新しい技術じゃが安全性は確認しているし、念のために魔法障壁も展開するので安心してくれ。それから、現地に到着してからの注意事項じゃが——」


 なんて話がくどくど続いているが。そもそも生徒達には校長の話を聞くどころではない理由があった。


「おい、ティル爺。アレをいつまでも放置するつもりか。迷惑なんだが」

 壇の下から一人の上級生がティアロ校長に声をかけつつ指で差すその先には。


「魔石の採掘場になんかウチの子は誰一人連れて行かせないからなーっ!!」

 毎朝日の出と共に奇声を発しながら空を飛行しては生徒達の目覚まし時計代わりとして重宝され親しまれている最上級生主席の生徒、アイルさんが複数名の生徒を抱き締めるように側へたぐり寄せ〝ノーモア・採掘場!!〟とかかれたハチマキを締め〝反対〟と書かれた旗を掲げて猛抗議している様子だった。


 尚、アイルさんが抱き締めている生徒の中にはリーゼも混じっている。


「は、離してアイル! 授業のボイコットなんてだめよ!! べべ、別に今更どうって事無いわ!」

 と、リーゼ自身はアイルさんの行動に否定的だ。だが遠目で見ても判るほどに全身を震えさせていて、立って居るのもやっとのように窺えた。


「リーゼって確か閉所恐怖症、暗所恐怖症だもんな……そりゃ過保護なアイルさんなら全力で止めにかかるわ」

 と俺としては非常に納得のいく光景だった。どうやらリーゼだけでなく、アイルさん達が所属していた孤児院出身の生徒達は皆同じく洞窟の類が苦手らしい。リーゼの様に、参加すること自体には前向きでも身体が全然伴っていなかったり、怯えて縮こまっていたりする子供達もいる。


 それに対してティアロ校長はあー……と困った様に呻いて言葉を続けた。

「魔導士として、非常に有意義な研修になると思うのじゃが……。無理強いをするつもりはない。この学園の生徒達は私にとってすべからく皆孫子のように思って居る。洞窟の類にトラウマがある者達は、採掘場見学の際は施設で待機し、魔石製作実習から加わる様にするといい」


 校長がそう言うと、アイルさんは思案顔をして抱え込んでいた下級生達に耳打ちで確認する。そして、それくらいなら……と渋々了承した。

「さて、問題は片付いたな。事前の配慮が足りずにすまなかった……」

 と小さく頭を下げるティアロ校長にここで伸びる一つの手。


「あのぅ……」

「どうした、アーシェ」

 ティアロが指名するとB組の列先頭に並んでいたアーシェはこちら列を向いておずおずと問いかける。


「何故エクレアが縛られているのでしょうかぁ……」


 視線の先。俺は列の最後尾に居て、前にマナトやナギさんを挟んでいるので確認するために身を乗り出すと。A組の列前方では何故かエクレアが目隠しと猿ぐつわを嵌められた状態で虜囚のように縄で拘束されていた。


「ん~っ!! ん~っ!!!」

 何か呻いているが当然の如く全く理解出来ない。

「レンの仕業じゃな……手荒な真似はよさんか」

 校長は今、エクレアが縛られている事に気がついた様子で頭を抱えた。更に、言葉の通りよく見るとエクレアを縛っている縄はそのままレンの手元まで続いている。


「……脱走犯」

 レンは例え校長相手だろうといつも通りの言葉足らずでぼそりと解答した。

「魔法陣での移動を嫌がったのじゃな……」

「いや、だったらあんな捕縛なんてしなくても前みたいに気絶させれば良いだろ……」


 俺は後ろの方で呆れてそう零した。すると、レンはくるっと振り返って。

「……身体に悪い」

 と、反論してきた。殆ど独り言のつもりだった自分の呟きを拾われた事に困惑していたら、

「んぐっ、ぷはっ! こんな状態で空に投げ出されたら心身両方に悪いっ!!」

 どうにか藻掻いて猿ぐつわを口からズラしたエクレアが全力で叫んだ。


「ではやはり手刀で……」

 ずいっとナギが半歩前に出て袖を捲り指をピンと伸ばす。

「それはもう良いってば!!!」

 何処かで見たようなやり取りが繰り返されようとしている。このままではA組は悪目立ちしてしまい他の生徒達から悪評を買いかねない。


 すると、一年生の方の列から一人歩み寄って来て。

「やれやれ。世話のかかる。ティアロ様、ここはボクに任せていただけませんか?」

「し、シジアンさん!?」

 何故かシジアンをさん付けで呼ぶアーシェさんに首を傾げた。

 ――アイツ等知り合いなのか。

 

 名乗りを上げたシジアンはバサッと百科事典のような分厚い本を取り出す。彼女が普段から読み込んでいるモノだ。そして、頁を捲り誰にも聞き取れないような声で小さく何かを呟く。


「開け、『異伝の七十五章〝幻惑の魔導士〟』」

 

 そして指先から小さな光の球を放った。光の玉はゆっくり進むとエクレアの目前でパチンと弾けるように消える。すると、エクレアは突然ゆらゆらと上体を揺らし初めて。

「ほへぇ……お花畑が見えるぅ……」

 

 もう、完全に素面ではない様子だった。


「え、エクレアぁぁぁ!!?」

 親友の異変にアーシェさんが絶叫するがシジアンはなだめるように説明した。

「安心しなさい。少し幻を見ているだけです。今なら体性感覚もマヒしているので移動の浮遊感なども感じないでしょう。というか、今まさに浮遊感を感じているかもしれません」


「あはぁ……天使になったきぶぅん……」

「本当に大丈夫なんですかぁこれぇ!?」

「ほっとけば治りますから」


 果たして、それは気絶させられて運送される事や目隠し猿ぐつわに縄で捕縛されたまま高速で空中に射出されるのと比べて〝身体に良い〟と断言できるものなのだろうか。と疑問に思ったがこの一件がこれ以上拗れても仕方が無いので黙っていた。


 それとどうでも良い事だが基本的に誰を相手にしても礼儀正しいシジアンが何故かアーシェさんとエクレア相手にだけはどこか扱いがぞんざいな気がするのは何故なのだろうか……。


「ともかく、これで問題は――」


「テラぁ~! ごめぇ~ん!! またやっちゃったぁ~」

 校長が言い切る前に。永久の森の方からトテトテ走ってくる人影の声が新しい問題を呼び込んだ。

「今日はみんな居ないからぁ。のんびり自分の研究に没頭できるなぁって思って好き放題調子に乗ったらぁ、調整間違えちゃったぁ☆」

 桜色の髪をツーサイドアップにした、幼女にしか見えない教員がてへっと舌先をちらつかせながら小首を傾げる。


「何故ただ実習に出かけるだけなのに次から次へと問題が発生するんじゃウチの学園は!!」

 そういう人間を貴方が集めたんですよ? という言葉を多くの教師生徒が飲み込んだ事は言うまでも無い。


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