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【第二部完結】俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~  作者: 岩重八八十(いわじゅう はやと)
第1部 俺は主人公になれない

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25.9話 お、鬼だ……

スリム化作業目印

「あぁ、やっと終わった……」

「うんうん、速さ、質共に及第点ですわ」

 ルクシエラさんは満足げな笑みを浮かべて広場の中央に設置されたプレハブ小屋に入って行く。

 その間俺は周囲を見渡した。

 マテリアライズによって復元されたのは、中央のプレハブ小屋を中心に、大小様々な岩石が積み木のように組み上げられまとまりを作りそれが規則的に配置された空間。

 一言で表すならストーンヘンジだ。


 作業中は特に気にしていなかったがこうやって一望してみると、思うことがある。

「まさかあの人、文化の遺産的なものをイーヴィルごと吹き飛ばしてしまったんじゃ」

 なんて疑問に震えていると。

 プレハブ小屋の天井がカバっと開く。


「ん?」


 次の瞬間、キラキラ輝く何かがまるで噴水のように勢いよくプレハブ小屋から湧き出してきた!


「な、なんだあれ。 ……魔石とお金!?」

 天へと高く舞い上がり落ちてくる金品に困惑していると、ルクシエラさんがプレハブ小屋から普通に出てきたので問い詰める。


「ちょ、これなんですか?」

 こつん、こつんとちょいちょい魔石や小銭が頭に当たって痛い。

「うふふ、これから見物ですわよ。危ないので側を離れないようになさい」

「へ?」


 ルクシエラさんはずいっと俺の腕をたぐり寄せる。

「来なさいな」

「うわっ」

 俺の腕を引いて走り出す。何事かと戸惑っていると、突如ざわざわとして喧噪近寄ってきて。

 がさり、と広場を囲う木々から鳥、獣、人型様々な異形の存在が現れる!


「ってイーヴィルゥゥゥ!!?」

 いつの間にか四面楚歌になって焦るが、ルクシエラさんはつまらなさそうに小さくため息。

「やれやれ。またクラス2以下、しょうもないですわね。たまには3が来てくれないと新作の実験も出来ませんわ」


「え、今から戦うんですか!? 俺全く準備できてませんけど!?」

「でしょうね。けれどご安心なさい。アレを倒すのは私が押しつけられた仕事、寧ろノルマの関係上一匹たりとも貴方にあげる気はありませんわ」

 ルクシエラさんは駆けながら、プレハブ小屋より噴出し落下してきた魔石を数個拾い上げる、ぽいっと放り投げる。

 

 すると魔石が飛んだ先で石造りの巨大な螺旋階段を形成しごとっと落下。


「マテリアライズ? なんで階段なんか突然……」

 と首を傾げながらも先行するルクシエラさんに引っ張られ階段を登る。

「こら、早く登らないとイーヴィルにもみくちゃにされますわよ?」

 そう注意されて、え、と思わず振り返ると。

 もの凄い数のイーヴィルがこちらに向かって殺到している光景が見えた。


「いつの間にかめっちゃ増えてるぅぅ!!」

 ルクシエラさんはマテリアライズにより階段を螺旋状に伸ばしつつどんどん上へ上へと登りファルマも必死についていくがイーヴィルの何体かは既に階段に到達して後を追ってきている。

 普通に考えれば素材の魔石が尽きてこのまま追い詰められるのだが。


 ルクシエラさんは別段取り乱すことも無く、階段を駆け上がりながら横の方を指差した。

「ファルマ、走りながらあっちを見なさい」

「あっち?」

 指差されたのは、未だに空へと魔石と小銭を吹き出し続けるプレハブ小屋。

 よく見たらあっちの方にもイーヴィルが大量に群がっていた。


「イーヴィルについては不明な点も多いですが。私独自の研究で判ってきた事もあります」

「そんな事より追いつかれそうなんですけど!!」

 気付けば数歩後ろに追っ手が迫っていた。

 クラス2以下はルクシエラさん的には取るに足らない相手かも知れないが、俺としては一体倒すのにも苦労する相手だ。

 怯えるなと言う方が無理な話。


「じゃあ高さも丁度良いしこの辺りにしましょう」

 懐に手をいれ、取り出すのは緑色と褐色2つの魔石。

 それをぽいっと放り投げると同時にルクシエラさんが叫ぶ。


「跳びなさいっ!!」

「はいぃっ!?」


 内容を理解するよりも早く、途中で途切れた螺旋階段の端っこから跳びだしたルクシエラさんと、手を引かれているからついて行かざるをえず跳躍。

 そのまま二人とも宙に放り出されるが身体の落下が始まるとほぼ同時に二人の真下へ平たいタイル上の足場が空中に生成され、そこに着地した。

 当然全てを計算しているルクシエラさんはすとっと軽やかに。

 当然何も知らされていない俺はゴチンと床にデコをぶつけて。

 ルクシエラさんはくるりと踵を返してにやりと凄く嗜虐的な笑みを浮かべる。


「うふふ、楽しい楽しいアトラクションですわ!」

 そして、パチンと指を1つ鳴らすと……同時にさっきまで登っていた螺旋階段のマテリアライズが解除され、消滅した。


 結果、二人の後を追って階段を登っていたイーヴィル達は突如足場を失う事に。当然イーヴィル達がどんどん地面へ落ちていく。

 その様子を満足そうに眺めながらルクシエラさんは呟いた。


「結構数が居ましたね。盛大な紐無しバンジー大会ですわ」

「お、鬼だ……ここに鬼が居る……」

「さて、ファルマ。落ちていくイーヴィル達をよく見なさい」

「俺にはそんな猟奇的な趣味はありません」

 引き気味に答える俺の首根っこをガシッと掴まえて、


「良いから、確認なさい」 

 と頭を足場からはみ出るまで引っ張り。

「うわ、危ないな!?」

「私達の後を追ってきていたのは人型のイーヴィルが大半です。対して向こうの小屋には獣型や鳥型が多く集まっているでしょう? ま、中には数匹ずつひねくれ者も居ますけど」


「それが一体?」

「イーヴィルが何処からやってくるのか、何が原因で発生するのかは知った事ではないのですけれど。イーヴィルの特性、貴方もご存じでしょう?」

「あー、えっと、直情的というかなんというか」


「具体的に言えば、金、魔力、女に目がありません」

「もっとオブラートに包んでっ!!」

「大体鳥型は金品を狙います。対して獣型は殆どが魔石、或いは魔力を豊富に蓄えた生物を襲うことが多いです。そして人型は金品や人間そのもを狙うことが半々と言った所。このようにイーヴィルは欲望と煩悩の塊なのです」


「そ、そうですね……」

「そんな訳で、この絶世の美女である私が周囲に目立つモノも何も無い開けた土地で、魔力とはした金をばらまけば必然的にイーヴィルが集まってくるのです」

 自分で美女とか言い出してる所には突っ込まないのが最早伝統だろう。


「そろそろ頃合いですわね」

 ルクシエラさんが下を見ながら呟く。

 気がつけば、眼下の区画にはイーヴィルが大量に集まりひしめき合っていた。流石に千は行かないだろうが数百くらいは居そうだ。

 そして、そうやってルクシエラさんに吊られて下を見たことで漸く、今までマテリアライズしてきたこの区画のストーンヘンジ的建造物の意味を理解する。


「ここ一体が巨大な魔法陣!? でも随分簡素な……」

 それは、魔法陣と呼ぶには余りにもシンプルすぎる図形。

 円形の中にたった3つの記号が設置され、それぞれの内容も、魔法に着いて学んだことがあれば子供でも判るような余りにも簡素もの。属性、効果時間、範囲それぞれ一言だけで指定された魔法陣。果たしてこの図形に関して魔法陣オタクのレンがどのような見解を示すのか気になるとこである。


「さぁ行きますわよ! これが〝破滅の光〟『強度5範囲タイプA』——」

 これまた簡素な詠唱を唱え、かの大魔導が発動された。

「『ルクス・エクラ』!!!」

 両腕を広げて放たれるのは、真っ白な光の氾濫。全てを押し流す津波のようにうねりながら、光線はプレハブ小屋の上空へと直進。

 そしてプレハブ小屋の真上に到達したところで光は球体となって一端宙に留まり、方向を変更したように真下へと放出される。


 巨大な魔法陣によって誘導され、放射された光の波動がやがて地面に対してドーム上に広がってゆき。群がっていたイーヴィル達を飲み込んでいった。

 

 範囲タイプAは地面から上に向けてドーム状に魔力を放出する形式だ。


「うわぁ……相変わらずすげぇ規模と火力」

 俺がぺたっと足場に正座するように座り込んで地面を見下ろし感嘆していると、徐々に光のドームが広がってこちらの方まで迫ってきて――。


「って、余波がっ! 余波がこっちまで来てるんですけど!!」

 慌ててルクシエラさんに訴えるが、ルクシエラはからかう様に笑った。

「全く、男の子ならもうちょっとどっしり構えなさい。きちんと距離を計算しています。ここに届く頃には威力も減衰して人体を害するほどの魔力は残っていません」

「あ、そうなんですか……びっくりしたぁ」

 俺がホッと胸をなで下ろしたその時。


「でも」

 と後出しじゃんけんのようにひとつだけ、ルクシエラさんが付け加えた。

「〝破滅の光〟の特性上魔法は掻き消されるので、受け身の準備はしていた方がよろしくてよ」

「は?」


 耳に入り込んだ情報を脳が処理する。


〝破滅の光〟

 原初の魔力と呼ばれる特異体質の一つ。

 他の魔法・魔導と競合した時、それを魔力レベルまで分解し、魔法としての構成を破壊してしまう。

 脳内でそんな情報の整理整頓を追えた頃には既に、土の魔力で構成され風の魔力で浮遊していた足場は、すっかり消えて無くなっていて。


「ああああああああ!!!?」

 結局俺も紐無しバンジーに甘んじる事となるのであった。

 ボスッと音を立てて、地面に俺の型ができる。

 かなり軟らかい地面で助かったがそれでも痛いものは痛い。


対してルクシエラさんの方はマテリアライズの時に使った魔石に魔力を残していたのかふわふわと優雅にゆっくり降りてきて。

「ちゃんと受け身を取ればギリギリ骨折しないくらいの高さとしても計算してますわ」

「さ、さいですか……」


 ぐいっと引っ張り上げられる首。

 視界には辺り一面綺麗さっぱりつるぺたになった円形の空間。

 イーヴィルも、ストーンヘンジ状の魔法陣も全て破滅の光が分解した様だ。

 本来魔力とはそれ単体では〝魔法という現象の素材〟でしかなく、それそのものに何かしらの現象を引き起こす程の影響力は無い。

 例えば、炎の魔力が濃い空間でも一定量・配分の魔力が一点集中することで漸く〝炎が起こるという現象が成立〟する。


 そのためどんなに濃い炎の魔力であったとしてもそれそのものには熱などもなく、触れたり包まれたりしても火傷することは無い。

 だが、原初の魔力は魔力そのものに特殊な現象を引き起こす作用があるのだ。

 〝破滅の光〟の場合はそれが魔法の分解である。

 そして原初の魔力を用いられた構成された魔法にもまた、原初の魔力が持つ能力が付与される。


「お掃除完了、ですわ」

 ルクシエラさんはさっぱりした様子で周囲を見渡した。

 一段落ついた、と俺は時計を確認してみる。

「あー。結局午前全部さぼっちゃったな……」

 と、その場を去ろうとした。


 ――が。


「あら、何をおっしゃっていますの?」

 がっと肩を押さえられられ。

「え?」

 どういうことかと振り返るとルクシエラさんはにこにこ笑って親指を突き立ててくいくいっと自身の背後を差す。


「…………え?」

 周囲を見ろと言う事か? そんな事を言われても、もうこの辺り一帯は来た時みたく綺麗さっぱり何も残ってな——


「あ」


 気付く。


 僅かな間を置いて、好きを伺い手を振り解いてすかさずダッシュ!


「甘いですわ」

 ルクシエラさんはポケットから何かを握り込み、拳の中からピンっと親指で握り込んだ何かを放つ。

 転がったのは小さな魔石。

 魔石は俺の進行方向に転がって、小さな、それでも決して無視は出来ない小石へと変化して。


「がっ、もっ!!」

 俺は見事に蹴躓いて顔面から地面に叩き付けられた。


 軟らかい土で本当に良かった。

「もう一回働けますわ♪」

「い~~や~~~だぁああああ~~~~!!!」

 嫌がる俺の足を背負うように抱え上げ、中央の方へずりずり引きずるルクシエラさん。

 俺のバイトは、まだまだ終わりそうにない……。


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