外伝2.5話 僕の事を『主人公』だ、なんて呼ぶヤツが居る。
ドライズ視点
時は一日と少し遡って、
ここは私立天導学園。
校長兼理事長であるティアロ校長先生が完全に私情とその有り余るポケットマネーで作り上げた、『彼の手足たり得る優れた魔導士』を育成する為の学園――って聞いてる。
こういう説明をするとなんだかティアロ先生が配下の育成を目論む悪の親玉か何かに見えるかもしれないけどちゃんと良い先生だ。
僕の名はドライズ。
今、この世界で三人しか使え無い〝破滅の光〟という魔力を継承した魔法使いで。本当の名前も、産まれた国も判らない。
僕は幼い頃、当代の〝破滅の光〟を身に宿す大魔道士ルクシエラ師匠に偶然拾われてドライズの名を与えられ、それ以来養子兼弟子として一緒に学園で生活をしている。
僕は自分でそんな風に思ってる訳じゃ無いけれど、そんな僕の事を『主人公』だ、なんて呼ぶヤツが居る。
さて、全校生徒百人にも及ばないの少数精鋭の学院で、全寮制。
魔法というものは心、精神を由来とする力。
そのため、特に若年層においては精神の発達が早い女性の方が魔法を扱う適正に優れる事が多い。
その結果この学園も男女比は大体男:女で三:七。寮は三階建てで一階が男子層。二・三階が女子層となっている。
時間は朝の六時頃。漸く陽が昇り始め暗闇が消えていこうとしている時間。
男子層の一室でいつもの様にカーテンを開けた。
すると、空からは朝を告げる〝鳴き声〟が聞こえて来る。
「イィィィィィヤッホォォォォォォ!!! フリィィィダァァァァァッンッムッ!!!」
箒をサーフボードのようにして奇声を発しながら空を縦横無尽に駆け回る上級生。
窓を開けた僕は、そんな上級生を見上げていつものように深呼吸と共に伸びをする。
「うん、アイルさんは今日も元気だなぁ、良い朝だ。さぁ、僕も元気出していこう!」
天空駆ける奇人が発する早朝の雄叫びは、この寮に住む者達にとって鶏の鳴き声的な風物詩なんだ。
あの声のお陰で朝寝坊せずに起床できている生徒も少なくない。(余談だけどあんなのでもアイルさんは最上級生の主席の成績を持つ優秀な名生徒だ)
いつも通りの朝を迎え、身体を目覚めさせた僕はその腰まで伸びた水色の長い髪を後頭部で一つに括った。そして、朝食と昼用のお弁当を作るために自室の台所へ向かう。
その途中、一度ベッドによって下段で未だに熟睡している同居人の身体を揺すった。
「ファルマ~朝だぞ~。どうせ起きないのは知ってるけど」
「ぅぅ、ぁぁ、あと五時間……」
「清々しいほど自分の欲求に素直だ。僕は起こしたからね~? 寝坊してもキミの責任だからね~?」
僕はそのままキッチンで支度を始める。
料理が趣味なんだ。
だから、朝食とお弁当をこの時間に作ってしまってる。
数時間後に自分で作った朝食を食べて、味わいつつ、反省点を考えて。
それから七時半には登校。
僕はいつも通り、時間ギリギリまで二段ベッドの下段で眠りこける親友を置いて、先に学校へ登校した。
一時間ほど経って八時頃。ここは第二校舎二階、四学年第一クラス、Aの教室。
僕はクラスメイトと談笑していた。
会話の相手は小柄で痩せた様子の女子生徒。
クラス委員長のヴェルリーゼ。少しだけ長い名前なのでみんなは〝リーゼ〟と呼んでいる。
「それで、私が蹴躓いて転びそうになったところに颯爽とアイルが現れて。スライディングで私の転んだ先に割り込んできてそのまま掬い上げる様にお姫様だっこをして助けてくれたの」
「相変わらずアクロバティックな事するなぁあの人……」
アイルさんとリーゼはとある孤児院の出身で、アイルさんは同じ孤児院の生徒達に対して超過保護な事で有名だ。当然、リーゼもその一人である。
「で、その後小一時間ほどお説教したわ」
「まぁいくらリーゼを助ける為とは言えアイルさん自身も危ないよね」
「いえ。そうではなく。転んだのが部屋のシャワールームだったから」
「マジで何やってんのあの人!!?」
「ま、私は別に良いんだけど。あの調子だと他の子がいる大浴場にまで乱入してきそうな気がしたから釘を刺しておいたわ」
「あの人ならやりかねないって思えちゃうのが凄いね……」
そんな感じで他愛のない話をする事数十分。
「あら?」
ふと、授業の準備をしていたリーゼが首を傾げた。
「なんかそこ、変な光が当たってるんだけど何かしら?」
と指差すのは教室前方、窓のすぐ側。なにやら紅い円形の光が床に現れていた。
僕は光の円へと近づき、上から見下ろす。
「え、これって確か師匠の『警告灯』? えっと仲間に魔法とか攻撃の攻撃範囲を教えるもので、『この枠内はあぶないですよ~』っていう意味の――」
と、言う僕の言葉を聞いていたリーゼは何故か流れるように自然な動きでその場から距離を取っていた。
その次の瞬間。
ガッシャアアァァァァン!!!
突如空から飛来した謎の物体はガラスをぶち破って『警告通り』紅い円の中心に着弾。その後一度バウンドして近くにいた僕を巻き込む。
「ペグぅッ!?」
飛来した物体と僕はそのまま机を弾き飛ばしながら廊下側の壁に衝突した。
「先んじて離れておいて正解だったわ……」
やれやれと呆れた様子で、リーゼは吹き飛んでいった僕の元へ歩み寄ってくれる
「うきゅぅ……」
僕は目をグルグル巻きにしつつもなんとか意識だけは保っていて。
「うぁぁ……」
僕を跳ね飛ばした『飛来物』の正体。布団でグルグル巻きに拘束されている人間。
その人物に、リーゼが語りかけた。
「おはよう、ファルマ。今日はまた大胆な登校だこと。全く、何があれば簀巻にされて飛んで来るのやら」
呆れながら布団とロープに手を伸ばすリーゼ。
「れ、冷静だね、リーゼ……」
僕はなんとか立ち直りながらそう零した。
この学園は色んな事が起こるけど、流石にさっきまで二段ベッドの下段で眠っていた親友が突然簀巻きにされた状態で窓から飛来してくるなんて思ってもみなかった。
「大体毎日こんな感じじゃない。この程度で一々驚いて居たらこのクラスの委員長は務まらないわ」
そう言い捨てて、リーゼはファルマを縛る布団とロープを解いた。
「ッ!」
拘束が解けた瞬間。ファルマは反射的に立ち上がり、
ガラス片を踏み砕きながら窓の方へ駆け出して虚空へ向けて叫ぶ。
「下手したら死んどるわボケェェェェッ!!!」
それが誰に向けられた言葉なのか、僕は反射的に理解した。
「ああ、また師匠に連れ去られて〝アルバイト〟させられてたんだね……」
ファルマは僕に並ぶ、ルクシエラ師匠の二番弟子。
――なんだけど、何故か本人はそれを認めようとしない。
僕とファルマは兄弟弟子で、もうずっと、十年以上の付き合いだ。だからあいつが考えて居る事は少しくらい判る。
多分〝平凡な自分が師匠の弟子を名乗ったら師匠の名に傷を付ける〟とか思って居るのだろう。
師匠はそんな事、一切気にとめない人柄なのはファルマも知ってるだろうに。
……ともあれ、朝っぱらから騒々しい学園なんだけど。
この学園では誰もが笑っていて、僕はそんなみんなの笑顔とこの学園が大好きだ。
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