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【第二部完結】俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~  作者: 岩重八八十(いわじゅう はやと)
第1部 俺は主人公になれない

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25.3話 楽しい楽しいアルバイトの時間ですわ!

     ◆  ◆  ◆

 

 一度彼女が歩み出せば、人々は慌てて道を譲る。

 そんな周囲の様子など気にもせず、彼女は胸を張りキビキビと進む。

 月明かりを結晶化したような白く美しい輝きを放つ彼女の長髪がその背で自由気ままに揺れていた。

 

 ある者は眉をひそめて彼女をこう呼ぶ。

『破滅の魔女』と。

 

 また、ある者は恐れおののき彼女をこう呼ぶ。

『生ける天災』と。

 

 そんな、例えこの学園の生徒で無くとも誰もが知っているような彼女の二つ名を知らぬ者がただ一人だけ存在した。


 そこは、4年A組前の廊下。


「あれ? なんだか急に廊下から人が減ったような?」

 無垢な疑問の表情を浮かべる少女の姿を、彼女は捉える。


「もし、そこのお嬢さん」

「ふえ!? お、お嬢さんって私ですか?」

 戸惑う少女に、彼女はとても優しい笑顔を見せた。


「貴女はこのクラスの生徒ですわね? ファルマという生徒が居ると思うのだけれど、彼に取り次いで貰えませんこと?」


     ◆  ◆  ◆

 

「ふぁ~あ」

 俺は欠伸をしながら、授業が始まるまでまた目を閉じておこうかと考えていた。

 ここ数日、睡眠不足が続いて疲れが溜まっている気がする。


 その時。


「ファルマ君、ちょっといい?」

 聞こえてきたのは最近編入してきたユウという女子生徒の声。

「え、あ、う、俺?」

 彼女との接点は殆ど無く、特に声をかけられる用件が思いつかない。

 思わず戸惑ってしどろもどろになる。


「なんだかとっても綺麗で上品なお姉さんが君を呼んで欲しいって教室の前に来てるよ」

「綺麗で上品なお姉さん……?」

 はて、俺にそんな知り合い居ただろうか。

 

 俺の友好関係は自慢じゃ無いがとても狭い方だ。同級生ですら目を見て話せるのはドライズとリーゼくらい、お姉さんというからには上級生なんだろうが上級生で女性の知り合いなんてたった一人しか思い当たらない。


 しかしその人物を知る人間からはとてもじゃないが綺麗だとか上品だとかいう言葉がでてくるなんて考えにくい……。

 釈然としない様子の俺に、ユウさんは一言付け足すように言った。

「えっと、『バイトの時間ですわ』って伝えれば判る筈だって」

 

 俺はガタッと椅子を弾き飛ばして立ち上がる。

 続いてダンッと力を込めて左足を踏み出し身体を窓の方へ向ける。

 そしてガラッと窓を全力でスライドさせ、

 ガッと右足を窓の枠にかけた!


「「「「!!!?」」」」


 あとはこのまま大空へ羽ばたくだけだッッッッ!!!


 身体中を支配する震えを押さえ込み、今まさに跳び立とうとした。

 ……が。


「ちょ、ちょ、まっマー君いきなり何してんのぉ!!?」

「……ここ、三階。危険」

「アンタ風属性持って無いでしょ!? 何考えてるのよっ!?」

 エクレア、レン、リーゼが凄まじい反射速度で服の裾をがっしり掴み、反対側に体重をかけて必死に制止していた。


「うぁああぁああ!!! 頼む、離してくれッ!!」

 ただでさえ疲れているのだ。今はアルバイトなんてしたくない!

「訳判らないって! こんな所から飛び降りたら死んじゃうってばっ!!」

「えっ、えっ……え……?」

「ユウ! ぼうっとしてないでこのバカを取り押さえるの手伝って!!」

「あ、う、うん……」


「四人がかりなんて卑怯だぁあああ! うおおお俺は屈しないぃぃぃッ『強化魔法(エンハンス)』!!」

 俺は持てる全ての魔力を身体強化に注ぎ込み、引きずり返されていた身体を少しずつだが前に進める。


「こんな所居られるかッ俺は帰らせて貰うぜッ!!」

「……その台詞、多分使いどころ違う」

 そして俺は四人を乱暴に振り払う。


「そこだああああ」

「良くわからないですが危なそうなので、僕も止めさせて貰いますよ」

 突如現れる気配、この声は……マナトかっ!?

 シャッと流れるように窓が閉ざされる。しかし、最早そんなものどうでもいい。


「ええいこなくそぉ!!」

 俺は勢いに任せてタックルをし、窓をぶち破った。


 この世の全ての動きがスローモーションに見える。

 舞い散るガラス片はキラキラと輝いて、

 腕で顔を庇いながらも前方を確認した。

 すると、緑色の制服を来て箒に跨がった男が視界に入る。


「ん?」

「へ?」

「「…………」」


 互いを認識し、沈黙が走る。

 

 俺が跳び出したその先で。

 偶然箒に跨がり空をのんびり散歩していた最上級生、アイルさんと蜂合ったのだ。

 

 アイルさんの視線が

 俺、

 教室のリーゼ、

 俺へと移動。

 この間実に一秒以下。

 

 次の瞬間、アイルさんはキョトンとしたまま、とりあえずと言わんばかりに、

「なんか知らんけど……オレはリーゼの味方なんでー」

 と言ってくるっとその場でターン。すると箒の穂が弧を描いて俺の方に迫ってきて、

 べしっ

「ほぁがっ」


 ものの見事に打ち返された。俺はそのまま教室に放り込まれ、幾つかの机に衝突してそれらを吹き飛ばす。身体能力を強化していたので幸い怪我はそれほどない。


「決まったぁあ!! マー君をゴォルにシュゥウゥト!」

 球技の実況風にはやし立てるエクレア。

「も、もう何がなんだか??」

 ひたすら呆然とするユウ。

「教室が滅茶苦茶なんだけど……」

 頭を抱えるリーゼ。

 

 そして――。

 

「あらあら、相変わらず元気が良いこと」

 俺の前に、諸悪の根源が立ちはだかる。


「あ、あぁ……」

 近づいてくるその人物から逃げる為、俺は尻餅をついた体勢でかさかさと必死に後ろに下がるがやがて壁にぶつかってしまう。

 彼が追い詰められた事を確認するとその人物はニッコリと一層凶悪な笑顔を見せた。


「さぁ、今日は楽しい楽しいアルバイトの時間ですわ!」

 全てを諦めがくりと項垂れる俺の首根っこを掴むと、俺はずりずりと引きずられて連行されてしまうのであった。

 引きずられつつ視界に入った、マナトが残像も残さぬ素早さで教室を元通りに直していく様が妙に脳裏に焼き付いたのはバイトという現実から目を逸らそうとした自己防衛本能のせいなのかもしれない……。


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