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【第二部完結】俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~  作者: 岩重八八十(いわじゅう はやと)
第1部 俺は主人公になれない

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25話 昔みたいに

 また、夢を見た。

 今まで何度も見た事がある夢だ。

 この夢を見た日の朝は決まって涙を流し、自己嫌悪に押し潰されそうになる。

 内容は、毎回多少異なるが趣旨は同じ。


 ――またかよ。


 一人の女の子が自分の元に駆け寄ってきて。

 にっこり微笑んで語りかけてくる。

 なんて言っているかは忘れてしまうけれど、それが〝俺の望む言葉〟だという事だけは判る。


 ――俺はどうして、受け入れるんだ。


 そうやって幾つか言葉を交わして、女の子は俺の手を取るのだ。

 俺は何の疑問も無く、嬉しそうにその手に引かれて女の子の後を着いていく……


 ――俺は何度、後悔するんだ。



 ×  ×  ×


「……うっ、え?」

 目が覚めた時、頬を涙が伝っていた。

 悪い夢を見ていた気がする。

 自分が嫌で嫌でたまらなくなるような、そんな夢を。

 でも、どんな夢だったのかいまいちハッキリしない。


「そうだ、たしかアリスが出てきたような……」

 頭がぼーっとする。

 時間を見てみれば、例にもよってまだ早朝だ。

「夢にまで見るなんて、浮かれてんのか?」

 俗物というか、単純な自分が情けない。


「ふわぁ……眠ぃ……」

 寮を出てすぐのところで大きな欠伸をする。

「また早起きなんかしちゃって、ホントに昨日も今日もどうしちゃったのさ」 

 ドライズがやれやれ、肩をすくめた。


「早起きは三文の得なんて言うが、俺的には損しか感じ無いな……」

 そうぼやきながら歩いていると、


「あ、おはようハル君!」

 ニコッと笑顔を浮かべてアリスが駆け寄ってくる。


「おわっ!? お、おはよう?」

 思わずビクッと戸惑いながら返事をすると、アリスは頬を膨らませた。


「むぅ。女の子に対して出会い頭に〝おわっ〟とか言うの失礼じゃ無いかな?」

「え、あ、す、すいません」

「何で敬語なのかな?」

「いや、突然女子に声かけられるの慣れてないんだって」

「ねぇファルマ。それ、すっごい哀しい台詞だって判ってる?」

 とドライズに指摘されて自分が発した言葉の切なさを認識する。


「……俺も今気付いた所だからそっとしておいてくれないか?」


 アリスは俺の顔を覗き込んでくすくすと笑った。

「欠伸したり驚いたり落ち込んだり、ハル君は朝から忙しそうだね」

「アリス、根本的に誰のせいなのか判ってるか?」

 ジトッとした視線をアリスに向けて見る。


 だが、寧ろ横に居たドライズはもっとこう何かを糾弾するような視線を俺に突き刺して。

「普段から社交性の無い自分のせいでしょ」 

 と、弾丸の様な発言を放った。


「ごはっ!?」

「わぁ。クリティカルヒットって感じだね」

「ドライズ……朝っぱらから親友虐めて楽しいか……?」

 掠れるような声で訴えるがドライズは〝じゃあ日頃の行いを改めればいいじゃん?〟とでも言いたげだった。


 そんなドライズの心の声に気付かないふりをして、アリスに話を振る。

「……それで、俺はもう瀕死な訳なんだけどなにか用?」


「用って程じゃ無いけどね。昔みたいに一緒に登校しようよ?」

「はいぃっ!?」

「それじゃ、こんなところで立ち止まってないで歩こうね~」

「待ってってば! 今のは了承の〝はい〟じゃないっ!!」

「ハル君、さっきから口調ブレブレじゃないかな?」


「精神的に錯乱してんの!!」


 そうやって慌てふためいているとアリスは物憂げに視線を下へずらし。

「私と一緒じゃ迷惑……かな?」

 と、ゆっくり背を向ける。

「いや、えっと、そういう訳じゃないけど、でも、」

 俺はしどろもどろになりながら挙動不審に周囲を見渡す。


 とりあえず何かしらのフォローを求めてドライズに視線を向けるが。

「あ、そう言えば今朝は師匠に呼ばれてるんだった」

 こいつは〝丁度良い機会じゃん〟と言わんばかりにあからさまな嘘をついて。

「悪いけど先に行くよ。それじゃ~」

 小走りで去って行く。


「あ~……」

 そして取り残された俺はアリスと二人っきり。

「俺は全然迷惑じゃ無いけど」

 観念したように頭を掻いた。


「変な噂立っても知らないぞ? それに、自分で言うのもなんだけど俺友達少ないから、俺とばっか一緒に居ると友達作りづらいんじゃないか?」

 すると、アリスはくるっと反転して再び俺の方を向き。


「なぁんだ、私の心配してくれてたんだ。相変わらず優しいね」

 と顔を綻ばせる。

 さっきまでの物憂げな仕草はどうした。

「……もしこの一連のアリスの態度が演技だったら俺、人間不信になるからな」


「演技なんて失礼しちゃうかな。折角、仲良くしようねって言ったのに煙たがられて哀しかったのも、心配してくれて嬉しかったのも全部本当なんだから」

「け、煙たがってなんか……!」


 否定しようとして、言葉に詰まる。

 

 声をかけれただけで驚き、慌てふためいた挙げ句に何だかんだ理由を付けて突き放そうとしていた今までの言動を振り返ってみれば、客観的に煙たがられてると感じて当然だった。


 ……故に自分がそんな事をしていたなんて気付くと酷く胸が痛んだ。


「――ほんとごめん。言い訳にしかならないけど、そんなつもりは無かったんだ」

「気にしないよ。ハル君はハル君なりに気遣ってくれてたって判ったしね。それより早く行こうよ。何だかんだで結構話し込んじゃってるんじゃないかな?」

「……うん」

 俺はまた少し自分の事が嫌いになりながらアリスと並んで歩き始める。


 こうしていると本当に、懐かしい気分になる。

 昔、まだ年齢も一桁くらいだった頃。

 毎日こうして二人で登校した。

 あの頃は無知で愚かだったけど、でも、楽しかったな。

 

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