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【第二部完結】俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~  作者: 岩重八八十(いわじゅう はやと)
第1部 俺は主人公になれない

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24話 これからも仲良くしようね?

     ◆  ◆  ◆


「え、普通に滅茶苦茶仲いいじゃんあの人達。もうこれ完全にデキちゃってるんじゃないの??」

 エクレアは呆れた様子でアーシェと顔を見合わせた。


「や、やっぱりお邪魔なのでは……」

「異性の幼馴染みの距離感って普通こんなもんなの? あたしら同性だからわかんないよ!」

 上着を借りるという行為はやはり、年頃の若者達にはそれなりに意味深に見えるモノだ。

 

「うーん?」

 一方、ドライズはやや後方からファルマとアリシアを眺めつつ。今日一日中感じている違和感が増大していく事に頭を悩ませている。


 すると、

「……嫉妬?」

 と、突然かけられる声。びくっと視線を声の方に向ければレンがじぃっとドライズの方を見つめていた。

「え、僕が? 誰に?」


「……取られて悔しい、とか」

 レンが視線をファルマとアリシアの方に向ける。だがいまいち意味が判らない。というか主語が無いから本当にわかり辛い。ファルマに、アリシアを取られて悔しいから嫉妬していると思われているという事か? と考えてドライズは困った様に答える。

「女好きじゃあるまいし転校したばっかりの子にそんな風に思ったりしないよ?」

「……そうじゃない。でも、つまり意外と余裕と言う事?」

 レンはドライズの回答に納得していない様だったが、ドライズは頭の上に浮かべるハテナの数を増やすばかりだ。


 改めて、ドライズはファルマの事を心配そうに見つめた。

「アリシアさんの方は至って普通に見えるのにファルマのヤツ――何をあんなに()()()るんだろう?」

 ファルマは教室で幼なじみだからと言って仲が良いとは限らないと言って居たが、アリシアさんの言動は真逆だ。好意を隠さず全面的に押し出している。

「あいつの性格なら、仲が良くないと思ってた友達が寄り添ってきたら照れはすれど喜びそうなものなのに」

 

     ◆  ◆  ◆

 

 森の中心に位置する場所、大きく開けた広場にそびえる巨大な桜の木。

「着いた。ここが万年桜、永久の森の気候はさっきも言った通りすごい勢いでコロコロ変わってるんだけど、この桜だけは季節の変化を問わずにずっと花を咲かせ続けているんだ」

 アリスは巨木に歩み寄り、見上げる。


「わぁ! 凄いね! おっきい!」

 麓に立てば、空の全てが桜色に埋まる。

 はらりはらりと舞い散る花弁は不思議な事に決して尽きる事は無い。

〝万年桜〟は永久の森の神秘性と異常性を象徴しているようだ。


「魔法って感じがするね。転校してきた実感が沸いてきたかな」

 ヒラヒラと舞い落ちる桜の花びらと戯れながら、アリスが笑う。

 そんな彼女がチラリと視線だけこちらに向けて、

「はるばる、ハル君に会う為にこの学校へ来た甲斐があるってものだね!」

 

 その言葉に、凍り付いた。


「……え?」


 ――会いに来た? わざわざそのためだけに編入を?

 

 一瞬頭が真っ白になりそうな程戸惑い、けれど。


「な~んちゃって! 真に受けたでしょ? 冗談だからね」

 アリスはにひひ、と悪戯な笑みと共に呆然としていた俺のデコを弾く。


「なっ、おま、」

 よくよく考えてみれば当たり前の事なのに、一瞬本気にしてしまった自分が恥ずかしい。

 

 気がつけば、アリスのペースで弄ばれている気がする。

 でも、少しだけ安心している自分がいた。


 アリスにはもう二度と、こんな風に笑いかけて貰えないだろうと思っていたから。


「ね、ハル君」

 アリスは巨木の幹に背中を預け、様子を伺うような視線を俺に向ける。

 

     ×


「これからも仲良くしようね?」


     ×

 

「あ、ああ」

 何だろう。今、大切な何かを忘れてしまったような。


 胸の奥が、ざわざわする。


 けれど、そんな不安染みた感情は。


     × ×


「よろしくね、ハル君!」

 アリスはこの日一番の笑顔を見せてくれると、あっと言う間に吹き飛んだ。


 とても可憐で、美しく。

 けれど、何処か蠱惑的に見えた。


     ◇ ◇ ◇


「あぁ~! 疲れたぁ……!」

 俺は寮室に帰るなりすぐに自分のベッドへ飛び込む。

「もう、だらしないなぁ。ちょっと歩いただけじゃないか」

 ドライズはエプロンを手に取りつつ呆れた様に呟いた。

「いや、気疲れが……」

 万年桜の広場で軽く休憩した後、簡単に校舎を回って施設の説明をして解散した。


 何かしら特筆するような事も起こらず、エクレアは不満げだったが。

「何でそんなにいつにも増して気を張ってるのさ?」

 

     ×  ×  ×


 問われて、疑問に思う。俺は何を悩んでいた?


     ×  ×  ×


「色々あるんだよ、俺にも」

 とりあえずドライズには適当に答えた。

「ふ~ん。あ、言っとくけど今日はもう時間無いし簡単なスープにしちゃうから」

「大丈夫、食欲ねぇし」

 ドライズはそのままキッチンへと入る。


 俺はベットに突っ伏しながら、今日一日の事を考えて居た。


「ははっ、どうなってるんだよ、ったく」

 ごろんと寝返りをうち、低い天井を仰ぐ。二段ベッドの下段なので当然だ。


「突然幼馴染みが転校してきて親しげにしてくれるとか、都合の良いラブコメかよ」

 偶然知り合いが転校、編入してくる事自体はそう不思議な事でも無いのだが……。


 ――ずっと、嫌われてると思ってたのに。


 確かに、昔は仲が良かったのは間違い無い。

 当時の学校には毎日一緒に登校していたし、お互いに家に遊びに行ったりもしていた。

 だが、アリスとはある日を境に言葉を交わさなくなり、進学先も異なっていたためそのまま疎遠になっていたのだ。


 だから、アリスが俺を〝仲の良い友達〟だと紹介していた事には酷く困惑した。


 ――…………あれ?


 一体何があって、俺はアリスと疎遠になっていたんだっけ?

 とても大切な事だった筈だ。


 なのに、思い出せない。


     ×   ×   ×


 胸がもやもやするが、思い出せないモノは仕方が無い。

 アリスは今日〝友達として〟頼ってきた。

 その気持ちには誠実に答えなけれないけない。


 そんな、強い義務感が込み上げる。

「これからも仲良く、か」

 何故だろう?


 その言葉はとても、とても。

 ——涙が出るくらい嬉しい言葉だった。


 なのに……。


「……?」

 ちくり、と胸に何かが突き刺さった様な違和感が拭えなかった。

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