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【第二部完結】俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~  作者: 岩重八八十(いわじゅう はやと)
第1部 俺は主人公になれない

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23話 〝永久の森〟

 永久(とこしえ)の森。それは、学校の敷地内にある広大な森だ。

 その入り口を、てくてく歩く。

 俺は今、とても困っていた。

 ただでさえ感情と状況の整理がついていない状態なのに。

 

 俺はぽつり、と呟く。


「……あのさ、アリス」

「なぁに、ハル君?」

「なんでこんな事になったんだろうな……」

 片手を額に当てる俺の姿に、アリスは苦笑した。

「私にも良くわからないかな」


「はぁ」


 俺は意を決して立ち止まり、くるっと後ろに振り返って叫ぶ。 


「なんなんだよこの人数っ!!?」


 俺の声に、後ろに続いていた人々は思わずビクッと驚いて立ち止まった。

 その数、四人。俺達二人を入れると計六人とそれなりに目立つ人数だ。


「いやいや、最近物騒だからさぁ! 人数は多い方が安心でしょぉ?」

 なんて悪びれる気が一切無いエクレアと、


「とかなんとか言われて気がついたら連行されてたんだけど」

 と、エクレアへ不満げな視線を送るドライズに、


「……観察」

 主語が全く無いので何を観察しに来たのかは不明だが何故か居るレン。


 最後に、丸眼鏡と尋常じゃないくらい長い二つの三つ編みが特徴的な少女が目を逸らしつつ申し訳なさそうにおずおずと弁明する。

「えぇっと、あのぅ、お邪魔してすいません……」

 B組のクラス委員長にしてリーダー、土属性専攻のアーシェ。

 クラスメイトでは無いがいくら交友関係が狭い俺でも、流石に知っている人物だ。


「別に邪魔とは言わねぇけど、たかだか学校案内に大仰過ぎるだろ……。ていうかなんでB組の委員長までこんな所に……」

「私の粋な計らいだ! 思ってたより人数が増えちゃったから、一応監督役が居た方がいいと思ったんだけどリンリンが居なかったんで急遽アーシェを連れてきたのです!」

 

 エクレアは良い仕事をした、と言わんばかりに胸を張るが。

 そもそもエクレアが着いてこなければこんな人数になる事も無かったのでは?

 なんて言っても多分受け流されるだけなのでぐっとその言葉を飲み込んだ。

 

 すると何故かアーシェさんが困ったように頭を下げる。

「うちの子が迷惑をかけて本当にすいません……!」

「いや、もう慣れた——って、()()()()?」

「エクレアとは古い付き合いでして……」

 そう言えばアーシェさんは、基本的に誰でも彼でも妙なあだ名で呼ぼうとするエクレアが珍しく本来の名前で呼んだ。

 それが距離感の近さを感じさせる。


 とにかく、この様子だと常日頃からエクレアに振り回されてそうな雰囲気を感じて呟いた。

「あー……なんていうか、ご愁傷様」

「根は、根は悪い子じゃ無いんですぅ……」


 よよよ、とほろり零れる涙にハンカチを当てるアーシェさんの肩をドライズがポンと叩いた。

「判るよ……。人付き合いに問題を抱えてるヤツと組んでるとフォローが大変だよね」

 なんて共感を示す姿勢に俺は思わず声を漏らす。


「おいコラ、何が言いたい」

「反応するって事は自覚があるんじゃないの?」

「てめぇっ!」

 言い返そうとしたところで、ふとアリスが首を傾げた。


「あれ? ハル君って人付き合いに問題があるのかな?」

「うっ……!!」

 腹に強烈な一撃を食らったようなうめき声と共に身体が凍り付く。


「昔は、人懐っこくて誰にでも物怖じしない明るい感じで友達多かったよね?」


 そんなアリスの言葉に、その場に居た一部の人間がギョッと驚きを隠せない様子で一斉に俺の方を向く。

 反応しなかったのはドライズくらいだ。


「え、う、嘘でしょ? マー君が人懐っこくて明るいとか想像できないんだケド」

「……不気味」

「てっきり気難しい方なんだとばかり……」

 散々な言われようだが、それもこれも俺自身の自業自得なので仕方が無い。


「少し暗くなったかな~っとは思ってたけどね」

「やっぱり判ります? なんか最近急に捻くれちゃって……人と距離を取るようになったと言いますか」

「でもその割には教室で走り回ったり、やんちゃな所はそのまんまなんだね」

「無理して格好付けてるだけだから、簡単にボロが出るんです。だったら初めから気にしなければ良いのにって思うんですけど」


「おいこら本人を前に好き勝手言うなっ」

 恥ずかしくなってドライズをぐいっと押しのける。


「別にどうでも良いだろ俺の社交性なんて!」

 保護者面談じゃ無いんだ。

 自分の性格についてどうこう言われたくない。


「とりあえず、万年桜を目指すからなっ」

 無理矢理話題を学校案内の方に切り替えて、俺は先頭を進んだ。


「万年桜って何かな?」

 アリスの疑問に、ぬっとエクレアが現れ。

「ほい来た! そういう訳でアーシェ、解説よろしくぅ!」

 ずいっと後ろからアーシェさんを引きずってきて自身と立ち位置を入れ替える。

「割り込んで来た癖に自分で解説するんじゃねぇのかよ」


「万年桜とは、永久の森の中心にそびえる桜の巨木の事です。季節を問わず花を咲かせているのでそう呼ばれているんですよ……」

「そして委員長さんは当たり前の様に解説を始めるんだね」

「こういう扱い、もう慣れちゃいましたので……」

 アーシェはそのまま永久の森について詳しく語り始めた。


 永久の森とは校舎の裏に裏庭を挟んで存在する広大な森で全てが学園の敷地だ。元々は土の魔力が強く生命豊かな森だったらしく、実習や演習の為に存在していたらしいが。

 広すぎる土地に対して実際に利用していた部分が少なすぎた。


 そこで――。


「全く、人間とは仕方の無いもので。とある先生が不老不死の研究をする箱庭にしてしまいまして」

 その結果、通常の何倍もの速度で生命サイクルを繰り返す植物が誕生。

 それだけなら単に芽生えては枯れてを繰り返すだけなのだが、何の因果か魔法が暴発して植物が大増殖を開始。

 更に動物レベルの知能を獲得してしまい最早イーヴィルと大差無いレベルの魔物と化して収拾が付かなくなり、全校生徒全員で討伐する事に。


 男女関係無く触手プレイ地獄に巻き込まれつつもどうにか事件は解決し、魔物化した植物は排除できた。


 そして残ったのが、数週間単位というもの凄い高速で生命サイクルを繰り返す特殊な環境だ。


「反省した先生が、事件のお詫びを兼ねて植物をそれぞれ開花したり実を付ける時期が近しい種類同士で分類して再配置、区切りを付けて、学園の生徒なら誰でも自由に採取を行っても良い公共空間として整理されたのが永久の森になります」


 永久の森の環境は校長が配置した魔石により植物の生命サイクルの速度に合わせた気候変動を行っており、一週間毎に四季が巡り約一ヶ月で一周するようになっている。

「採取できる素材は様々で、無機物有機物問わず魔力に馴染みやすく様々な魔法の材料や触媒になるんですよ。それと、普通に野菜や果実が群生している所もあります……」


「流石に成長速度が速すぎて管理しきれないから、きちんと管理して育てられた市場品と比べると幾らか不格好だけど、僕もよく料理に利用させて貰ってるよ」

 余談だが。

 人の手で管理できないなら魔法の出番だろう、と自立魔導を使った自動管理型の畑を森の中にこしらえた剛の者も居たりするとか聞く。


「確か、今週は秋だったか。来週には冬になるな」

「なるほどね。通りで、寒くなってきたなって思ってたんだよね」

 アリスが二の腕をさする。

 外の時期としては初夏に入りたてであり制服も夏服に切り替わったばかりだが現在永久の森は晩秋。そろそろ森の内部に入るので寒さを感じて当然だ。


「っと、迂闊だった。普通はマテリアライズで上着とか羽織るんだけど。まだ防寒着の魔石が支給されてないのか」

「そうなんだよねー。困ったな~」

 後ろを見てみれば、みんなローブを着たりコートを羽織ったりしている。

 予め対策済みという訳だ。


「でもハル君は半袖のままなんだね。上着は持って無いの?」

「ああ、いや。あるけどそもそも俺は火属性があるからな。エンチャントで暖を取れるから上着はよっぽど寒い時じゃないと使わない」

 そう聞いて、アリスはポンッと手を打った。


「じゃあじゃあ、上着自体は持ってるんだね?」

「そうだけど」

「ならそれを貸して欲しいかな」

「ええ? 別に良いけど」

 特に深く考えずに俺はコートをマテリアライズしてアリスに渡した。


「わ、着た瞬間から暖かいね!」

「それ使う時は防寒が目的だからあらかじめ暖まった状態で出てくるように設定してるんだ」

「わーい、ぽかぽか~。でも、こう言うのって普通ぶかぶかになっちゃうモノだと思うけど、ハル君小っちゃいから割とギリギリだね」

「ほっといてくれません!? 悪かったな、昔から大して身長伸びて無くて!!」

「あはは、ごめんごめん怒らないでね」

 漸く、今のアリスと話す事に慣れてきた気がする。

 やがて景色が開けて巨大な桜の木が視界に映った。


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