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【第二部完結】俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~  作者: 岩重八八十(いわじゅう はやと)
第1部 俺は主人公になれない

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22話 久しぶりだね

 さて、編入生が入った日の放課後とは、大体みんな編入生の所に集まるものだ。

 そのためA組の方はがらんと静かに。

 教室に残ってるのは俺と、こういった事に差して興味を示さないレンの二人くらい。

 

 俺に関しては今日一日中心ここにあらずといった感じだった。


「ねぇファルマ」

 静かな教室にドライズが戻って来て、声をかけてくる。

 慌てて自我というものをたぐり寄せ、数秒遅れて返事。


「ど、どうした?」

 ドライズの事だ、夕食のメニューでも相談に来たのだろう。

 そう思って居たら、あまりにも想定外の台詞が飛んで来た。


「アリシアさんと仲良いの?」


「ごふぅっ!?」


 思わず空気の塊を吐き出し、胸を押さえ込む。

「あ。そのリアクション、本当に友達なんだ」

「ち、違、何を根拠に突然そんな事を言ってるんだ!?」


「挨拶に行かなくて良いの?」

「良いか、ドライズ! 良く聞け!」

 がっとドライズの両肩を掴み、真剣な眼差しを向けた。


「アリスは確かに知り合いだ。でも、知り合いだからって親しいとは限らないだろう? つまりそういう事なんだ。判るな?」

 余りにも必死な俺の様子から、ドライズはある程度事情を察してくれたようで、


「……何かあったの?」

「まぁ、うん色々な。だから、俺はこの件に関しては一切首は突っ込まない。向こうもそれを望んでるだろうし」

 ひとまず、ドライズが状況を理解してくれた様でホッとする。


 しかし……


「ん~?」


 ドライズはどこか納得がいかないように首を傾げていた。

「なんだよ?」

「でもアリシアさんはファルマの事仲の良い友達だって言ってたよ?」


「……は?」


 その言葉を聞いた瞬間、俺の思考回路はオーバーヒートを起こした。

 〝仲の良い友達〟。

 その表現は俺の認識とは大きく異なる。


 ――そんな、馬鹿な……。


 困惑しているところに、うるさいヤツがやって来た。

「と、いう訳で隣の教室から颯爽と事情を聴きに来たエクレアちゃんだぁ!! 一体何なの、幼馴染なんて聞いてないんだけどっ!?」

「うわぁ……めんどくせぇ……」

 ズザーっと廊下を横滑りで移動し、教室に突っ込んで来るエクレアから目を逸らしてため息をつく。


「大体あんな朝早くからマー君が教室に居るなんておかしいと思ったんだ! 本当は初めから知ってたんでしょ!! 知ってて、もしかしたら幼馴染に一足早く会えるかも、とかなんとか思って待ってたんでしょぉ!!」

 なんという言いがかりか。

 人を待つ人間が机に突っ伏して寝る訳がないのに。

 どうせ二度寝するんだったらわざわざデコと頬と首と背中と腰と太もも痛めて両足を痺れさせてまで机で寝るより普通にベッドで二度寝したかったと後悔した程だ。


「俺も初耳だったわっ!!」

 と、叫ぶように言い返してからハッとした。


「OK。幼馴染なのは否定しないっと」

 なんて小声で確認しつつメモを取るエクレア。

「ぐっ……!」


 ちょっとした知り合いと幼馴染では、保有する情報量が全然違う。

 エクレアの目が完全にスナイパーか猟師のそれになっていた。

「さぁ、洗いざらい吐いてもらうぜぇ!」

 ジリジリと距離を詰めてくる。

 

 このままではまずい。

 今日は週に一日だけ設けられている、部活動・自習を行わなくていい日だというのに。

 貴重な放課後のフリータイムが奪い取られかねない。


「付き合ってられるかっ」

 椅子を蹴飛ばし、横へ飛び込む。

 床でくるりと体を回転させ、すぐ立ち上がりダッシュ。


「ちょ、何その動き!?」

 ルクシエラさんのバイトから逃れるために磨いた逃走術がこんなところで役に立つとは。

 まぁルクシエラさんに通用したことは一度も無いんだけど。


「じゃあな!」

 そのまま扉に向かい、後方のエクレアに手を振って教室から出ようとして。


「あっ、ファルマ。危な——」


 ドライズの声が聞こえた時にはもう遅かった。 


「え?」


 部屋や建物の出入り口を飛び出すのはやめよう。


 何故なら、


「きゃんっ!?」

 高確率で通行人と衝突するからだ。


「うわっ!?」

 後ろを見ていたこともあってドンっと思いっきり正面衝突、尻餅をつく。


「マジでごめんっ!」

 とりあえず反射的に謝りつつ、改めて前を向く。

 俺と同じようにぶつかった衝撃で尻餅をついて居たのは。


「いたた……相変わらずはしゃぎすぎじゃないかな?」

「あっ……」

 何故かA組に入室してこようとしていた、話題の編入生アリシアその人だった。


「よっ、とね」

 アリスは立ち上がるとスカートをはたいて埃を落とし、衣服の皺を伸ばす。

 そして、尻餅をついたまま茫然としてしまっている俺に手を差し伸べて、ニコッと笑った。


「改めて。久しぶりだね、ハル君」 


 俺は思わず目を逸らした。

 けれど出された手を無視するのもバツが悪く恐る恐る自分の手を伸ばし、そのまま引っ張り上げられる。

「えっと、久しぶり」


 何とか返事は出来たが、顔を直視することが出来ない。


「あれ? アーりゃんコッチのクラスに何が用事?」

「うん。折角同じ学校になったのにちっとも来てくれないから、ハル君に会いに来ちゃった」

「なっ!? え、はぁ!?」

 耳を疑った。

 自ら俺に会いに来た? アリスが??


「ハル君にちょっとしたお願いがあるんだけど、聞いてくれるかな?」

「それは、別に良いけど、でも、」

 気持ちが状況について行けない。

 アリスの方から俺にコンタクトを取ってくるなんてあり得ないと思っていたから。


「……()()()()()()()()? 俺を?」


 掠れた声で、小さく、零れ出た言葉だった。

 けれど、その言葉は誰にも届かなかったらしい。


「ね、ハル君。来たばかりに何も判らないからこの学校について色々教えて欲しいな!」

 アリスは俺の手を取り、身体を寄せる。

「教えてって……ホントに俺で良いのか? もっと、そっちのクラスの友達とか出来ただろ?」

「だって、放課後の時間に付き合って貰うのは申し訳ないんだもん。その点ハル君なら気を遣わなくていいし、何より〝友達〟なんだからこういう時に頼っても良いでしょ?」

 〝友達〟という単語が胸を抉ってくる。

 そう言われれば俺にアリスの頼み事を断るなんてできやしない。


「そういうことなら、判ったよ」

 俺は腹をくくって頷いた。


「じゃあ、まずあそこに行ってみたいかな! 〝永久の森〟!!」

 すると改めてアリスは俺の手をぐいぐい引いて、歩き出す。

 状況は飲み込めないが、俺は引きずられるように〝永久の森〟へと足を運ぶ事となった。


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