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【第二部完結】俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~  作者: 岩重八八十(いわじゅう はやと)
第1部 俺は主人公になれない

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21話 自分勝手な夢

     ◇  ◇  ◇


 夢を見た。


 今まで何度も見た事がある夢だ。この夢を見た日の朝は決まって涙を流し、起きてからは自己嫌悪が胸に突き刺さる。内容は、毎回多少異なるが趣旨は同じ。

 


一人の女の子が自分の元に駆け寄ってきて。にっこり微笑んで語りかけてくる。なんて言っているかは忘れてしまうけれど、それが〝俺の望む言葉〟だという事だけは判る。


 そうやって幾つか言葉を交わして、女の子は俺の手を取るのだ。


 俺は何の疑問も無く、嬉しそうにその手に引かれて女の子の後を着いていく……。


     ◇  ◇  ◇


「……っ」


 まだ日も昇らず、ドライズも目を覚ましていない早朝。


 頬を伝う涙が俺の意識を呼び戻す。



「……またかよ。クソ野郎が」


 胸の中心を握り閉めるように押さえ込み、自分自身を罵倒する。

 最悪な朝だ。



 心の奥底で、そんな〝醜い願い〟を持っているのかと自分自身に嫌気が差す。


 今まで何度も同じ夢を見てきた。


 その度に、自己嫌悪で胸が押し潰されそうになった。


「はぁ……起きるか」


 随分と早い時間だが、二度寝なんてする気分にはとてもなれなかった。




 それから、少しばかり時間が経って。


「わ、どうしたのファルマ。こんな時間に起きてるなんて」


 いつもの時間に目を覚ましたドライズが欠伸混じりに驚く。




「今日は夢見が——」


「あっ!? まさか昨日から寝てないとか言わないよねっ!? 今日学校なんだよ!?」


「人の話聞けよっ!」


 俺が早朝起きていたらまず徹夜を疑われるらしい。

 いや、実際こんな時間に起きているのは徹夜した時が殆どだが。




「ファルマが平日のまだアイルさんも鳴いてない時間に起きてるなんて事件だよ。雪でも降るんじゃないかな」


 ドライズがそう言った直後に、


「イィィィィィヤッホォォォォォォ!!! フリィィィダァァァァァッンッムッ!!!」


 窓から最上級生主席の奇声が聞こえてきた。

 日の出の時刻だ。




「……折角だから今日は早めに学校に行こうかな」 


 窓の外へ視線を向けて。

 朝焼けの空を縦横無尽に飛行しながら奇声を上げ続けている上級生をぼんやりと眺めて、思い立つ。



 気分、というのは大事なものだ。今日という一日は決して良い出だしでは無かった。

 だからこそ気分転換にいつもと違う事をやってみようと思ったのだ。


「本当に今日は珍しい。いつもなら二度寝するのに」


「今寝たら、またあの夢の続きを見そうだからな……」


「そんなに怖い夢を見たの?」


「怖いって言うか……嫌な夢だよ。本当に」


 あの夢を見る度に自分という人間がどれだけ身勝手で矮小なのか思い知らされる。

 頬を伝う熱い涙も、目が覚めれば酷く冷たく感じてしまう。


「ドライズは……ルクシエラさんの部室を掃除する日か」


「うん。出る時間は早いけど教室に入るのはいつもより遅れると思う。もしかしたら今日はファルマが一番乗りになるかもよ」


「一番乗りだからってなんになるんだよ……」


 と、呆れた様に言うが少し口元がにやけていた。

 何になるというわけでも無くとも、何故か惹かれるものを感じた。






「うわぁ! マジで誰もいねぇ!! 静かで広いなっ!!」


 教室に入るなり叫ぶ判りやすい子供が、そこには居た。

 元より9人しか居ないクラスだがそれでもがらんとしていると普段と違った趣を感じる。




「すげぇ! 何の意味も無く側転したくなる!!!」


 広々とした教室の後ろに広がる空間を突然側転で何度も往復する十六歳。


 こういう行動は大体後になって後悔するモノなんだけど。

 今日に限ってはその瞬間はすぐに訪れた。




 不意にぴかっと瞬く光。


 俺はびくっとして光を感じた方へ視線を向ける。


 視線の先には窓越しに廊下に立つ一人の黄色い少女。


 数秒の沈黙。


 片手に持ったカメラから、ぺーっと写真が排出されて。


 少女は出てきた写真をぴっと人差し指と中指二本で挟んでぺらぺらと弄ぶ。


 俺は酷く真剣な面持ちになって、そちらへ近づき、ガラリと窓を開けた。




 窓が開くと同時に、ニコッとそれはもうとてもとても可憐な作り笑いと共に小首を傾げる黄色い少女へ。


 俺は視線を逸らしつつ近づき、ポケットに手を突っ込みながら言った。




「……で、いくらだ?」




「ん~、千?」


「良心的な価格設定痛み入るよこんちくしょう」


 流れるように一枚の紙幣と写真を交換した俺は、そのまま席に戻って頭を打つ勢いで机に突っ伏し。

 対してエクレアも教室に入って自分の席——俺の前方にやってきて椅子は引かずに机の上に座り込んだ。

 

 油断していた。

 一番他人に見られたくないところをよりにもよってエクレアに見られるなんて。

 恥ずかしくて顔を上げられない。

 多分真っ赤になっている。




「なんで今日に限ってこんな朝早くから……」


 と、俺は伏せたままくぐもった声で抗議する。


「今日また編入生が入るらしくて。事前リサーチってヤツ? とりあえず何かしら情報を掴めないかなって校内を走り回ってたら、偶然♪」




 編入生、または転校生。この学園はティアロ校長を主とした三人の賢者によって運営されている。生徒の入学は基本的にティアロ校長が〝必要だ〟と思った魔導士のヘッドハンティングに近いらしい。

 勿論選択権は選ばれた魔導士の方にあるがこういった事情のため、編入、転校生というのは割と良くある話である。


「ユンユンがA組ウチに入ったから新しい子はBらしいよ」


 エクレアは妙なあだ名を付けまくるのでわかり辛いが、ユンユンとは空から降ってきた少女、ユウさんの事だ。



「そらそうだろうな。はぁ、それにしたって今日は嫌なことが続く」


 結局、珍しく早朝に教室に来たかと思えばやる事は謎の側転をキめた醜態を撮影された挙げ句に余計な出費をはたいて机の上で二度寝するくらいのものだった。




 それから小一時間ほど経過した。教室内がざわざわし始めるので嫌でも目は覚める。顔を上げて首を捻る。肩と首が痛い。

 こんな事なら大人しくベッドで二度寝しておけば良かったかも知れない。

 なんて考えつつクラスを見渡した。




 気がつけばB組の面々が教室に居て、各々A組の友達と会話をしていた。

 元より広い教室に対して少ない人数のため2クラス合わせても窮屈さは感じ無い。

 そして、ざわめく教室に二人の教師が入って来た。A組担任のセレナ先生とB組担任のユウキ先生だ。



「静かにしろ」


 ユウキ先生の低い声が響き、一瞬で教室は静まりかえる。煤けた白髪と眉間に皺の寄った少々気むずかしそうな雰囲気が特徴だ。


「テラが新しく生徒を迎え入れた。前回クラスAにユウが配属されたので今回は俺の受け持つクラスBに配属される。今朝はこの時間を使って編入生の紹介を行う」



 そう事務的に告げた後、最後に一言廊下に向かって声を飛ばした。


「では、入って来い」


 教室の入り口に集まる視線。

 俺としてはB組配属の時点で接点など殆ど無いと考えている為軽く顔だけでも確認しようとこうか、程度の興味だった。




 しかし。




 教室に入ってきた新しい仲間の姿に、思わず目を剥いた。


 ラベンダーのような薄紫の艶やかな髪は首の後ろの方で小さな尻尾のように纏められ、前髪は少しだけ長めに流れている。緊張を見せない、軟らかい笑顔を浮かべその深紅の瞳がちらり、と一瞬だけ俺に向く。




 ドキリとして俺は思わず咄嗟に斜め下へ目を逸らしてしまった。



「アリシアです。強い属性は水と闇、主に癒しの魔法が得意かな。これからよろしくおねがいしますね」


 バクバク心臓が早鐘を打つ。


 編入生が挨拶を終え、教師から軽く今日の伝達事項が述べられた後ホームルームは解散するが何一つ頭に入って来ない。


 俺は頭を抱えながら、何度か深呼吸をして平静を取り戻そうとする。


 別に、なんて事は無い。

 知っている人物が転校してくる、そういう事もあるだろう。

 けれどクラスが違えば、自分から近づこうとしない限り接点はかなり減らす事が出来る。


 彼女には干渉しない。

 改めてそう心に決めた。

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