20話 ファルマ、ありがと
ドライズ視点
迷いも、ためらいもない僕の言葉に、謎の人物は一瞬だけ言葉を失った。
数秒してから、弱々しく、再び口を開く。
「どうして、そう言い切れるのさ」
「ファルマは、強い人間だからだよ」
「どこが? 何の才能も、特別な力もない石ころの何が強いのさ?」
「アンタを倒した〝この剣〟は。ファルマが作ったモノだ。ファルマが僕を支えてくれた証だ。ファルマが居たから、僕はアンタを倒せたんだ」
巨大な氷の刀身を持った剣を見せつけるように掲げ、言う。
「確かにファルマは特別な才能も、〝原初の魔力〟みたいな特異な能力も持ってないかもしれない。でも絶対にただの石ころなんかじゃない。僕や、ルクシエラさん。他にもクラスメイトのみんなに負けない位強い人間だって僕は知っている」
ただ単なる戦闘力の話をしている訳じゃ無い。
「あいつは何時だって、本当に大変なとき〝出来る全てをやる〟人間だ。そうやって、必死に足掻いて、もがいて、生き残る人間だ。そして、その生き方は、僕達の――ううん。僕の支えとしてずっと、頼りにしてきた。あいつが居るから、僕は戦う事ができる。今までも、これからも」
ファルマと始めて出会った時の事を思い出す。友達になろうって差し伸べてきた手を。その頃の僕には余裕がなくて、はね除けた。
1回だけじゃ無い。何回も、何回も、それでもあいつは諦めなかった。遂には僕が根負けしてしまって、気がつけば一番の親友になっていた。
「アンタがファルマの何を、何処まで知っているのか判らないけれど。少なくともアンタよりよっぽど、僕はファルマを知っている。そして、その強さを知っている。あいつはただの石ころなんかじゃ無い。僕にとってとっても大切で〝特別〟な、光り輝く宝石だ。だから、あいつが〝災い〟に負ける筈なんてない」
謎の人物は遂に黙り込んでしまった。
重い沈黙が、闇と星々の光だけが瞬く世界を包む。
長い、長い時間を経て次に謎の人物が言った言葉は。
「――あっそ」
呆れるほどに短くて、シンプルで、それでも、さっきみたいに何か恨みめいた重たい感情なんて感じさせないさっぱりした言葉だった。
「じゃあ、好きにしてみればいいさ」
根負けしたのか謎の人物は両手を広げて、降参のポーズをとった。
「なら、ティアロ様の元へ来て貰うよアンタが何者なのか、徹底的調べさせて貰――」
と、謎の人物を拘束しようと手を伸ばしたそのとき。
「悪いけど、そこまでだ」
突如、僕の手首が掴まれた。赤いローブ、長身の人間が僕と水色ローブの間に割って入ったのだ。
――しまった!!
戦闘やファルマの話に夢中で〝相手が二人組〟である事をすっかり忘れて居た!!
じとり、と冷や汗が落ちる。片腕の自由をとられた。不味い。このまま紅いローブの動き次第では形勢逆転もありうる!
と、考えて居たら。
「一部始終、見ていた。今回の作戦は中止だ、良いな?」
と僕の腕を掴みながら赤いローブの人物は這いつくばる水色ローブの人物に呼びかける。こちらも加工されていて、声色は判らない。
「この世界に関する一件の責任者は君だ。異論なんて無いよ」
倒れていた水色ローブの人物が起き上がる。
「そういう訳だから。今回、こちらは手を引く。ユウ殿も返してやる。それで矛を収めてくれないか、ドライズ少年」
そう言われて、僕は一瞬迷った。
この男の言葉に素直に従っても良いのだろうか? 信用に値するのだろうか? しかし、その考えはすぐに振り払われる。
現時点で片腕をとられ、一度戦闘不能にしたはいえもう一人仲間が居る彼らの方が圧倒的に有利なのだ。
敵対意思が残って居るのならこのまま黙って僕を攻撃してもおかしくない。
「……従うしか、無さそうだね」
僕は渋々了承した。
◇ ◇ ◇
僕は眠り続けるユウさんの頭と腰元を支えて抱える。
謎の人物たちは二人並んで、そんな僕の姿を見ていた。
「俺達がいては背後が気になるだろ? 先に失礼させてもらう」
と、紅いローブの人物が言う。
「りょうかーい。いやぁ、負けた負けた、やっぱり僕は〝最弱〟だ」
と気楽な様子で水色ローブの人物もそういって、先に光の階段を降りていく。
そして、数段降りたところで紅いローブの人物が顔だけ振り向けて。
「一つだけ、忠告だ。今回のところは〝経過観察〟という事で処理をしておく。しかし、もし最悪の事態になった場合――つまり、ユウ殿が引き起こした〝災い〟があまりにも強大でお前たちの手に負えなくなった場合は再び俺達が横やりを入れる。覚えておけよ」
紅いローブの人間の言葉に、僕は眉間に皺を寄せて言った。
「そんな事には、絶対にならない。僕だけじゃない、みんなだってこの世界で必死に生きてるんだ。何処の誰だか知らないけど、僕達の問題は僕達で片付ける。どこか知らない世界の不審者さん」
彼らの数々の言動から、僕はこの人たちを別の世界の人間――世界というか、別の国の人間だと判断した。僕達のこの国で手に負えない〝災い〟が発生した時、その余波による被害を懸念した犯行だと判断したんだ。
僕の言葉に、二人は何も言い返さずその場を去って行った。
そして。
「う、ん……?」
恐らく魔法によって眠らされていたであろうユウさんが目を覚ます。
「あれ……ここは……? ドライズ君……?」
僕の腕の中でユウさんはキョロキョロ周囲を見渡す。
「私、どうして……あれ、何があったんだっけ……」
状況に混乱するユウさんに、僕は告げた。
「大丈夫。どんな災いも、僕達なら乗り越えられる。絶対君を犠牲にさせたりなんかしない」
決意を込めたその言葉に、ユウさんは。
「災い……? 犠牲……?」
当然だけど、疑問を浮かべていた。
「深く考えなくて良いよ。ただ、何かあったらすぐに呼んで。絶対、助けに来るから」
そう伝えるとユウさんは、
「……うん。ありがとう……信じてる……」
そう答えて再び眠りに落ちた。
◇ ◇ ◇
「ただいまぁ……」
あの後、僕はユウさんを学園に送り届け、ティアロ校長先生たちに一部始終を説明した。それが終わる頃にはすっかり夜も更けていて、心身疲労困憊になって寮室へ戻って来た。
「おかえり、ドライズ。昼間は忙しそうだったみたいだが、ホントに疲れてんのな」
二段ベッドの方からファルマの声が聞こえてきた。きっとベッドの中で電子ゲームを楽しんでるに違いない。僕はこんなに苦労したっていうのに良い身分な事だ。
――だけど。
「ファルマ、ありがと」
僕は真っ先にお礼を言った。
「ん? 何が?」
「くれた〝剣〟、早速役にたったよ」
そう伝えると。
「お、そりゃ良かった。俺が作ったモノがお前の役に立つなんて光栄だ!」
と嬉しそうな返事が返ってくる。マジッククラフトだって、ファルマの強さの一つなんだ。ファルマが、ただの石ころな訳が無い。
――……って、あれ? ファルマってマジッククラフト始めたばっかりだっけ? なんで僕はこんなに信頼してるんだろ?
と少し疑問に思ったが。でもまぁ、今日は疲れた。さっさと眠ってしまいたい。
が、その前に。
最後に確かめたい事があった。
「ねぇファルマ」
「んー?」
制服を部屋着に着替えながらファルマに問いかける。
「この〝剣〟、なんて名前なの?」
僕がそう言うと。
「うっ!?」
突然ファルマはうめき声を上げて、電子ゲームのゲームオーバーの音が聞こえてきた。
「どうしたの?」
「いやーえっと、名前はーその、ま、まだ無いっていうか!」
顔は見てないが明らかに目を泳がして無さそうなファルマの言葉に、僕はぷぅっと頬を膨らませて言った。
「この付き合いの長さでそんな嘘、僕に通じると思ってる?」
「……っちっくしょ! 面倒くせぇな、幼なじみは!!」
ファルマは観念した様子で、恥ずかしそうに言った。
「げ、『原初の魔剣ギャラクシー・ライト氷燐飾剣零式』」
……え?
「ごめん、今なんて言った?」
思いの外長々しい文字列が聞こえてきた気がして一瞬混乱する。
「だから! 『原初の魔剣ギャラクシー・ライト氷燐飾剣零式』だよッ!!」
とファルマはヤケクソ気味に叫ぶ。
そして。
「……あはっ、変な名前!」
僕は思わず笑ってしまった。
「俺だってテンション狂ってて付けちまった名前だからどうにかしたかったけどシジアンが夕方のウチに正式に届けてしまってしばらくは名前の変更が出来ないんだよ!! 少なくとも数ヶ月後、新しく改良とか改造して新作として登録するまではな!!」
どうやらファルマも思わず咄嗟に付けたオモシロネームだったらしい。
だけど――僕は気に入った。
「だから改良する時はちゃんとした名前で――」
「ううん。改良するとしても、『原初の魔剣ギャラクシーライト氷燐飾剣零式』からあんまり弄って欲しくないな。零式を〝改〟とかにする感じでお願い」
と言うと。
「えっなんで!? なんで人の黒歴史を残す方向性を示すの!?」
とファルマは驚くが。
「だって、僕の新しい〝相棒〟なんだもん。今日だってお世話になったし、もう思い入れができちゃった。名前、あんまり変えて欲しくない」
と伝えた。
「んな、バカな……」
ファルマは釈然としない様子だったが僕は、新たな相棒となった剣に。
「これからもよろしくね。〝氷燐剣(中略)〟」
と語りかけた。
「愛着湧いたとか言いながら早速略称作ってんじゃねぇか!?」
なんて、ファルマのツッコミは無視しましたとさ。
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