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【第二部完結】俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~  作者: 岩重八八十(いわじゅう はやと)
第1部 俺は主人公になれない

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19話 ただの石ころでしかない存在。〝ファルマ〟に、そんな強さなんてない

ドライズ視点

「何の材料も、媒介も無しに、剣をマテリアライズした!?」

 マテリアライズは魔力を物質に変換する魔法だ。しかし、物質を作る為にはその魔力組成を記したレシピであり要石となる魔石と、材料になる魔力二つが必要だ。


 だが見る限りこの謎の人物はそれら両方を無しにマテリアライズを行って見せた。

「君達の常識から外れた魔法だったかい? だとすれば、それがこの子の力だってはっきり判ったんじゃ無いかな。〝望んだ願いを叶えてくれる世界の意志〟ユウ・ウィッシュスター。僕達は、そう定義した」


〝望んだ願いを叶える〟? そんな力を、ユウさんが秘めていると言うのか。

「その結果が、あの巨大な魔物って訳さ。魔物達の〝このままじゃ終われない。もっと強くなって欲しいモノを手に入れたい〟っていう〝願い〟を拾った」


 荒唐無稽な話だ。しかし、実際にこの目で二度、その現象を目の当たりにしている以上否定は出来ない……。

「ね、危険でしょ? 悪用の方法はいくらでも思いつく。質が悪い事に力の発動にこの子の意識は関係無い。放っておけば無差別に願いが叶えられてしまう。今は、力の大半を君に向けてる現状だけど。こぼれ落ちた僅かな魔力は〝悪しき願い〟を産み出してしまう」

 

〝悪しき願い〟が具体的になんなのかは判らない。

 ユウさんは本当に危険な存在なのかもしれない。


「それはやがて世界を巻き込む事件を起こすだろう。彼女が居る限り、何度でも」

 剣の切っ先が、僕へと向く。


「やがてそれがこの世界の人々、キミ達の手に負えなくなった時。僕達の世界に被害が飛び火してしまうのさ。そんなの、ごめんだ」

 ローブのフードから僅かに覗く瞳が、ギラリと輝いた気がした。


「それでも尚、この子を守るって言うのかい? 多くの犠牲が出るかもしれないのに。沢山の人が苦しむかも知れないのに」

 水色のローブを纏った謎の人物はそうやって揺さぶってくるけど、僕の心は変わらなかった。


「答えは一つだ!! 誰かを犠牲にした平和なんて認めない!! ユウさんが災いを呼ぶというのなら、僕がその災いを蹴散らしてやる!!」

 きっとそれが、〝主人公〟の役目だから。


 僕は構えた剣を振り上げた。

「言葉だけの理想なんて無意味だ」

 彗星の剣が僕の剣を弾く。

 二の太刀が僕の身体を斜めに切り裂こうとするが一歩引いて辛うじて回避する。

 服と皮膚の表面だけが僅かに切り裂かれ、ほんの少しだけ血が滴った。


「言っておくけど。僕は仲間内で〝最弱〟だよ。僕如きを倒せない様な実力じゃあ、災いを退けるどころか後ろで準備してる相棒の足下にも及ばない」

 謎の人物はそうやって煽ってくる。その言葉に、僕の心は熱く燃え上がる。


「ならアンタを倒して、相棒とやらも倒して見せるッ!! 全部、全部僕が守って見せる!!」

 僕の気持ちに呼応して、ファルマがくれた剣の刀身が更に巨大になった。

 六方に広がる氷の結晶、その一片が剣になったようだ。

 刀身が巨大になっても重みは全く感じ無い。僕の魔力が、そのまま剣になっているからか。


 『彗星の剣』を受け止め、撃ち払う。今度は一撃、僕が謎の男に喰らわせる。

 真一文字の軌跡が謎の男の腹を裂いた。

 向こうだって手練れのようだ。


 服は裂かれたけれど露出した皮膚に傷は無い。――僕より、1枚上手だ。


 そして幾度か剣を交え、躱し、しかし、突然。


「やっぱり君は強いね」


 謎の人物は僕を賞賛しはじめた。

 一瞬、何かの罠かと思ったが。

 戦って居るウチに、気付く。


 ――こいつ……『受け』は上手いけど『攻め』はそこまでじゃない!!

 最初に喰らった一撃から、相手の攻撃範囲、対応速度を改めて計算し直し、剣を振るうタイミングを調節するだけでこちらの被弾は一切無くなった。


 一方でこちらの攻撃を紙一重で避けられ続けているのも事実だ。



 戦いながら、謎の人物は言葉を続ける。


「君は強い。だから本当に〝災い〟なんて全部蹴散らせるかもしれないね」

「急に掌を返して、何を企んで居るのさッ!!」


 相手の思惑が分からない。今も、まじめに戦っているようにも、適当にあしらっている様にも見える。突然褒めてくるし、何故かわからない親近感を感じるし正直敵か味方かわからなくなってきた。


でも、こいつらがユウさんを攫い、今まさに〝封印〟しようとしているのは事実だ。相手が誰であれ、そんなのは止めるしかない!


 僕は戦いを終わらせるつもりで剣を敵の急所、首を狙って振るった。ただ、相手が人間である以上無用な殺生をするつもりはない。

 氷の刀身の刃は潰して、鈍器として動けなくなる程度の衝撃を与えるつもりで振るった。


 しかしそんな渾身の攻撃を謎の人物は躱し、


「さあ、ここからが本番だよ!」


 そう言って『彗星の剣』を天へと掲げる。


「『僕の願いに応えて、流れ星。僕も君達みたいに、輝ける星の様にッ』!」


 『彗星の剣』は水色ローブの人物の呼びかけに応える様に強く輝いた。


「『アクセル・シューティングスター』!!」


 そして白金の光が敵を包み、その背に二つ、翼のような白い魔力が現われる。


「さぁ、これがこの子の――いや、この世界の〝願いの力〟だッ!!」

 次の瞬間、先程までとは別次元の速度で『彗星の剣』が振るわれた。


 僕は咄嗟に氷の刃で攻撃を防ぐが――


「うわぁぁぁっ!!」


 氷の刃ごと、身体を切り裂さかれる。幸い、氷の刃が大きく妨害してくれたおかげで皮膚の表面に線が入る程度の傷で済んだ。


 僕は思わず片膝を突く。


「言った筈だ。僕は〝最弱〟。僕程度をどうにも出来ないようじゃあ〝災い〟なんかに勝てる筈も無い」


 水色ローブの人物は僕に近寄り見下ろしてくるが、そこが狙い所だった。


「舐めるなッ!!」

 

 膝を上げると共に逆袈裟斬りの形で反撃する。


 傷の痛みは氷属性の魔法が得意とする〝沈静〟効果で誤魔化した。


 僕の不意打ちは功を奏したようで、〝受け〟の上手い相手も躱すのが僅かに遅れローブを切り裂き身体に初めて傷を付ける。


「おっとっと、さっすが!」

 フードに隠され表情は見えないがそれでも余裕の笑みを浮かべている事が伺い知れた。


 対して、僕は軽傷ではあるものの傷が増え続けている。


 ――……強いッ! だとしても!

 相手の力量は明白だった。それでも。


「負けない……。僕は、〝特別〟らしいからっ」


 こうして共に戦い、この身を守ってくれた剣を強く握りしめ、思う。

 何が特別で、何がそうでないのか僕には判らないけど。

 それでも、僕を信じて、支えてくれる人が居る!


「『無垢の氷よ、光を灯し咲き誇れ』ッ! ――『雪月華』ッ!!」

 氷の刃に、〝破滅の光を〟宿し、大きく振う!


「なら僕も。今は氷が無いから自己流で――『朧月華』ッ!!」

 

 水色フードの人物は『彗星の剣』に紫色、闇属性の魔力を込めて迎え撃つ!

 

 二つの剣が強く交わり、甲高い音が響き渡る。


 自分の魔法が、技が真似された事に最早驚いても居られない。

 鍔迫り合いの形になりながら、僕はただ、力を込め続けるッ!!


「絶対に負けはしないッ!!」


 強い意志に呼応して〝破滅の光〟が氷の刀身の中で強く輝くっ!


「ッやるじゃん……! でも、まだ、認める訳には――いかないなッ!」


 ゴウ、と『彗星の剣』の背面、峰の部分から強く炎が噴き出した!


 お互いの意志と力が拮抗する。


 でも!


「僕は〝主人公〟なんだッ! 誰も犠牲になんてしないッ! ユウさんは、返して貰うッ!!」


 僕はファルマに沢山助けられた。ファルマのお陰で、僕はこうして前を向いて生きる事ができる様になった。そんなファルマが、僕を〝主人公〟と呼ぶ。


 ただの肩書きなのかもしれない。

 ともすれば、驕り高ぶっているだけなのかもしれない。

 だとしても。あいつが僕をそうやって信頼して、支えてくれるから。

 

 あいつに恥じない〝主人公〟でありたいッ!!


 〝破滅の光〟が更に輝き、闇と炎を纏った〝彗星の剣〟を押し返して。


「終わりだッ!!」


 最後に跳ね上げるように剣を振い、『彗星の剣』を弾き飛ばした。


「なっ……!」


 謎の人物は背中から倒れ込む。

 受け身をとるがあれだけの競り合いに負けたのだ。

 

 余波で数回、床の上で跳ねた。

 そしてよろめきながら起き上がる。

「あーあ、負けちゃった」


 そして、フードから覗く視線を僕の目に突き刺したまま、続けた。

「君は強いから、こうやって何でも解決できるかもしれない。でも、果たして君の周りの人間はどうなのかな?」


 謎の人物の言葉に、ファルマを筆頭とした僕の仲間たちの顔が浮かんできた。


「君は確かに〝世界の中心〟だけど、〝世界は君だけが回してる訳じゃ無い〟。君一人で災いの全てを解決するなんて不可能だ。君の大切な人達が〝災い〟に巻き込まれて。それでも君は手を出せない状況だった時、君はどうするつもりだい?」

 愚問だった。僕の仲間たち。クラスメイトや、師匠であるルクシエラさんが〝災い〟なんかに負ける筈が無い。


「僕の仲間たちはみんな強い。そして、みんなが僕を支えてくれるし、僕もみんなを支える。だから、例え〝災い〟が起こったとしてもみんなが〝災い〟に負ける事なんて無い」


 確信をもって放つ言葉。けれど。


「――それは、嘘だ。君の周りには一人だけ、明らかにちっぽけで弱いヤツが居る」

 謎の男は今まで一番ドスを利かせた声を放つ。


 思い当たる節が無い僕には、誰の事を言っているのか判らない。


 それで黙っていると謎の人物は続けた。

「ちっぽけで何処にでもあるただの石ころでしかない存在。〝ファルマ〟に、そんな強さなんてない。あっという間に〝災い〟に飲み込まれて、キミ達の足を引っ張って、死んでしまうよ」


「……は?」


 謎の人物の言葉を僕は理解出来なかった。

「ファルマが弱い? 何にも知らない癖に、勝手に決めつけるなッ!!」

 僕は半分怒り任せに、刃を潰した氷の剣を振るう。

 謎の男は腕で守りの構えをとるが、吹き飛ばされて地面に倒れ伏した。


「うわぁっ!!」  


 この戦いは僕の勝ちだ。

 でも謎の人物は地面に這いつくばりながらも声を荒らげて言う。

「ぐ、ぁ、……知ってるさっ!! あいつは何の特別な力も持っていない、ただの一般人だ。才能も、能力もキミ達とは比べものにならない。悪い意味でね」

 その言葉には、妙な説得力があった。


 ファルマの事なんて1ミリも知らない人間が言っている言葉には思えなかった。


「きっと無駄に遠回りして、多くの人に沢山迷惑かけて、その果てに〝災い〟にとりこまれてお終いだ! 結果として〝災い〟は更に増長し、世界を脅かす!! そんな未来が来たとき、君はどうするつもりだいっ!?」

 声色は加工されているせいでイマイチ判らない。


 だけど、何故か。この人の言葉を無視できるような気持ちにはなれなかった。

 もしかしたら、ファルマが常日頃から自分で言っていた事と多少なりとも一致するからかもしれない。

 

 自分は特別じゃないとか、ただの石ころとか。

 

 でも、僕は知っている。


「そんな未来なんて、訪れない」

 それは、僕にとって揺るぎない事実だ。


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