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【第二部完結】俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~  作者: 岩重八八十(いわじゅう はやと)
第1部 俺は主人公になれない

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18話 ユウさんが攫われた!?

ドライズ視点


     ◆  ◆  ◆


「ユウの力の暴走――やはりイーヴィルとユウは深い関係がありそうじゃな」

 校長室でティアロは顎に手を当て考え込んでいた。


 ドライズ曰く、空から降ってきた少女。この世界の根幹に関わる存在。その処遇をどうするべきか、悩んでいたそこへ。


「ッ! 何者じゃ!?」


 突如現れたのは二つの人影。一人は赤いローブの長身、もう一人は水色ローブの小柄な人間。

 顔はフードで隠されていて見えなくなっている。


 そして、赤いローブの人間は深くお辞儀をして言った。


「初めまして。――或いは、ご無沙汰しております、ティアロ様」


     ◆  ◆  ◆


『ユウさんが攫われた!?』

 その言葉を受けたのは、ほんの十数分前だ。


『すまない。ルーシー達が出計らっているタイミングを狙われた。我ら三賢者が居ながら誠に不甲斐ない』

 とティアロ校長先生は頭を下げる。ルーシーとはルクシエラ師匠の愛称だ。


『相手の姿は、水色のローブに身を包んだ低身長の男と紅いローブに身を包んだ高身長の男の二人組だ』

 記憶の中で繰り返される言葉。


『何でも、存在するだけでユウは危険な災いを引き起こすと言う。そして少女一人に数多の命が脅かされるのならば排除する必要がある。〝決してその存在を許さない〟と言い連れ去った』


 ティアロ先生の言葉を思い出す中でふつふつと怒りの感情が湧いてくる。

 

『ユウは〝この世界の鍵を握る〟重要な人物じゃ。それに、既に学園の生徒でもある。ワシは、どんなリスクを孕もうと生徒を見捨てる事などしたくはない』


 片膝を突きながら悔しそうにするティアロ様の姿が痛々しかった。


『しかし現状学園内に残るの戦力でワシ等三賢者を含め救援に向かえる者が居ない』

『そんな!? 先生や先輩達ではダメなんですか!?』

 焦る僕の言葉に帰って来たのは意外な返事。


『その通りじゃ。言い方を少し変えよう。〝現状の学園に残された人員の中でお主以上の戦力が存在しない〟のじゃ。即ち、ユウを救出できる可能性があるのは――〝破滅の光〟を継承した、ルーシーの一番弟子であるお主だけじゃ』

 そう言われて、黙っていられる訳がなかった。


『相手方は二人。分が悪い戦いになるじゃろう。それでも――戦えるか、ドライズ?』

 僕は何の迷いも無く首を縦に振った。

 そして、敵対者が逃げたという方角を目指して走っていた途中。


『要るだろ? (ソレ)!』

 と、ファルマから投げ渡されたのは柄のみが存在し、僕が送り込んだ魔力が刀身になる剣。

 先の戦いで武器を失っていた僕にとってこれ以上無い選別だった。


 ギュッと剣の柄を握る力が強くなる。


 ああ。ファルマは何時だって、僕を支えてくれる。

 今回だって、何が起こってるかなんて知らない筈だ。

 このタイミングで剣をくれたのは全くの偶然だろう。


 だけどあいつが居るから、僕は戦える。

 相手が何人だろうと、怖く無い!!

 

     ◇  ◇  ◇

  

 ユウさんは特徴的な魔力を持っていた。その痕跡を辿って街を越え、郊外に出て道なき道を進む。

 ドンドン人気が減っていく。それだけ、仲間の加勢は期待できなくなる。


 建物も木々も少ない、原っぱに出た時。そこには異様な光景が広がっていた。

 ただ広い原っぱに。透明な真っ白の板が階段状に続いていた。

 それは天を向かって並び続けている。


 明らかに、尋常じゃない。


 でも、ここで臆する訳にはいかない!

 僕は階段に足を乗せる。重みや時間制限で崩れ去ると言った不安定さは感じ無かった。


 後は全速力で階段を駆けていく。


 景色が少しずつ、地上から空中へ変わり。

 いつの間にか、空中から暗黒の中に無数の煌めきの灯る風景へと変わって居た。

 それは夜空そのもの。

 天を高く登り続けると昼でも夜空が見えるという。そしてその星空は『宇宙』と呼ばれる。

 けれど、そんな歩いていける距離の話では無い筈だが今は気にしていられない。


 階段の終わり。最後の一段を上ると、白く光る足場は巨大な広場を作っていた。


 そして。その中央には水色のローブに身を包みユウさんの頭と腰を支えて抱きかかえる謎の人物の姿があった。ユウさんの意識は無いようだ。


 魔法で眠らされているのだろう。


「お前がユウさんを攫った犯人か!!」

 僕の問いかけにその人物は。


「そうだよ」


 あっさりと、答える。

 何かしらの魔法でも発動しているのだろう。

 声色がジャギジャギとした金属の掠れるようなモノだった。


「ユウさんをどうするつもりだッ!!」

 僕は周囲を警戒しつつ、問いかける。

 話では敵対者は二人。もう一人がどこに居るのかを探っていた。


 すると、水色小柄なローブの人間は言う。

「〝封印〟するのさ。この子はあまりにも危険な存在だからね。今、僕の相棒がその準備をしているところ」


 といってこちらに背を向け自身の背後を顎で差した。そこでは紅いローブを身に纏った長身の人間が魔法陣の中心に立ち、明らかに何かしらの魔法の準備をしていた。


「危険だって!? 何を根拠に!!」

 激昂する僕の言葉に、小柄な水色ローブは律儀に答えてくれる。

「君だって見ただろう? この子が強大な魔物を産み出す媒介になった所を」

 

 言われて、ついこの間ユウさんがイーヴィルに捕まってイーヴィルが異常な変化を行った光景を思い出した。

「ああいうの、困るんだよねぇ。そっちの方で好き勝手やってくれる分には構わないけどさ、それが処理しきれずにこっちの方まで悪影響を及ぼし始めたらダメなの。僕達には僕達が守るべき世界があるからね」


 敵対者の意図は判った。だけど、認めたくはない。

「だからってユウさん一人犠牲にして、平和を手に入れようって言うのか!? 自分の事も判らない、何も知らないまま世界に放り出され、ただ存在するだけで疎まれ封印される、そんな苛酷な運命をユウさんに押しつけるっていうのか!!」


 彼の言い分が全く理解出来ない訳では無かった。

 だとしても。

 ユウさんを犠牲にした平和なんて僕は認めたくない。


「この子に苛酷な運命を押しつけるって言うけどさ。元はと言えば君が悪いんだよ、ドライズ」

 名前を呼ばれ。しかも自分が悪いと言われ。

 

 僕は目を見開き言葉を失った。


「君は〝この世界の中心〟だ。〝君の願い〟が〝この世界を作った〟。それは優しくて楽しそうな、美しい世界だけど。人間の清濁含めて映す、不安定な世界になった」


 何を、言って居るのだろうか。僕が〝世界の中心〟? 〝世界を作った〟?


「この子はあくまでそれに応える存在。巻き込んだのは、君だ」

 この人間が言っている言葉が、半分も理解出来ない。

 世界を作ったのが僕だとか、ユウさんはそれに応える存在だとか、全く、判らない。


「でも、君を倒す訳にはいかないんだ。君は〝世界の中心〟。君が居なくなると、世界がどうなるのか判らない。だから応える側――〝世界の意志〟であるこの子を封印する事にしたんだよ」


 〝世界の中心〟〝世界の意志〟判らない。何も。


 判らないけど――!


「アンタが言ってる事、全然判らない。もしかしたら、正しいことを言っているのかも知れない。もしかしたら、悪いのは僕なのかもしれない」

 僕は一度深呼吸をして、剣を握り絞める。


「だけどッ!! 誰かを犠牲にした平和なんて僕は認めない!! そう言われて〝はいそうですか〟なんて引き下がったら、この剣をくれた僕の親友に顔向けが出来ない。僕はお前達の行いを否定する!!」


 ファルマは何時だって僕を信じてくれた。〝主人公〟だ、なんて言って、何時だって支えてくれた。

 僕は自分の事を〝主人公〟だって思ってる訳じゃ無いけど、こんな時ファルマが言う主人公ならきっと、()()()()()()()()()()()()()()()()


「〝破滅の光の一番弟子〟ドライズが、お前を討伐対象として認定する!! ユウさんは、僕が助ける!! あの楽しい学園生活へもう一度送り返してあげるんだ!!」

 僕の気持ちに呼応して、三叉に別れた透明な氷の刃が剣の柄から生成された。


 そんな僕の態度に。


「ま、君ならそう言うだろうね。そうだと思ってた」

 小柄な水色ローブの男はそう言って。少し離れた場所にユウさんを寝かせた。


「――そう、信じてた」

 ぼそり、と何かささやいたようだが、聞き取れない。


 だが。

「この子の危険性をその目にして尚、同じ事が言えるのかな?」

 小柄な水色ローブの人間は横たわるユウさんに手を翳し。魔力を集める。


「ユウさんに何をするつもりだ!?」

 慌てて、僕『第一氷結魔法(アイス)』を放った。放たれた氷の弾丸は、ぱしんと謎の人物の片手で弾き落とされてしまう。


「強いて言うなら、〝応えて貰うだけ〟。危害は加えないよ」

 水色ローブの人間はそう言って、唱える。


「『遍く魔力、汝が力を手中に収めん』――」

 次の瞬間、ユウさんの身体が一瞬だけ強く輝く!


「『アームズ・アーム』ッ!!」


 謎の人物が魔法を唱えた。ユウさんに向けていた右の掌に、うなりを上げて魔力の渦が集っていく。

 やがてソレは、〝片手剣〟の形をとった。

 左右非対象で、細身。

 円形の鍔から片方へ流れるように尾のような装飾が飛び出している。

 白金と黒にグラデーションしたまるで彗星のような――ユウさんの髪みたいな、美しい剣だった。


「『マテリアライズ』、か。魔力を直接物質にだなんて便利な魔法だねぇ。名付けるなら、『願いに応える彗星の剣』とか?」

 剣を片手に、謎の人物はそう言った。


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