17.5話 一応処女作
ある日の部活動時間。
「よしっと」
俺は額の汗を拭って頷いた。
「そこそこ掛かったけど、完成だ!」
俺は出来上がった〝ソレ〟を手に取る。
「お疲れ様です、先輩」
部屋の奥、いつもの位置で読書をしていたシジアンの視線が俺と制作したアイテムに向いた。
「一応処女作って事になるのかな」
「そちらは一体何なのですか? 棒のように見えますが」
俺はシジアンの疑問に答えるべく、手にしたそれを掲げて言った。
「これはな――〝剣の柄〟だ!!」
「剣の……柄?」
シジアンはキョトン、とした様子で俺が作ったアイテムを見つめていた。
「そう。持つところ」
「持つところ……だけですか?」
「そう驚いた顔するなって。刃が無いのにはちゃんと訳があるんだから」
俺は試運転も兼ねて、自身の魔力を柄に流し込む。
すると、
柄の先、鍔に当たる部分からぼうっと火柱が立った。
火柱は人の腕くらいの長さで燃え続ける。
「こいつは流し込んだ魔力を直接魔法として発動するんだ。今は火属性を流してるから、こうやってバーナーみたいになってるけど風属性を入れればドライヤーみたいになるし、実体がある氷や土属性の魔力を流せばちゃんとした刀身ができる」
「なるほど、魔力を刀身という魔法にできるのですね」
「そういう事だ」
「魔導機関の動力炉をそのまま小型化したようなもの、という事ですかね」
「あ、やっぱり似たようなモノが既にあるんだな」
俺の発想なんて凡庸だ。自分が天才発明家だなんて思っちゃ居ない。どうやらこのアイテムとそっくりな代物が既に世にあるらしい。
「しかし、先輩が扱う武器は槍ではありませんでしたか?」
「ああ、これ俺のじゃないからな」
俺は流し込んでいた火の魔力を止めて、アイテムを机に置いた。
「ところで、今月の提出物はこれのコピーにしようと思うんだけどいいかな?」
「はい、問題無いかと。ただ、提出するにあたって名前の登録が必要です。何か考えておられますか?」
「あー……今考えるわ」
名前に関しては全く考えて無かった。
どうしようかな。
顎に手をあて、思いを巡らせる。
折角の処女作だ。どうせなら拘った名前にしたい。
あとは、コイツを使う奴のイメージも取り込んで……。
「よし、決めたぜ」
カッと目を見開き、俺は言った。
「『原初の魔剣ギャラクシーライト氷燐飾剣零式』だ!!」
………………この時の俺は、疲れていた………………。
「げ、原初の魔剣ギャラクシーライト氷燐飾剣零式ですか?」
「うん!」
後になって考えると、余計なモノを詰め込みすぎた。ギャラクシー要素はいったい何処にあるというのか。
それから、零式は普通『れいしき』と読むのが正しいのではないか。
というかそもそも兵器の類に『○○式』と付けるのならそれは年号から取るのが正しいのでは無いか。
〝剣〟って文字2回出てきてるし等々自分自身ですらツッコミどころ満載だ。
「せ、先輩がそれでよろしいのでしたら……」
この時シジアンはそう言って何かの書類にこの名前をそのまま書いてくれたのだが、後になって見れば〝止めてくれよ!!〟と思うモノである。
ともあれ、俺の処女作はこうして銘打たれたのであった。
「さて、あとはアイツに渡すだけなんだけど」
俺は原初の魔剣ギャラクシーライト氷燐飾剣零式を片手に校内を散策していた。
最初は寮に戻ったのだが珍しくそこにアイツの姿は無く、ならばルクシエラさんの所にでも言っているのかと部室棟に出戻りするもそこにも居ない。
「食材の買い出しにでも行ったか……?」
そうぼやきながら部室棟最上階の窓から外を見下ろした。
すると、
「あ、居た」
眼下に漸く、水色ポニーテールの親友を見つける。
「ん?」
遠目だが目をこらしてよく見ると、険しい面持ちをして何処かを目指して走っている様だった。
「ったく、タイミングが良いんだか悪いんだか」
俺はすぐに部室棟を降りた。
「おーい、ドライズー!!」
アイツの背中を追いかけて、大声で呼ぶ。
「え、ファルマ!?」
ドライズは困った顔を見せて振り返った。
「ごめん、今ちょっと忙しくて、用事なら後に——」
そう言って去ろうとするドライズに向けて、俺は原初の魔剣ギャラクシーライト氷燐飾剣零式を投げ付ける。
「わぁ!?」
ドライズはソレを咄嗟にキャッチした。
「え、何これ——うわぁ!?」
気を張っていたからだろうか? ドライズから流れ込む氷の魔力を汲み取って、原初の魔剣ギャラクシーライト氷燐飾剣零式は氷の刃を形成した。説明する手間が省けて丁度良い。
「要るだろ、剣!」
イーヴィルとの戦いでドライズの剣は壊れてしまった。あれからそう時間は経っていない。代替品を用意している暇も無かっただろう。
この剣は、そんなドライズの為に作り上げたのだ。
「ありがとうッ! ファルマッ!!」
ドライズはそう言うと、そのまま何処かへ行ってしまった。
アイツが今、何の為に必死な顔で走っているのか俺には判らない。けれど、異常な日常が平常運転のこの学園で、あの剣は必ずアイツの助けになる筈だ。
剣を受け取って、礼を言ったのが何よりの証拠。
今日も今日とて、アイツは、アイツを必要とする誰かを助けてくるだろう。
「……行ってこい、主人公」
俺は特別じゃ無い。だからこそ。
少しでも、特別なアイツの助けになれれば。
あの剣を作った甲斐があるってものだ。
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