122.5話 きっとこういう感覚が――幸せって言うんだろう。
私は自室のベッドで枕に顔を埋めていた。
――言っちゃった! やっちゃった!!
恥ずかしさから足をバタバタさせて悶える。
頬とは言え勢いでキスまでしてしまった自分に自分で驚きを隠せない。
ピコンと端末に反応。
『そろそろ予定していた時間だと思いますが首尾はいかがでしたか?』
と部長さんからメッセージが届いていた。
『計画通りにいきました///』
と返信する。
すると同じグループに居るレンちゃんからも、
『それは何より』
とメッセージが届いた。
そう、それは約一週間前のお話――
◇ ◇ ◇
『救援要請っ!』
ハル君を遊園地に誘ったその日の晩に、私は部長さんとレンちゃんにメッセージを送っていた。
そして、私の部屋に二人が集まってくれる。
「何事ですか?」
「その、勇気を出してハル君を遊園地に誘ったんだけどね」
「……やるじゃん」
「いや、それが――ハル君、多分デートのお誘いだって気付いて無いみたいなんだよね……」
私の言葉に二人の表情が固まった。
数秒後、部長さんは顎に指を当てレンちゃんはやれやれと言った風に肩をすくめる。
「……ファルマなら、あり得る」
「うぅ、私どうしたら良いんだろうね……」
「確認なのですがアリシアさんはどうなる事が理想なのですか?」
「そりゃ、折角の初デートなんだから良い思い出を作りたいと思ってるよ。でもわざわざデートだって念押しするのも、恥ずかしいしね……」
「――でしたら、こんな案はどうでしょうか」
困り果てた私に、部長さんはある〝策〟を教えてくれた。
曰く、
「先輩の性格から考えて、初デートだと気付いた場合緊張や萎縮して、その日を〝楽しむ〟という事が出来なくなるでしょう。そうなるよりは現時点のデートだと気付いていない状態を維持した方がお互いに楽しい時間を過ごせると考えられます」
「……でも、折角の記念すべき初デート」
「レンちゃんの言うとおり、出来ればハル君にはその――デートだって意識して欲しいかな」
お互い初めての恋人と、初めてのデートなのだ。〝ただの楽しい一日〟じゃなくて〝恋人との楽しい一日〟として思い出に残して欲しいし、残したい。
「そこで、少し工夫を加えましょうか。アリシアさんはデートが終わる直前までは平静に、普段通りの振る舞いを努めて貰います。そうすれば先輩はその一日がデートとは考えず、ありのままの先輩としてアリシアさんをエスコートしてくださる筈です。そして、遊び終え帰路に付いた所で――仕掛けます」
「仕掛けるって、どういう事かな?」
「何をするかはアリシアさんにお任せしますが、何か、〝恋人らしい特別な事〟をするのです。そして先輩に、〝またデートに行こう〟とその日がデートであった事を伝えて去ります。そうすれば先輩の中で〝普段通りの一日〟が一気に〝恋人と過ごした一日〟に塗り替えられる筈です」
最後の最後で〝特別な日〟へと一気にひっくり返す。
それが部長さんの提案した策だった。
◇ ◇ ◇
結果としては大成功、といって良いだろう。
鈍感なハル君も顔を真っ赤にして呆然としていた所までは確認した。
デートとして、恋人として、意識してくれたに違いない。
多分、私も人の事言えないくらい顔が赤くなっていたと思うけど。
因みに、帰り道のあの通りでハル君を食事に誘うように提案してくれたのも部長さんだ。ハル君が最近通うようになった喫茶店がある事を知っていたみたい。
ピコンと、更にメッセージが届く。レンちゃんからだ。
『それで、最後は何をしたの?』
『それを聞くのは野暮ではないかと……』
『気になるモノは気になる。どうしても嫌なら別に良いけど』
と続く二人のメッセージに返信。
『えっと、大丈夫。その、ほっぺにキスしました///』
するとピコンと音がなって、レンちゃんから可愛らしいキャラクターと〝いいね!〟という文字の描かれたスタンプが送られてきた。
私は自分で自分の行動を思い出し、
恥ずかしくなって再び、顔を枕へ。
――や、やっぱりキスは行きすぎだったかな!? 明日からどんな顔してハル君に会えば良いんだろうね!?
また足をバタバタさせた後、高ぶる気持ちを誤魔化すように追記する。
『その前に、〝月が綺麗だね〟って言ったけどそっちの方はハル君には伝わらなかったみたい』
私の言葉を受けて素直に月を見上げたハル君の様子から、ハル君はあの言葉に秘められた意味を知らなかったのだろうと思った。
ピコン、とレンちゃんから今度はキャラクターがずっこけているスタンプが届く。
『先輩らしいです』
部長さんは携帯端末の向こう側でクスリと笑っている気がした。
『お陰様で初デートは多分、成功しました。協力してくれてありがとね』
と改めてお礼を伝える。
『お二人の力になれたのならば光栄です』
『ごちそうさま』
二人の返信を見届けて、私は携帯端末を手放した。
枕を抱えて天井を見上げる。
頭がぽーっとして、今日過ごした時間が早回しの映像のように流れていく。
――部長さんの作戦……私にも効果あるんだね……。
私もまた、ハル君と同じように。
最後の瞬間、ハル君が明らかに〝恋人として意識してくれた〟お陰で。
ただでさえ楽しかった一日が、より色鮮やかに上書きされた。
ああ。
きっとこういう感覚が――幸せって言うんだろう。
そうだよね?
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