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【第二部完結】俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~  作者: 岩重八八十(いわじゅう はやと)
幕間 戻って来た一時の日常

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117話 〝普段通り〟

次の投稿は恐らく二月末になります。

 アリスのお誘いは果たしてデートなのかそうじゃないのか?

 そんな疑問が晴れないまま次の日を迎えてしまった。

 

悶々として寝付きが良くなかった。連日の寝不足にふらつきながらもいつも通りの支度をして寮室を出ると。


「おはようだね、ハル君!」

 いつも通りアリスが元気に挨拶してくれる。


「お、おはよう、アリス」

 俺は少し目線を逸らしながら答えた。俺は休日の予定がもしかしたらデートなのかもしれない、と思い混乱の渦中に居る。


 恐る恐る、視線をアリスの顔に向けて。

 そこにあるのはいつも通りの花咲く笑顔。

 緊張、焦燥と言った様子は一切感じ取られない。


 そして、思う。


 ――あのお誘いがデートなら、アリスだって緊張する筈じゃないか? だって初デートだぞ?

 いつもと代わらぬアリスの様子から、やっぱりデートでは無いんじゃないかと言う疑問が拭えない。


流石に俺も、『遊園地に行くのってひょっとしてデートなのか?』なんてアリス本人に問いただすような無粋な事はしない。アリスにその気があっても無くても気まずくなるだけなのは判ってる。


「ハル君、固まっちゃってどうかしたのかな? 急がないと遅刻しちゃうよね?」

 アリスが困ったように言った。


「あ、ご、ごめん。ちょっと考え事してた」

 俺はそう言って、校舎に向けて歩き出す。


「そっか。それなら良いんだけど」

 俺に歩調を合わせてアリスが横を歩く。

「最近暑いねー」

 何気ないアリスの言葉に、気軽に返事をする。

「夏が始まったって感じがするよな」


 アリスが学園にきて一ヶ月と少し、季節は初夏からうつりすっかり夏真っ盛りだ。アリスと正式に付き合う事になったけれど。アリスとの再会してからは波乱の連続で。めまぐるしく、そしてぐちゃぐちゃに曲がりくねった道を歩んできた。


 ――ホントに、色々あったな……。


 その末に特別な関係になって。

 こうして寮から校舎までの本当に短い時間に言葉を交わすいつもと変わらない日常が、そこにある。


 ――やっぱり、考えすぎなのかも知れない。


 アリスと正式に付き合う事になって、恋人になったって意識するようになっても。このほんの少しでも確かに幸せだと感じられる時間は揺るがない。


 ――もう少し落ち着いて考えてみよう。まだ、時間はある。

 俺達は10分にも満たない時間を共に過ごし、教室の前で手を振り別れた。


 そして――


「考えてる間に休日が来てしまったァァァッ!!!」


 週末の朝、俺は部屋で叫んでいた。

 この数日、結局俺は結論を出すことが出来ないで居た。何故なら、アリスがあまりにも〝普段通り〟だったからだ。付き合う事になったその日こそギクシャクしてしまったが遊園地に行く約束を取り付けてからはいつも通りのアリスに戻っていて。


アリスと付き合い始めてまだ数日。俺は言わずもがな初恋初彼女な訳で、何をするにも不安や緊張が走りアリスの様子を伺ってしまっていた。

 

けれど登下校の僅かな時間、お昼ご飯に部活動、アリスは変わりない笑顔を浮かべ続けていた。幸せそうで何よりだが逆にそれ以外の感情を読み取れない。


「当たり前の日常が当たり前に過ぎていっただけだった……」

 けれど、それは決して嫌な時間では無かった。付き合い始めたのだからといって、焦る必要は無い、急に何かが変わる事が無い、と感じたのだ。


「ここまで普段通りなら、やっぱり今日のは普通に遊園地で遊びたいだけなんじゃないかな……」

 付き合いたての彼女との初デートなんて色恋に疎い俺ですら意識してしまうシチュエーションだ。こうして数日かけて悩むくらいには。でもアリスは意識なんて全くしてない様子なのだから。


「……よし」

 俺は漸く答えを導き出して。


 普段通り、制服に袖を通した。


「これで良い筈だ」

 アリスが単に遊園地を楽しみたいだけなら、デートだなんだなんて勝手に意識して緊張したり狼狽えたりしては迷惑でしかないだろう。


 俺はただ、平静にアリスと一緒に遊園地を楽しめば良い。

 当日になって漸く落ち着いた気持ちを取り戻し、俺は寮室を出る。


 そして、寮を出て校門前でアリスを待った。

 と、言うのも。今の今まで悩みまくっていたので全然眠れず約束の時間より数時間早く目が覚めてしまっていたからだ。

 夏真っ盛りとは言え流石に早朝はそこまで暑くないので少しくらい待つのも苦では無い。


 アリスを待ちながら、携帯端末で最後にもう一度遊園地のアトラクションを調べてみる。

「アリスって絶叫系大丈夫なのかな? ジェットコースターに乗るのか、避けるかパターン考えておくか」


 本来なら遅すぎる計画だてだが、それだけ狼狽えていたのだから許して欲しい。

 そんなこんなで小一時間ほど時間が過ぎて。


「おはよう、良い天気だねハル君!」


 聞き慣れた声。ああ、こんな挨拶一つですら。朗らかな〝いつものアリス〟を感じる。

 俺は端末から顔を上げた。


「おはよ――う?」


 そして。言葉を失う。


 普段は首元で結んである少し長めの髪は解かれ風に靡いて。小ぶりの白いカチューシャが目を引く。それに大胆に肩を出したトップスと、ふわふわした可愛らしいミニスカート。

桜色の小さなポーチを片手に、満面の笑顔を浮かべたアリスがそこにいた。


 その衣装の何もかもが、始めて目にするものばかり。

 

 ――全ッ然ッ普段通りじゃなくねッ!!? 


 心の中で叫んだ。

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