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【第二部完結】俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~  作者: 岩重八八十(いわじゅう はやと)
第1部 俺は主人公になれない

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15話 ユウさんを助けなきゃ……!

「ユウさ~ん、いつまで固まってるの~?」

 ドライズが手を筒状にして、ユウさんに声をかける。

「な、ナギちゃんが良いって言うまで……」

「ナギさんは多分もうユウさんに動くなって言ったこと忘れてると思うよ~」

「で、でも……! 動いたら斬られちゃうっ……!!」

 対してユウさんは冷や汗を流し、ぷるぷる小刻みに震えつつもを固まったままのポーズを維持していた。


 そして、完全に消化試合ムードが漂っているのは俺達だけではない。


「モ、モウダメダ……」

「ココマデカ……」

 イーヴィル達は全てを諦めた様な、あるいは何かを悟った様な表情を浮かべている。


「ダガッ!!」

 ピタリ、とイーヴィル立ち止まった。

 そしてスッとしゃがみ背後から迫っていた風の刃をやり過ごす。


「サイゴノ願イクライハッ!!」

 もう一体のイーヴィルは軽くジャンプすることで風の刃を飛び越え。

 イーヴィル達は同時に、ダッと駆けだした。

 虚を突かれたナギさんは刀を振り上げていたその脇の下をくぐり抜けられてしまう。


「何をっ……!?」

 振り上げた刀を咄嗟に地面に突き立て、刀を軸にくるりと空中で身体を捻って即座に方向を転換する。そして確認したイーヴィル達の向かう先……それは、硬直したままのユウさんだ。


「ユウッ!! 逃げてくださいっ!!」

 駆け出すと同時にナギさんが叫ぶ。


 3つの風の刃もナギさんに伴ってイーヴィルを追うが最後の力を振り絞って走り出したイーヴィルに追いつかない!


「え、ええ、えええええ!!?」

 動くな、と言われて凄く中途半端な体勢で固まっていた所に、突如逃げろと言われて咄嗟に動けるだろうか? 


 少なくとも、少々鈍くさいユウさんには無理な話だった。

 逃げようとして、けれど足が縺れてポテッと尻餅をついてしまう。


「「ウオオオオオオ!!!」」


 雄叫びと共に両腕を掲げ決死の表情で寄ってくる二体のイーヴィルの姿はある意味クラス3より恐ろしい。

 

その鬼気迫る叫びが耳に入り、流石に気になった様子で顔を上げたレンがボソッと呟いた。


「……え? ……何あれ気持ち悪っ」


 あまり感情を表情に出さないレンが明確に顔を歪めるくらいには異様な光景だった。


「助けてぇぇぇ!!!」

 二匹のイーヴィルがユウの元へ辿り着こうとした、その瞬間。

 目を閉じ身体を庇って縮こまるユウから光が放たれる。


「ユウさんっ!?」

 それは、漆黒の中にポツポツと青白い星のような輝きの混じった、異質な光。

 光は球状に広がってユウさん自身と、迫っていた二匹のイーヴィルを飲み込んだ。


「総員緊急指令よッ! シャルネとレンはエクレアの護衛をお願いっ! それ以外のメンバーは今すぐ私の真下に集まりなさいっ! あの光の動向に注意を向けて、十分な距離を取りながら移動!!」


 異常をすぐさま察知したリーゼが、箒に跨がって空に飛びクラスメイトに指示を飛ばす。


「なんだなんだ何事だ!?」

 俺は慌てて指令に従い、箒に跨がり空に浮かぶリーゼの真下へ向かってチームの二人と共に駆けた。


「ユウさぁぁぁんっ!!」

 謎の光に呼びかけるドライズだが、帰って来る言葉は無い。

 やがて光の氾濫が少しずつ小さくなり、視界が開けて行く。

 

 現れたのは、二匹の小悪魔と一人の少女などでは無い。


 細く歪な二本の足とあばら骨のような無数の細い肉で構成された胴体。

 こぢんまりした頭部は、箒に跨がり空中から様子を伺っていたリーゼと同じ高さにそなえられていた。

 

 全体的に線が細い、歪で異形の巨人が雄叫びを上げる。

『オォォォォォ!!!』 

 その、無数の線か筋、或いは枝にも見える胴体の中央に。

 まるで木々や縄に絡まれるかのように骨張った無数の腕がユウさんの全身を拘束して捕らえていた。


「うっそだろ!? イーヴィルが融合しやがったっ!?」

「総員ッ周囲に警戒っ!!」

 再び、空から降ってくるリーゼの号令。


「皆さん、足元にお気を付け下さいッ」

 ナギさんの言葉を受けて、皆の視線が足元へと移る。するとそこでは、グルグルと黒い渦のようなものが沢山の場所で蠢いていた。


「な、なんなのだ、これは!!」

 可哀想なクラスメイトが驚いて居ると渦から突如、痩せ細った骨のような腕が伸びてきて。横たわって気絶していたエクレアの身体に纏わり付く。

「なっ何をするっ、エクレア君にっ!!」

 一つ、二つ、三つ、四つとまるで何処かへ引きずり込むように。


「失礼ッ」

 刹那、ナギさんが赤い軌跡と血痕の足跡を残して駆け抜け、腕のようなものがまとめて両断された。

 けれど、周囲のあちこちから次々に腕がわなわなと伸びる。

 それはまるで、蜘蛛の糸に群がる地獄の亡者のようだ。


「1のBリーダー、聞こえるかしら!? 4のAはひとまず新たに出現したイーヴィルと交戦するわ。そっちは学園へ急いで連絡して! もしもの時は応援を――っ!?」

 上空から仲間達の様子を伺いつつ端末を使って支援を担当している下級生に指示を出していたリーゼの元に、巨人の細い棒のような腕が振り下ろされる。


「きゃっ」

 直撃は避けたものの、バランスを崩し、片手で箒にぶら下がるような体勢になってしまう。そうして身動きを封じた所へもう片方の腕が迫り……


「リーゼさんっ手を離してくださいっ!!」

 下方から聞こえるマナトの声に従い、リーゼはきゅっと目を閉じ決死の覚悟で手を離す。

 落下してくる小さな身体をマナトがしっかりと受け止めた。


「いたた……ありがと、マナト」

「いえ、お気になさらず」

 巨人の腕は宙に残った箒だけを捉え、箒は強く叩き付けられて斜め下へ跳んでいく。


「ぼっ!?」

 偶然落下位置に居た俺の後頭部に箒の穂の部分が直撃し、バサッと覆い被さった。

「ファルマっ! 遊んでる場合じゃないよっ!! ユウさんを助けなきゃっ!!」

 ドライズが苛立たしげに箒をすっぽぬき、地面に叩き付ける。

「遊んでねぇよ!?」

 不慮の事故だと言うのに。


 イーヴィルは更に動く。

 本体の細い棒のような腕が一同を叩きつぶさんと振り下ろされて。

「お願いしますっ『グリード』!!」

 リーゼをお姫様抱っこで抱えたまま、マナトが叫ぶと腰に下げていた真っ黒な剣が霧の様に崩壊する。そして霧は振り下ろされる腕の前に集まり、網縄のような形に変質して腕を受け止めた。


「結構重いですね……あ、すみません、リーゼさんの事ではありませんよ」

 マナトは一瞬渋い顔を作るが、慌てて手元のリーゼに謝罪する。

「判ってるわよそれくらい」

 そんなやり取りをしていると、ごうっと大気が動き、影が差す。


 巨人が一同の上空を覆い被さるように身体をかがめた。そして、ユウさんを捕らえる胴体からは更にブチブチという不快な音を立てて骨張った細い腕が生えて、まるで捕らえる獲物を物色するかの様にわきわきと蠢く。


 そして、巨人の口がゆっくりと開いた。


『欲シイ、欲シイ……欲シイッ!!』   


「な、何言ってるんだアイツ……!?」

 その様子は、先ほどまでナギさんに追いかけられていた憐れな小悪魔とかけ離れている。

 不意に、捕らわれていたユウさんの表情が悪夢にうなされるように歪んだ。

「うぅ、やめ、て……こんな〝願い〟なんて……だめ……」


 か細く痛ましい声は、何か言っているという事だけは判るも内容までは俺達に届かない。

 けれどユウさんが苦しんでいるらしい事だけは強く伝わってくる。

「ユウさんを助けなきゃ……!」

 ドライズは

「これはどうです? 『鎌鼬(かまいたち)』ッ!!」

 地面から伸びて仲間に群がる腕を切り落としながら、ナギさんは空へ向けて刀を振るう。


 刀身から放たれた三つの風の刃は捕らわれたユウの正面で大きく軌道を変えて曲がり、ユウさんの身体へ食い込む様に纏わり付く腕だけを切り裂いた。


 しかし、周囲から新たに生えていた他の腕が次々ユウに纏わり付き、更には切り裂かれた腕ももう一度再生してユウさんに纏わり付いてしまい結局拘束は解けない。


「ッ! 効きませんか。仲間一人救えないとは、不甲斐ないッ」

 ナギさんは苛立たしげにもう一度刀を振り下ろして血を強く払い飛ばし、ついでに近くの足元から生えていた腕を切り飛ばした。


「私もまだまだ、精進が足りません……」

 そして、異形の巨人を睨む。先程までの楽しそうな表情から一転した鋭く明確な敵意を宿した瞳がギラリと輝く。

「元はと言えば融合前に脇を抜かれた私の不始末。責任を取りますッ!」

 ナギさんは合流したクラスメイト達から離れ、単身異形の巨人へと駆け出す。


「敵の注意を引きつけますッリーゼさんはその間に策をッ」

「任せたわ、ナギッ!」

 遅れて届いてきた言葉に、リーゼは信頼の籠もった言葉を返した。


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