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【第二部完結】俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~  作者: 岩重八八十(いわじゅう はやと)
幕間 戻って来た一時の日常

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113話 いや、この一晩で何があったし

レン視点

 私は憂いていた。〝口は災いの元〟という言葉があるがそれを体験したのは産まれて初めてだ。私が余計な事を口走ったせいでファルマとアリシアの関係性に亀裂を走らせてしまった。あんないちゃいちゃベタベタしていた二人が、そんな薄氷の上で関係性を築いていたなんて知らなかった。


 昨日、ファルマは迷い悩んだ重い足取りで部室を去った。アリシアはずっと泣いていた。


 全部私のせいだ。


 私は。別にファルマが嫌いじゃない。恋愛対象としては0点だけど、仲間として、ビジネスパートナーとしては120点を付けても良いくらいだ。


 私の独自の魔法陣、〝紋章〟を理解し、利用し、褒めてくれるのはファルマくらいだ。

 初めて私の落書きを解読された時。私は心底驚いていた。私の〝紋章〟は私以外の誰にも理解出来る筈がない。一般的に普及している記号、公式を私個人の勝手な趣向で一文字の記号に纏めてしまったり、オリジナルの公式を利用して〝紋章〟は作られている。


 だから、私の〝紋章〟を他人が見ても理解出来る筈がない。ピースの形すら判らない状態でパズルを解くようなものなのだから。


 でもファルマは、それが出来た。


 あのとき、ものすごく驚いたけれど。何故か嫌悪感は感じなかった。普通、私しか知らない事を他人が知っていたらドン引きするモノなんだけど。


 部活動で合同活動するようになってからも、ファルマは凄かった。私の〝紋章〟は普通の魔法陣の三倍は濃密だから、ただ単にマジッククラフトの技術を用いてアイテムに転写しても記号や公式が潰れてしまう。


 でもファルマはそんなのお構いなしに私の〝紋章〟をアイテムに取り入れ、活用してくれる。あり得ない話だと思う。都合が良すぎる話だと思う。けれど、本当に不思議な事に違和感は全く無かった。

 

 まるでずっと昔から、何年もそうしていたかのように、〝ファルマなら私の紋章を使ってくれる〟という謎の信頼感の元、活動してきた。

 

 話が脱線したかもしれない。

 

 とにかく、私はファルマの事を信頼しているし決して蔑ろにしているつもりはないと言う事。人並みに心配するし、申し訳無いと感じている事、それが私の心だ。


「……心配」


 そんな膨大で複雑な心を、私は言葉にできない。何故だろうか。考えて居る事、伝えたい事は頭の中に沢山ある筈なのに。『言葉として声に出す』事がとても苦手だ。

 同時に、『言葉として声を出す』行為に非常に憧れるし凄く楽しい。お喋りをもっと上手になりたいと願う。


 ……また話がそれた、


 ともかく、今回は私のそんな願いの空回りもあってか余計な事を『口走りすぎた』。言葉数が少ないのがコンプレックスだというのに喋りすぎで大切な友人を苦しめる事になるなんて思いもしなかった。


 今回の一件、どう転ぶだろうか。アリシアはファルマに振られると考えて居る様子だった。シジアンから聞いた話でその根拠に納得する。元はと言えば振ったのはアリシアの方。その後イーヴィルだのなんだのごちゃついて恋をしたと言うがファルマからすれば掌返しにしか見えない。


 そしてその〝掌返しをさせてしまったのはファルマ自身〟だという自責の念があるのならば、ファルマの性格上絶対にアリシアの好意を肯定する筈が無い。

 ファルマは不器用だけど義理堅く、もっと言えば〝頭が固い〟。一度〝自分のせいだ〟と思えばその考えを覆すのは至難の業だろう。

 

 それをあの場に居た全員が理解していたからこそアリシアは悲観的に泣いていたのだ。

 

 私はアリシアと殆ど接点が無い。部活動でたまに顔を合わせる程度、なんか気がついたらファルマといちゃいちゃしてるファルマの幼なじみという認識だった。


 ファルマにはドライズという最愛のパートナーが居るから最初は少しもやっとしたものの、アリシアの眼差しに真剣さを感じた事と、別に妄想するだけなら個人の自由だから実際のファルマが誰とどういう関係になろうがどうでもいいか、という結論で落ち着いていた。

 

 思えば、あのいちゃつきも全ては〝自分のせいだ〟と思い込むファルマの心を解きほぐす為の一手だったのであろう。少しずつ、解きほぐす様にファルマの罪悪感を薄れさせていく作戦だったに違いない。

 

 私はそれを、この口で台無しにしてしまった。

 

 ファルマにもアリシアにも迷惑をかけてしまった。

 だからなんとかして力になりたいと思う。思うけど……妄想とかは良くするけれど実際の恋愛経験が無い私にどこまで力になれるのか。事実昨日の時点では何も妙案を出すことが出来なかった。

 

 授業が始まる五分前の予鈴が鳴る。

 

 ファルマはいつも時間ギリギリに登校してくるが、未だに姿をみせない。やっぱり昨日の件が尾を引いて居るのか。もしかしたら悩みすぎて倒れたのかもしれない。だとすれば尚更私の罪悪感が募る……。

 

 そう心配していたら。授業開始三分前くらいのホントにギリギリで。

「……うっす……」

 目元に大きな隈を作って、猫背になり疲れ切った表情のファルマが登校してきた。

 

 もうそれだけでファルマがどれほど一晩悩み、苦しんできたのかがよくわかる。

 ファルマは言葉少なく――と言っても元からドライズ以外とはあまり喋らない方だけど、引きずるような足取りで私の隣の席に座り。


「……もう、ダメ……」

 バタン、と倒れ込むように机に突っ伏した。


 ああ、もうこれ手遅れなヤツじゃない? ファルマ生きてる? 

 私はかける言葉が見つからない。悩みすぎて精神が摩耗してしまったのだろう。


 もう死にかけにしか見えないファルマは、私が迷いでちょっと目を離した隙に目を閉じスースー寝息を立てていた。授業これから始まるっていうのに。これは本当に一晩一睡も出来ずに悩み続けたに違いない。


 続いて、教室にセレスティアル先生が入ってくる。

 どうしよう。原因は私にある。フォローするのが筋だろうか。適当に理由をでっち上げて保健室にでも搬入させるべきか。このままだと開始一分で説教コースだ。


 オロオロと迷っているとヴィーと懐からバイブレーションを感じた。

 携帯端末を取り出し確認すると、昨日結成したシジアンとアリシアの三人グルーブチャットにから新着が来ている。


 ファルマは死にかけの今、アリシアの方はどうなっているのかそのまま名前の項目から目を滑らせてメッセージを読んだ。


『お騒がせしましたが、無事ハル君と正式にお付き合いする事になりました///』



 ――は?



 私は一瞬、自分の目がおかしくなったのかと思って目を擦り、正式にチャット欄を開いて改めて一言一句を確認する。

『おめでとうございます。無事丸く収まって何よりです』

 とシジアンはすんなり状況を受け入れているが、私はもう一度隣の席にいるファルマに目を向け。死んだように疲れ果てた様子で眠っている姿を確認し、混乱した。


『いや、この一晩で何があったし』


 気がつけばそう返信していた。


「授業始めますよー」

 返信すると同時に先生の声が聞こえて、慌てて携帯端末をポケットに戻す。何がなんだか判らないが詳しいことは昼休みにでも集まってアリシア本人から聞いた方が良いだろう。と結論づけた。


 そして、ファルマが開幕居眠りしてる事実に改めて気付き、危機感を覚える。

 先生の視線がこちらへ向き、明らかにファルマを視認した。私がフォローする隙も無かった。


 もうこれダメだ。哀れファルマ、私のせいで怒られる事になってごめん。そう心の中で謝ってみたが。先生はやれやれ、と言わんばかりに目を伏せて授業を始める。

 

 ――本当に、何が起こってる?

 

 判らない。何にも判らない。

 でもとりあえず……悪い事態には向かっていない様子だった。

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