表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第二部完結】俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~  作者: 岩重八八十(いわじゅう はやと)
幕間 戻って来た一時の日常

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

154/168

110話 ――あの頃のハル君も、こんな気持ちだったのかな

アリシア視点

 その日、部活動の時間が終わるとハル君はいつもより早く寮へ帰って行った。逃げるように、なんて言い方は失礼だ。凄く重たい足取りで、凄く思い詰めた表情で、悩み、頭を抱え続けていたから。

 私はハル君が居なくなった部室で、机に突っ伏していた。


「どうして、どうして……こんな筈じゃ無かったのに!!」

 悔やんでも悔やみきれない。


「もっとハルくんの気持ちが落ち着いてから……もっとじっくり、少しずつって思ってた筈だったのに、何で私は、あんな事言っちゃったのかな……」


 後悔ばかり口にする私に、気まずそうな声が降ってきた。

「……ごめん。そんなに深刻な話だと思って無かった」

「ううん。いいの。いつかは向き合わないといけない問題だっていうのは判ってたから。私もごめんね。レンちゃんを巻き込んでしまって……」

「……口は災いの元。私、初めてかもしれない。反省、してる」

 と、レンちゃんも悲しげに言った。


 レンちゃんに悪気は無かった。ハル君とドライズ君が仲良しでも、私がハル君を好きな事は一生懸命アピールしてきたから、学年の中ではとっくに付き合ってるモノとして考えられていたみたい。

 その上で、レンちゃんは男の子同士の恋愛が好きだから実際の関係性なんてお構いなく妄想してたんだって。


 『浮気は良くない』なんて言葉も、ホントは付き合ってると思っていた私とハル君をからかいたかっただけ。その後私を煽るような事を言ったのはいざ蓋を開けてみたらまだ付き合って無かった事に驚いて、〝あれだけ判りやすく両思いなんだからさっさと付き合えば良いのに〟、なんて軽く背中を押すつもりで言ったみたい。

 ……って、部長さんがレンちゃんとお話しして、説明してくれた。

 

 同時に、私のハル君の関係――昔振った幼なじみだった事とイーヴィルになって恋をした事。そのあと改めてハル君の事を好きになった事を、八天導師だけの秘密としてシジアンちゃんが説明してくれた。


「……空想の恋愛は簡単で楽しいけど。現実はとても難しい」

 一連の流れを聞いて、レンちゃんはそう言っていた。

  

「ですが。やや時期尚早であった感は否めないもののいつかはハッキリさせないといけない問題でした。今後〝第四の賢者〟が活動を活発にすれば色恋沙汰所ではなくなります。決して悪いタイミングでは無かったとボクは判断しました」

 シジアンちゃんとしては〝第四の賢者〟さんの動向が落ち着いている今のうちに解決するべきだと思って居るみたいだった。


「だとしても今日じゃ無かったと思う……。あんな勢い任せの、しかも、ドライズ君との噂を盾にした告白なんて、全然、ダメ……」

 もっと準備をして、ハル君の誤解を解いて、雰囲気を作って。

 そうして、告白しようって思ってたのに。口が、身体が勝手に動いてしまった。やっぱり私は、私が思っている以上に焦っていたんだ……。


 この学園は女子生徒の割合の方が多い。だから仕方の無いこと。学園生活をする上で、ハル君が他の女の子と達と行動をする事が多くなるのも当たり前なんだ。


 ルクシエラさん、ナギちゃん、レンちゃん、ハルカちゃんに……私の味方をしてはくれてるけど部長さん。最近のハル君はいつも女の子に囲まれてるから、だから、心のどこかで焦りが少しずつ積もっていたんだ。みんな、ただの仲間や友達 。お互い全然そんな意識してないって頭では判っていた筈なのに、それでも。


 やっぱり不安だった。


 ハル君は、まだ私の事を好きでいてくれているのだろうか?

 私のせいで悩んで、苦しんで、嫌気が差してないのだろうか?

 他の女の子に、移り気してないだろうか?


 そんな気持ちが拭えなかった。

 だから。


『俺はアリ――じ、女子が好きだよ!!』


 その言葉に思わず舞い上がってしまったんだ。

 ――バカだよね。言いかけただけ、その先に続いた言葉が本当に私の名前だった確証なんて無いのに。

 

 そしてハル君は時間が欲しいって言った。私は〝いつまででも待ってる〟と答えた。

 今日はひとまずそれで丸く収まったけど……。


 でも。


「怖い。怖いよぉ。ハル君の事だから、悩めば悩むほど自分を責める筈。ハル君はまだ私の本当の気持ちに気付いてない。『自分にそんな資格は無い』とか『君の心を歪めてしまってごめん』とか言って、きっと振られちゃう……」

 想像しただけで胸が苦しくなる。


「……私、どうしよう。こうなった原因だから、何かしたい。でも、部外者が口出しする問題でも無さそう」

 レンちゃんもオロオロした様子で困ってるみたい。


「ここまで来たら当人達の問題です。ボク達ができるのは見守るか、少しばかり助言するかくらいでしょう」

 シジアンちゃんがレンちゃんにそう語りかけているのが聞こえた。


「……助言」

 レンちゃんがそう言って、悩むようにうなる。


 そして数十秒後、

 

「……難しい問題。いつでも相談、のるから」

 と、レンちゃんはちょこっとだけ恥ずかしそうに視線を逸らして。


「……良ければ、連絡先――頂戴」

 と、携帯端末を差し出してきた。

「うん、ありがとう。レンちゃん」

 私は笑顔を作って、レンちゃんと連絡先を交換した 

  

     ◇  ◇  ◇


 次の日。私は日が昇り始めてすぐに寮を出た。いつもはもう少しだけ遅く出て、ハル君が起きてくるのをのんびり玄関で待つんだけど……。

 今日ばっかりは、そんな勇気が湧かなかった。


 昨日の今日の話、ハル君はきっと、ずっと悩み続けてる筈。そしてそれは私も同じ。そんな状態でハル君にどんな顔をして会えば良いのか判らなかったから。


 告白をするってこんなに怖いことだったなんて知らなかった。

「――あの頃のハル君も、こんな気持ちだったのかな」


 昔、ハル君が私に告白をして。私はそれを断った後。ハル君は私と目を合わせてくれなくなって口も聞いてくれなくなった。最初は戸惑って、最後には、振った私を恨んでるモノだと思って私の方からもハル君を避けるようになったけど。イーヴィルになった時、ハル君の心が、後悔が流れ込んで来て。ハル君に負けたとき、ハル君が何度も後悔を言葉にして謝ってくれて。全部誤解だと気がついた。


 いつだって他人の本当の気持ちなんて判らない。

 だから、怖くなってしまうんだ。


「私、悪い子だ……。ハル君が謝ってくれた事、後悔していた事を今度は私がハル君にしようとしてる……」

 罪悪感がのしかかる。


 でも、今は、今はまだ来るべきタイミングを待つべきだと思って。

 だから、まずはお互いゆっくり、心の整理が付くまで待って――それで、落ち着いてきたタイミング且つハル君が私を振る直前に行動する。


 そう決めた。


 いつも通りハル君と学校に登校出来ないのは寂しいし、部活動も暫くは気まずくて顔も出せないかもしれない。

 でも、最後の最後で、絶対に向き合う! そこが唯一の逆転のチャンス、それをただ待つんだ――


 そう思って寮の玄関に出た時。


「おはよう、アリス。待ってたよ」


 あまりにも早すぎる朝、他には誰も居ない玄関に一人。

 ハル君はいつもの優しい笑顔を私に向けてくれた。


よろしければいいねやご感想など頂けると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ