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【第二部完結】俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~  作者: 岩重八八十(いわじゅう はやと)
幕間 戻って来た一時の日常

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108話 ドライズのモノでもねぇよッ!!?

「やああああっとおわったぁぁああ!!」

 俺は背筋を逸らすように伸ばし万歳をして叫んだ。

「お疲れ様だね、ハル君!」

 アリスは手元でささやかにパチパチ拍手してくれる。


「お茶を煎れました。よろおしければお茶菓子と共に、どうぞ」

 シジアンは俺が好きなお茶と苦いお茶に合う濃厚な甘みを持った茶菓子を出してくれた。


「さんきゅーシジアン」

 甘いあまーいお菓子を口に含んで。そのねっとりとした甘みと口腔から鼻に抜ける穏やかな風味を楽しみ、少しだけ苦いお茶を飲む。


「あー生き返る……」

 甘みと苦みのハーモニーが疲れを癒やしてくれた。


「……納品確認。よく頑張ってくれた。ありがとう」

 ふと、部室の隅で落書きのように魔法陣を描きながら待っていたレンがいつの間にか俺の制作したアイテムを一つ一つ精査しており、頷いている。


「お、おう……」

 俺が少しだけ戸惑いを見せると、レンはいつもの無表情のまま首を傾げた。


「……何?」

「え、あ、いや、なんか、レンが褒めてくれるなんて珍しいなって」

 言った後から割と失礼な発言であった事に気付くが、既にレンは僅かに眉間に皺をよせていた。

「……失礼な」

「ご、ごめんごめん! なんていうか、俺達お互い無茶ぶりしあって当然みたいな流れができてたからつい」


 きっかけは俺が『フェア・クリスタル』の魔法陣制作を依頼した時。アレを契機にレンからも俺に数日以内の納品依頼をふっかけてくる事も、また俺から数日以内の無茶ぶり注文する事が当たり前になってきて、お互い前回の納品が次回の報酬みたいな状況が続いていた。


「……魔法陣は描いてるだけじゃ意味無い。だから。私の魔法陣使ってくれるの、いつだって感謝してる」

 レンは珍しく判りやすく照れた様子で、少し目を逸らしながらそう言った。  

「そ、そんな改まってお礼を言われると……照れるんだけど」

 と、俺まで照れくさくなってレンから視線を逸らし。目線を逸らした先で――何故かアリスが頬を膨らませていた。


「え、アリス? どうかした?」

「べっつにぃー? 何でも無いけどね?」

 明らかに含みを持って返されるが……。アリスはイーヴィルになったせいで俺に偽りの恋心を抱いている。嫉妬心を刺激してしまったのだろうか。


 アリスに根付いてしまった偽りの恋心、なんとかしなくちゃとずっと思ってるけど具体的な方法が浮かばないまま時間ばかりが過ぎている気がする。


 が、それはそれとして。


 俺とレンの関係はまた別だ。自分で言うのもんじゃないかもしれないけれど、嫉妬される感じじゃない。俺はレンを恋愛対象として見てないし、レンだって同じだろう。

 確認するために。いっそのこと本人に聞いてみる。


「なぁ、レン。ぶしつけな質問なんだけどいいか?」

 レンは逸らしていた目線をこちらに戻し、首を傾げた。

 俺はそれを、了承の動作だと認識して、問う。


「俺の事、異性として何点だと思ってる?」


「なっ、ハル君突然何聞いて――」

 突然の言葉にアリスの身体がガタッと跳ねるが、それとほぼ同時に。


「0点」

 喋る前に一拍おく癖のあるあのレンがノータイムで答えるものだから、


「レンちゃんそれは流石に辛辣じゃないかなっ!?」  

「あ、思ってたより高かった」

「0点で高い!? ハル君マイナス想定だったの!?」

 アリスは忙しそうに俺とレンの顔を見比べていた。


「この2人はそう言う方々ですよ、アリシアさん」

 シジアンが落ち着けと言わんばかりにアリスの前にもお茶とお茶菓子を出しつつ言う。


「……ビジネスパートナーとしては信頼してるけど、異性としてはちょっと」

 レンが申し訳なさそうに、けれどマジで無理そうな虚無の目をして言うも。

「まぁ、仕事仲間としてだけでも信頼されてるだけ嬉しいよ」

 思って居たより点数が高かった俺としては素直に思った言葉を返した。

 そして、レンの視線がアリスへ向いて。


「……だから、特に心配しなくていい」

 と、少しだけ口の端を伸ばして言った。アレはレンなりの笑顔だ。

「な、し、心配ってなんのことかな!?」

 アリスは顔を赤く染めて、逃げるようにお茶と茶菓子を口に突っ込んでいく。


「……泥棒猫にはならない」

「ど、泥棒も何もハル君は誰のモノでも無いからね?」

 飲み干したお茶のカップを、そっとややコースターからズレた位置に置くアリス。あからさまに動揺してるなぁ。 


 するとそこでレンは不思議そうに、

「……ん? 誰のモノでも無い? 同志では無かった?」

 と零し。

 次の瞬間、特大の爆弾を落としてきた。 


「……ファルマはドライズのモノ。蜜月の関係」


「ドライズのモノでもねぇよッ!!?」


 俺の全身全霊の否定も、レンには届かない。

「……照れ隠し」

「違ぇよ!?」


 更に、今度はアリスが今にも泣き出しそうな様子で、

「ハル君、やっぱりドライズ君がイイの……?」

 とうるうるした瞳を向けて、

「だから違いますってば!?」

 と、俺は必死に弁明した。


「みなさんおかわりどうぞ」

 シジアンは何も変わらぬ様子で、みんなのお茶を注ぎ足していく。

「同性愛を否定はしねぇけどッ! 俺はアリ――じ、女子が好きだよ!!」

 切り込んだのは自分だったとはいえ話が思わぬ方向へ進んでいっている事に戸惑ってうっかり口を滑らせそうになった所をお茶を啜って誤魔化した。


 が。アリスの耳がピクンと跳ねて、悲しげな表情を一転させる。

「い、今ハル君アリスって言おうと――」

「し、してないっ!!」

「……む。浮気は良くない」

「そもそもまだ誰とも付き合った事ねぇよッ!!」


 ただでさえ俺の失態のせいで拗れていたアリスとの関係だが、レンのせいで更に無駄に拗れてしまい事態の収拾までに小一時間ほどかかった――。


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