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【第二部完結】俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~  作者: 岩重八八十(いわじゅう はやと)
第1部 俺は主人公になれない

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13話 俺は一体何と戦っているんだ……?

「うきゅぅ……」

 目的地には到着したものの、目をグルグル巻きにして倒れ伏すエクレアを始め、大体みんな尻餅や片膝を付いた状態だ。


「体勢を立て直し次第、各チームでイーヴィルに攻撃! ドライズ、ユウ、続いて!」

「了解、リーゼ」

「ま、待ってぇっ!」

 まずリーゼ達のチームが前進する。続けて、紅い旋風がリーゼ達三人を追い越して広場左方へと駆け抜けた。


「ファルマ君、ナギがもう突出してしまいましたっ!! すぐに追いかけましょう!!」

「くっそ慌ただしいなぁ!」

 慌てて紅い軌跡と化したナギさんを追いかける俺とマナト。


 そして、着地地点に取り残される三人。

 完全にノックアウト状態のエクレアと、

 地面に膝をついてクレーターを確認し、『衝撃波の対策はきちんとした筈だけど計算が間違っていた? 細部の調整を改めて行うのと着地の方法ももう少し練った方がよさそう。とはいえ8割方は成功していたし流石私の魔法陣ね。とりあえずまずは空気抵抗の計算から……』と完全に任務を忘れてしまっているレン。


 そんな二人の様子に嘆く最後の一人。


「待ってくれ!? まともに戦えるの私だけなのか、このチーム!!?」

 頭を抱える可哀想なクラスメイトを尻目に、俺は思った。

 ――ああ、あの組み合わせにならなくて良かった……。


 苦手とかどうこう以前の問題で、そもそも戦闘になっていない。後でリーゼの雷が落ちることが容易に想像出来た。そして、ナギさんを追いかけ走りながらマナトからの要請が。

「ファルマ君! デッキブラシをマテリアライズしてください!!」

「なんでやねんっ!?」


 戦闘中に寄せられる内容とはとてもおもえず、俺は咄嗟に変な返事をしてしまう。

「見れば判ります!!」

 マナトが指差す先。そこには……


「やはり、クラス1だと物足りないですね……」

 切り落としたイーヴィルの首を片手に、手足からだらだら血を滴らせてため息を吐くナギさんの姿……。その周囲には、無数の血痕が散乱している。

「まだ敵の姿すら確認してないのにもう終わってるぅっ!?」


 ナギさんはすっかり戦闘態勢に入っており、制服は全て脱ぎ捨て、最低限胸と股周りのみに小さな金属鎧が申し訳程度に備えられているような機動力に全てを賭けたほぼ全裸と言っても過言では無いほど露出の高い格好をしている。そして両手両足の先端は紅くひび割れて血液がだらだらこぼれ落ちており、その筋が幾つも肌の上を伝い地面に流れ落ちていた。


 そんなナギさんの足元をビシッと指差すマナト。


「血痕は処理が遅れるほど落ちにくくなります! 急いで掃除しましょう!! 洗剤は常備してあります!!」

「戦闘と全く関係無くね!?」

「ナギのフォローとはこういう物です!! 急がないとナギがまた——」

 マナトが説明しようとしている間に。


 新たなイーヴィル、小人型で小さな翼が映えた小悪魔のようなイーヴィルがナギに飛びかかり、ナギはそれをヒラリと躱し、得物である刀を振り下ろす。

 すると、強く握り閉められたナギの手の平から血飛沫が跳ね、刃の軌跡にそって散乱する。


「ああっ言ってる側から次のイーヴィルがっ!! 急ぎましょうファルマ君!!」

 ナギさんが使う固有のエンハンス魔法『サクリファイスの刻印』は身体能力を異常な程強化する結果肉体を損傷させてしまう魔法。故に戦闘中のナギの一挙一動は血痕を周囲にまき散らすのだ。


 俺だってナギさんの戦い振りは知っていたが、言われてみれば今まで戦闘後そこまで血痕が散らかっていた思い出はない。つまり今まではマナトが必死に後処理をしていたという事か。


 男二人でデッキブラシをごしごしさせながら、俺は思う。


「俺は一体何と戦っているんだ……?」


 敵の数は十以上居たがナギさんが一体ずつ首を跳ね飛ばして回っているので気がつけば半分は居なくなっている。尚、倒したイーヴィルは霧の様に消えて無くなるので事イーヴィルに関してだけならばスプラッタな事にはならない。


 謎の体液(恐らく凝縮した残留魔力だと思われる)は多少飛び散るが寧ろナギさんが血まみれの姿で暴れ回るその様子はホラー作品の殺人鬼と言われても頷けるほどの迫力で余程恐ろしい。


 魔法と言うにはいささか脳筋過ぎるかもしれないが。これがナギさんの〝最強〟たる所以――圧倒的強さ、飛び散る鮮血も紅く煌めく星の輝きに見える。

 その強さが、妬ましい……。


「……はぁ」

 俺はデッキブラシでナギさんが残した血痕をゴシゴシ落としながら視線を他所のチームへ向けた。


      ◆  ◆  ◆


ドライズ視点


「環境がいつもと違うだけにみんなてんやわんやね」 

 リーゼは呆れたように笑いながら、ナギさんから距離をとった場所に僕とユウさんを引き連れていた。そして、イーヴィルのウチ一体だけに牽制の魔法を放って注意を引く。


「討伐自体はナギが勝手にやってくれるから、こっちはこっちで戦闘の練習よ」

「そうだね。ユウさん、準備はいい?」

「う、うん! 頑張る!」

「緊張を解す為に敢えて言うけれど、相手はクラス1だから基本的に大した事はしてこないわ」

 クラス1のイーヴィルがするのは子供のイタズラ程度の行為だ。迷惑だがそこまで明確な被害はない。


「だからもし上手く攻撃が当てれなくても怪我をすることは無い筈よ。だからこそ私達学生に討伐が任されているんだけれど」

「そっか」

「でも、もし取り逃したり接近を許したりしたら……」

 ぐっと念を押して脅すように詰め寄るリーゼに、ユウはゴクッと生唾を飲み込む。

「したら……?」

 恐る恐る解答を待っていると、リーゼはニヤッと少々悪戯な笑みを浮かべて答えた。


「最悪セクハラされるわ」

「セクハラ!? どうしてっ!? 私何されちゃうの!?」

「判りやすいヤツだとスカートめくりとか」

「変態じゃんっ!!」

 バッと咄嗟にスカートを庇うユウさん。


 僕は嘗てクラス1のイーヴィルに絡まれた時の事を思い返していた。


「イーヴィルって何故か半分くらいは変態だよ……」

「な、何があったのドライズ君?」

「聞かないで……」

「子供のイタズラって言ったでしょ? クラス1っていうのはそういう物よ。ちょっとおいたが過ぎる子供にお仕置きするつもりで戦うのが一番気楽だわ。弟妹達をしつけていた頃を思い出して私は寧ろ懐かしい気持ちになるわねぇ」

 リーゼは懐かしむように空を仰ぐ。


「とはいえイタズラも度が過ぎると危ないからね。無視も出来ないんだ」

「なんだろう……緊張してた私、なんだかバカみたい……」

「緊張しすぎず、緩みすぎず、適切な心持ちで戦える事も重要よ。クラス1はこんなモノだけど、クラス2以降は普通に危ないから勘違いしないようにしなさい」

「判った」  

 ユウさんは改めて深呼吸をした。そして、目の前の小人型イーヴィルをきゅっと睨む。

 そして、ピシッと指を差して魔法を唱えた。 


「行きます! 『第一岩石魔法(ストーン)』!」

 ユウさんの目前の虚空に、手の平サイズの石ころが複数宙に浮きあがる。

 そしてイーヴィルへ向けて飛んでいった。しかし今回の敵は的が小さく素早い。

 石つぶてをひらりと回避して、ユウさんへと迫り来る!

「やぁあ!? 外しちゃったぁあああ!!」


 先ほど聞かされたリーゼの言葉を意識してしまっているみたい。

「はいそこ、早速パニックにならない」

 リーゼがやれやれとユウさんの首根っこを掴んで一歩後ろへ下がった。

 大分身長差があるのでリーゼはつま先立ちで手を高く伸ばして漸くユウの首周りの服をつまめている。


 リーゼはそのまま僕に視線を向けて無言の指示。


「『第一氷結魔法(アイス)』」

 僕は魔法を発動し、リーゼに引きずられ一歩退いたユウさんの前に氷の障壁を産み出した。

 イーヴィルは勢いのまま氷の障壁に衝突し、フラフラと目を回す。


「大丈夫、僕達がちゃんとフォローするから。魔法の命中精度を上げられるようにちょっとずつ練習していこう。もっと近づいてきたら剣で追い払うから」


 ヒュッと右手を振るう。

 僕の得物は水色の細剣だ。

 刺突・切断双方に利用可能な他軽く扱いやすいので魔法陣を描く事も容易である。

「さ、練習練習。頑張りなさい」

 リーゼが風の魔法でイーヴィルを吹き飛ばすと、ユウさんの背中をポンと叩いた。


「う、うん! がんばる!」

 ユウさんは意気込んでもう一度イーヴィルに狙いを付ける……。


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