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【第二部完結】俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~  作者: 岩重八八十(いわじゅう はやと)
第2部 最弱の八天導師

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外伝95.6話 〝永久の森〟へ向かいましょう!!

シジアン視点

 イクリプス様は土下座したままのファルマ先輩に手を差しのばす。

「立て、ファルマ」

「は、はい」

 先輩はイクリプス様の手を取って立ち上がった。


「勘違いはするな。俺は、お前が強くなろうとしている事には賛成だ」

「え?」

「お前が寝込んでいる間、姉貴がどれだけ不機嫌だった事か、寝ていたお前には判るまい。無茶無謀も結構だが、せめて寝込まない程度には加減してくれ」

「す、すみません」

「故に〝他を当たれ〟だ。丁度適任が居るだろう。お前の身近に一人、な」

「え、適任ですか? 誰だろ……」

 イクリプス様の言葉に首を傾げる先輩。イクリプス様はその様子を見てまたため息を吐いた。


「全く、無自覚なヤツだな。ここは魔導の学園だ。魔法使いは基本的に中、遠距離武器を持つのが望ましい。魔法を剣に宿して戦う、あるいは自身を魔法で強化し武術で戦うタイプの魔法使いは珍しい」

「えーそうですか? 俺の学年、俺含めて剣とか槍とか斧とか振り回す奴らばっかりですけど」

「それはお前の学年がおかしいだけだ。4年生は〝世界の中心〟ドライズが属する学年。他の学年と比べものにならない程特殊な魔道士が集められているからな」

 イクリプス様はそう言いつつ、更に付け足す。


「自分で言ってて、まだ気付かないか? 最近お前と交流があって、この学園に置いて俺の次と言って良いほど武術に長けた存在――クラスメイトに」

 そこまで言われて、漸く先輩は気がついたようだ。


「ひょっとしてナギさんですか?」

「そうだ。あいつは三日月列島由来の人間で、あの大陸は魔導の発達が遅れていた代わりに機械技術や武術に優れていた。ナギが具体的に三日月のどの地方出身かまでは追えなかったが一国の将軍を務め、更に役職としては〝近衛大将〟、城及び城主を守る最終防衛ラインとして城に留まる存在だったと聞く。故に緊急時以外は主に新兵の教官としても働いていたそうだ。俺などよりよほど教え慣れているだろうな」

 とイクリプスはすらすらとナギさんの情報を喋るが、先輩は目を点にして驚いた。


「ええっ!? イクリプスさんなんでそんな事まで知ってるんですか!? ていうか俺とナギさんの交流が最近始まったってのも知ってるし――」

という先輩の疑問に、イクリプス様はこう答えた。


「俺はこの学園とこの世界を影から支える者。特に汚れ仕事が俺の役回りだ。学園の全ての生徒がもつあらゆる個人情報、交流関係を必要な限り把握しているだけだ」


「そ、そうなんですね……」


「ナギの居場所は俺よりお前の方が詳しいだろう? 行ってみると良い。恩人の頼みを断る人柄でもあるまい」

 イクリプス様にそう促され、先輩はすぐに、


「はいっありがとうございました!!」

 と駆けだして行った。そして、その姿が見えなくなったあと、イクリプス様は独り言にしては大きな声で言う。


「行き先は〝永久の森〟だな。修練、鍛錬には最適の場所だ。今週は冬だから防寒対策が必要だが、ファルマは火属性を持っているから関係無い。が、火属性を持たない生徒が防寒着を忘れて迷い込まなければいいのだがな」

 と、明らかにボク達の方に視線を向けて言い残し、その場を去って行った。


「皆さん、防寒具の装備はありますか!?」

 ボクが尋ねると、二人とも魔石を取り出して、


「あるよ」「確認良し、だね!」

 とにこやかに答え、

「ボクも確認しました。〝永久の森〟へ向かいましょう!!」

 三人で、〝永久の森〟へと向かった。


      ◇  ◇  ◇


 外界と異なり、独自の季節感を持つ〝永久の森〟。今週は雪が積もった真冬の様相をしめしている。ボク達は少し離れた場所から、枯れた木の陰などに身を隠しつつ後を追った。


 そして、森の一角、開けた場所に到着する。


 その中央で、訓練用の木刀を振るい、技を磨く人物の姿。雪景色であろうとも、相変わらず胸と局部以外装甲の無い、素早さに特化した装備で鍛錬しているナギさんだ。基本的に八天導師由来の人間が集まるこの学園で、思い当たる八天導師の関係者が浮かばない人々、マナトさんを中心にしたグループの一人だ。


 三日月列島という、別の大陸からやってきた事だけはボクも知っていた。その剣術はイクリプス様も一目をおく程のモノであり、戦闘能力も八天導師に負けずとも劣らない。


「ナギさん!」

 先輩の声が、開けた雪原によく通る。


「ファルマ君?」

 ナギさんは素振りを辞めて先輩の方を向き。

 先輩は走りながら飛び上がり、その勢いを使って土下座した。


「頼みがあるッ!! 聞いてくれ!!」

 その姿に、ナギさんはぽかんとした表情を作り。


「また私以外の人に土下座してる……この複雑な感情は一体なにかな? 土下座なんてそんな執着するような行為じゃない筈なのにね?」

 とアリシアさんは未知の感情に戸惑っていた。


「ファルマ君のお願いならばどんな要望でも伺いますけれど、その前に一つ逆にこちらからお願いしても良いですか?」

「え? 何?」

「私の事はどうか〝ナギ〟とお呼び下さい。ファルマ君はレンさんやリーゼさんなど気を許したお方は呼び捨てになさりますよね? ファルマ君は私へ新しい風を運び、道の続きを見せてくれだ恩人です。気軽に接して欲しいと思いまして」

「えっ、でも、いや、それがナギさんの――じゃなかった、ナギのお願いなら判った」

 先輩は戸惑いつつ頷く。


「それでは、私は恩人に恩を返す為に貴方のお願いを聞こうと思います。どうかお立ち下さい。土下座などされては、私も、気後れしてしまいます」

「ご、ごめんなさい……」

 ナギさんに優しく諭された先輩は気まずそうに立ち上がった。


「それで、ご用件は?」

「実は――」

 先輩は、武術の鍛錬がしたいこと、イクリプスさんにナギさんを薦められた事を伝える。

 話を聞いて、ナギさんは顎に手を当てて、何かを思案した。更に、枯れた木の陰に隠れているボク達の方へチラリと視線を向ける。


「……これ、僕達またバレてない?」

「この学園怖い人多いね……」

 ドライズ先輩とアリシアさんは顔を合わせて苦笑いを浮かべていた。

 そして数秒の間を置いた後。


「了解しました。それが貴方の頼みとあらば、喜んで指南役になって見せましょう」

 と、ナギさんは笑顔で答えた。ショートカットの栗色の髪が僅かに揺れる。ボクにその笑顔に、含みを感じた。


「本当か! ありがとう!!」

 先輩の方は素直に喜んでいる。


「その様子だと今すぐにでも教えを請いたいように思えます。早速、始めますか?」

 と提案するナギさん。そして先輩も。


「マジでありがてぇ話だ! まずは何すれば良い!?」

 と興奮気味に答え。

 ナギさんは先輩に木刀の切っ先を差し向けて、言った。


「まずはファルマ君の実力が知りたいです。模擬戦としましょう。私はこの木刀で対応します。勿論『サクリファイスの刻印』も『神威』も使いません。ファルマ君はいつもの得物で攻撃して来て下さい」


 その言葉に、先輩はぎょっとした。


「は!? ナギは木刀なのに俺は真剣――っていうか槍だけど、それで戦うって!?」

「はい」

「危ないだろ!? 練習用の槍を――」

 ナギさんは先輩の言葉を遮り、言う。


「問題ありません。素人の槍など一太刀も喰らうつもりはありませんので」

 明らかに、挑発していた。


「ッ」


 先輩も、流石に癪に障ったらしく少し表情を歪める。

「こっちからお願いしておいて悪いけど――」

 そして先輩は『不死槍ハルベルト』をマテリアライズし、


「流石に舐めすぎだろッ!!」

 ナギさんめがけて振るう。


 しかし、


 ナギさんはこれを軽く数歩動くだけで回避。カウンターで即座に木刀を振るった。


「チッ!!」

 先輩は咄嗟に槍を傾け、ナギさんの木刀を受け止める。しかし先輩がナギさんの木刀の衝撃に震えている頃には二の太刀が繰り出され――


「くそッ!」

 先輩は咄嗟にスライディングの動きを取ってその攻撃を回避する。

 そして起き抜けに槍をナギさんへ突き立てようとした、その時には。


「ッ!」

ナギさんの木刀の切っ先が先輩の目前数センチで止まっていた。いつでも、何処でも斬れる間合いだ。

「まずはこれで一本、です」

 


 先輩は悔しそうに歯がみする。それもそうだろう。いくらナギさんが武術に長けているとは言え先輩とて我流ながら数々の修羅場をくぐり抜けてきた。この先輩にその記憶は無いとしても〝技術〟は身体が覚えているモノだ。


「嘘、だろ……? そりゃあ『刻印』や『神威』を使うナギに勝てるだなんて思ってなかったけど……何もエンハンスされてない状態で、負けるのか? 俺、弱すぎだろ」

 先輩は目は悲しそうにナギさんから逸らされた。


 しかし、


「これで終わりですか? 私は何度でもお相手しますよ。可能な限り打ち込んで来て下さい。それで貴方の今の能力、体力、全てを測ってさしあげます」


 と言ってまた少し距離を取って、木刀を構える。

「――ッならもう一回だっ!!」

 先輩はすぐに立ち上がって、改めてナギさんへ槍を振るった。

この学園、〝永久の森〟しか無いんじゃないかっていうくらいみんなしょっちゅう〝永久の森〟に行ってるな(

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