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【第二部完結】俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~  作者: 岩重八八十(いわじゅう はやと)
第2部 最弱の八天導師

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外伝95.2話 様子がおかしい、という事ですか

暫くシジアン視点の外伝です


シジアン視点

 ボクはそわそわとチラチラ時計へ目を向ける。

 先輩が目を覚ました、その情報は朝のウチにボクの耳に届いていた。けれど、ボクは八天導師であり更に一年生とはいえB組の委員長を務める。休み時間もそれなりに仕事があって、先輩の元へ行くことができなかった。


 しかし、昼休みは別だ。この為に今日の仕事は全て終わらせた。早く、早く4限目が終わって欲しい。時計の針が少しずつ進んでいくのを待ち続ける。先生はボクのその様子に気付いている様だが、まぁ八天導師だし普段の成績が良いしで不問にしてくれているみたいだった。


 そして鳴り響く昼休み開始のチャイム。

 ボクは椅子を蹴飛ばして教室を飛び出した。


 息を切らして階段を駆け上がり、先輩の居る4年生の階へ。そして、4のAの教室目の前まで来て。立ち止まった。


 何故なら。

 教室の入り口から、こっそり中の様子を伺うようにドライズ先輩とアリシアさんがドアの端っこに張り付いて居たからだ。


「お二方とも、どうなされましたか?」

 ボクが声をかけると、


「シジアンちゃん! アレを見て」

 とドライズ先輩に促される。指さされた先に居るのは、ボクの大切な人。


 大先輩、ファルマ様。ファルマ先輩が――昼休みが始まったばかりだというのに教科書を広げて勉強をしていた。同時に、カロリーバーを囓りながら食事もしている。


「様子がおかしい、という事ですか」

 ボクはドライズ先輩とアリシアさんが遠くからファルマを見つめていた理由を悟った。


「部長さんもそう思うよね? あのハル君が昼休みですら勉強してるなんて!」

「こんなのあり得ない! あいつ宿題も半分しかやらないくせに!」

 ドライズ先輩もアリシアさんも、心配そうに述べる。


「二週間近く眠っていたのです。いくら体調に問題が無いとは言え数日は様子見の入院が続くはず。それを押しのけて、ああして勉強しているという事になります」

 ボクは改めて、先輩の状況を整理する。


「ボク達が知る先輩ならその数日間を存分に楽しみ、学園へは足を引きずるように登校するはず。それが、アレですか」

 二人が不安に思うのも仕方ない。


 ボクも不安だった。今の先輩からは元来の無茶しがちな気質が見て取れる。病み上がりなのだ。あそこまで集中して勉強するのは身体に悪い。

「話かけても生返事なんだ。〝やらないといけない事が沢山ある〟〝気にしないでくれ〟って言うばかりで、何も教えてくれない」

 ドライズ先輩は悲しげに俯いた。


「あっハル君が立ったよ!」

 アリシアさんの言葉に、ボクとドライズ先輩はもう一度ファルマ先輩へと視線を向ける。


 すると、教室内に残って居る他の生徒達も少しだけざわめいた。どうやら先輩の異常に不安を覚えているのは僕達だけじゃ無いらしい。先輩はすぐ隣のレン先輩の席へ赴き、何か語りかける。声は、届いてこない。


「レンちゃんに、何のお話なんだろ……うぅ、気になるけど、流石に聞き耳を立てるのは良くないよね」


 アリシアさんが苦悶の表情を浮かべたのでボクは――


『レン。休んでいた間に作ったのに試せなかった魔法陣が沢山あるだろ? 全部渡してくれ。一日で、とはいかないけどすぐにアイテム化するからさ』

 と、ファルマ先輩の言葉を口ずさむ。


「ちょ、シジアンちゃん!?」「この距離で聞こえるの!?」

 ドライズ先輩もアリシアさんも驚いた表情をするが。


「いえ、先輩ならこう言うだろうな、とアテレコしてるだけです。端的に言えば、ボクの妄想に過ぎませんが」

 と伝えると二人とも、


「そ、そっか……」「部長さん……」

 と、哀れむような、少し距離を置くような、遠い目をしていた。とりあえず、続ける。


『……それはそう。でも、病み上がり。大丈夫?』

「レンさんの台詞まで判るのかい!?」

「あくまで、推察によるものです。細部は異なると思いますが、あの二人の会話なら身振りだけでも見れれば大体判断できます」

「部長さんその、本当に、ハル君の事よく知ってるっていうか……知りすぎてるね……」


 二人のやりとりは続く。


『ああ、見ての通りなんの問題も無い。それどころか寧ろ調子が良いくらいだぜ』

『……嘘。ファルマが勉強とか頭おかしい。ちょっと気持ち悪い』

『なんで勉強してるだけでそんなに罵倒されなきゃならんのだ!? ひどすぎるぞ!!』

『……ごめん。失言。一応、渡す。でも、無茶は良くない』

『判ってるって。とりあえず今日の部活でできる分だけは作るから。待ってて』

 腕をぐるぐる回したり、がーんと仰け反ったりする先輩の動きを元に会話内容をそう推察して、ドライズ先輩とアリシアさんに伝える。


そして先輩は自分の席に戻ると、ぐいっとビタミンジュースを飲み干し、勉強の続きを始めた。


「恐らく、9割方あっているかと」

「あ、ありがとうシジアンちゃん……」

 ドライズ先輩はそうお礼は言うモノの、ちょっと顔が引きつっていた。


「先輩は何らかの理由によって、精神的に追い込まれています。その理由は、流石にボクでも今すぐには想像が付きません。聞いても教えてくれないのならば、このまま暫く様子を見ましょうか」

 ドライズ先輩とアリシアさんの間に挟まって、三人で教室のドアに張り付いて頭だけをひょっこり出して縦に並べる。

 その状態で、昼休みは終わった。


 そして、午後の授業を上の空で受ける。そもそもボクに初等部レベルの授業など必要無いのだが、クラスの委員長でありリーダーであるボクが授業をサボってしまうとクラスメイトとの信頼関係に問題が生じる。だから体面上、椅子には座ってなければいけない。


 最も、普段は授業を受ける振りをして『異伝』を読み進めているだけで良いのだが。

 今日ほど授業の時間が長く感じた日は無い。


 漸く、授業が終わり、部活動の時間となった。

 ボクは駆け足で部室に向かう。すると、部屋の前でばったりアリシアさんと出会った。同じ部員なのだから当たり前だろうが、ボクが走って来てその上でアリシアさんと鉢合わせると言う事はつまり、彼女も走って来たという事だ。


 二人で顔を見合わせ、考えることは同じだなと無言で頷く。

 そして。妙な緊張感を持って、ボク達は部室の扉を開けた。

 部屋の中では。

 

 先輩が設計図を山積みにして既に作業を始めていた。


「なんでッ!? 私たち全力疾走してきたんだけどね、それでなんでハル君が先に部室にいるのかな!?」

 アリシアさんが仰天して問うと、先輩は作業を続けながら。


「ああ、先の戦いで〝拒絶の闇〟が一部採取できたから、ルクシエラさんに渡してみたんだよ。そしたらレンの転移魔法陣を『物理的距離という概念を遮断する』だったかなんだかの理屈で、空を飛ぶんじゃ無くて直接移動させる転移魔法陣が試作できたんだってさ。だから今、俺が臨床試験中って事」

 先輩は左腕をあげた。普段身につけていなかった白黒模様の腕輪が光る。


「これが通行手形みたいな感じで、これを持ってると魔法陣が使える。今は安全確認中だから安全性が確保されたらみんなにも作ってあげるよ」

 と、作業の片手間に語ってくれた。


「まってまって!? ルクシエラさんに〝拒絶の闇〟のサンプルを渡して魔法陣を改良したって何時の話!? 私たち今朝から――あ、えっと、お昼休みハル君ずっと自習してたよね?」

 アリシアさんが朝から見張っていた、という危うげな言葉を咄嗟に飲み込む。


「昨日の夜中だよ。ルクシエラさんは睡眠の必要性が無いから夜はずっと研究してるからさ。起きてすぐに会いに行ったんだ。そしたら一晩で試作品を作るんだからホント天才だよな、あの人」

 そこまで言って、先輩は背筋を伸ばした。


「ふーッ! とりあえず、ドライズの〝氷燐剣なんとかかんとか〟の修理完了っと。あいつ一体何したんだか。これにも〝拒絶の闇〟が染みついてら。氷燐闇剣にでも改名するか? あ、でもこれでギャラクシー要素ができたな――と、とにかく次のアイテムっと」

 先輩はペラペラ独り言を零しながら設計図を一枚取り出し、更にアイテムの制作必要な道具を並べる。


 その動作の中で、ふと気がついたようにこちらをみた。

「アリス、シジアン。いつまで入り口で突っ立ってるんだ?」

 と、少し困った様子で。


「具合でも悪いのか?」

 なんて言って。

『それはこっちの台詞ですがッ!!』と叫びたくなったが、ぐっと堪えた。横を見ればアリシアさんも同じような感情を示すようにぎゅっとしかめっ面になっていた。


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