12話 3秒でお届け
途中からシジアン視点
そして、規定の時間。クラスメイト9人がきっちり揃って校庭に出ていた。
「人数良し、ね。さ、出発するわ! レン、魔法陣の調子は?」
「……完璧」
しゃがみ込んで居たレンがにやりと僅かに笑みを見せて立ち上がる。その足元には巨大な幾何学模様の一端があった。
今回はレンが、自主製作の魔法陣を使って現場まで送り届けると提案したらしい。
ここ最近部活動で関わる様になってから判った事だが、どうやらレンは魔法陣というモノに並々ならぬ情熱を注いでいて、その結果があの教科書の落書きだったと言う訳だ。
最早〝ただの魔法陣オタク〟なのでは? と思い始めて来た次第である。
とはいえその技術力は学生レベルには思えない。レンの持つ光り輝く才能だ。
眩しくて、直視できない時がある。
俺なんか、辛うじて見よう見まねにマジックアイテムへ落とし込むのが限界だ。あんな魔法陣、生み出せない。
……少し、憂鬱になっていると他のメンバーは既に魔法陣の中央で待機していた。そして、レンがとことこチームに合流して。
「……3秒でお届け」
ふんす、と胸を張って自信満々に言った。
「はっやっ!? 第五火除地って十㎞くらい離れてるよね!? あたし達今から時速何キロで射出されんの!?」
と、やいのやいのと狼狽えているのはエクレアだ。
「……限界に挑戦した」
「あたし絶叫系ダメなのにぃぃぃ!!」
正直意外だ。完全にイメージで決めつけていたが、そういうの好きそうだったのに。
余談だが、魔法陣による高速移動、あるいは瞬間移動というのはまだ研究中の技術なので他の学年やクラスの者達は歩いて行ったり常識的な速度の魔法で飛んでいったりする。
「なんだか懐かしい感じがしてちょっとだけわくわくするかも」
普段おどおどしているユウさんだが、意外と楽しそうな素振りを見せていた。
まぁ彼女は空からすごい勢いで落ちてきた事があるらしいので慣れているのだろう。
「大体マッハ十くらいか? ルクシエラさんに射出された時と比べりゃ全然マシか」
アレはやばかった。体感では光の速さくらいあったんじゃ無いかと思う。
「師匠に振り回されてるとこういうのも慣れちゃうよね」
「みんなおかしいって!? 安全性とか心配しよう!?」
異常な日常に慣れている人達に常識を求めてはいけないと思うのだが。
「……ぬかりない」
きちんと配慮してあるという事か。レンは顔は無表情だがぐっと親指を立てる。
「はいはい、お喋りはそこまで! 3秒で着くなら道中で支度する暇は無いわね。到着次第即座に戦闘開始になるだろうから、みんなここで武装展開しなさい」
「まってリンリン! ホントにこれで行くの!? あたしだけ徒歩で——」
スッと魔法陣から逃げようとするエクレアをレンが背後から取り押さえる。
「……逃がさない」
「何でっ!? 良いじゃん一人くらい居なくたってどうとでもなるよ!!」
「……実験データは多い方が——こほん。訂正、戦力としてエクレアは必須」
「今ツルッと本音聞こえて来たよぉっ!!?」
エクレアがだだをこねている間に、他のメンバーは各々戦闘用の装備をし終えていた。
「丁度良いわ、レン。ついでだからそのままエクレアの装備も強制的にマテリアライズしてあげて」
「……了解。『紋章術・強制起動』」
背後から腕を回して拘束しつつレンは右手を細やかに動かす。指先の軌跡はあっと言う間に手の平サイズの魔法陣を形成し藍色に輝いた。
「ああっ勝手に装備がぁっ!!」
黄色い光と共にエクレアの頭部にゴーグルが装着されクロスボウがコテンと足元に転がる。魔力を物質に変換する『マテリアライズ』だ。
魔導士達は各々の装備を構成する魔力を込めた魔石を持ち歩き、戦闘時に展開する事で装備品の嵩張りを避けている。複数の武器を使い分ける場合にも凄く便利だ。また、魔力構成さえキチンできれば日常においても壊れた物の修理等に使えて、爆発やら衝突やら消滅やらが日常茶飯事なこの街で暮らすにおいては非常に重要な魔法である。
リーゼは転がっているクロスボウを拾い上げ、エクレアに押しつけて。
キリッと表情を引き締めて宣言した。
「4のA、出撃よっ!!」
そして俺達9人の少年少女の身体が一瞬だけふわりと浮かび上がると、次の瞬間には緑色球状の光に包まれて、凄まじい勢いで空へと放たれて行ったのであった。
「にゃぁあああああああああああああ!!!!」
エクレアの悲鳴と共に。
◆ ◆ ◆
シジアン視点
イーヴィルと実際に戦闘するのは4年生以上の生徒だが、1~3年生も間接的に戦闘に関わってくる。具体的には、発見されたイーヴィルを火除地という火災対策に用意された広場に追い込んだり(戦闘するのに丁度良い広さなので度々イーヴィル退治に利用されている。最近では〝魔除地〟なんて呼ぶ人も居るとか)、一般市民を戦闘区域に近づけないように見回ったり戦闘終了後に壊れた町並みを修繕する等の片付けをしたり、だ。
そして、今回は偶然ボクの所属する1のBが担当だった。
「そろそろ先輩達が来る頃ですか。しかし瞬間転移魔法陣、とは。相変わらずレン先輩は革新的でいらっしゃる」
ボクは1のBのリーダーであるため、あらかじめリーゼさんからレン先輩の新作魔法を試運転すると連絡を受け取っていた。
「興味深い事です。移動方法にもよりますが、目立たずに発動出来るような改造は可能なのでしょうか。上手くマジックアイテムに応用できれば、今後先輩のサポートに利用できるかもしれないのですが」
そう呟いていると、
「リ~ダ~。リーゼちゃん達、もう着くから念のために離れてってよ」
眠たそうに欠伸をしながら目を擦るピンク色の髪の少女、クラスメイトのハルカさん。
そこそこ歳の離れた先輩であるリーゼさんをちゃん付けで呼ぶのは、同じ孤児院に所属していたかららしい。
「……っと、すみません。それではみなさん、退避を」
「判ったよ~」
そしてボク達が離れて数秒後。
「……ぁぁぁああああああ!!!」
少女の甲高い悲鳴が近づいてきたかと思うと、次の瞬間凄まじい衝突音と共に火除地の中心に9人の少年少女達が着地していた。
着地した周囲に巨大な円形のクレーターを作って。
「あー……あれは、隠密行動には使えなさそうですかね」
ボクは呆れてため息を吐いた。
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