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【第二部完結】俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~  作者: 岩重八八十(いわじゅう はやと)
第2部 最弱の八天導師

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??話7 性癖歪み過ぎてて流石に私でも引く……

 それは、ある日の八天導師の任務だった。僕やレンさんは本来後方支援。拠点に籠もってアイテムや魔法陣を用意して、現地で問題を解決するドライズ達の手伝うのが基本的な業務である。

 けど、八天導師という名とは裏腹に、実際にはまだ7人しか居ない組織。しかもティアロ様の個人事業で他に従業員はいない。


 まぁぶっちゃけ、超人手不足なのだ。

 だからたまに、こうやって。本来後方支援の僕も――


「『二連朱槍』ッ!」

 目標の巨大なイノシシみたいな魔物めがけて槍を投げる。こんな感じで、前線に駆り出される事もままあった。投げた槍は二つの炎の弾丸へと変化して魔物の皮膚を焦がした。ひるんだ隙を突いて、ドライズが前に出る。


「『雪月華』ッ!!」

 氷と光の魔力が組み合わさった斬撃が魔物を切り裂く。

 巨大なイノシシのような魔物の顔面にぱっくりと大きな溝を開いて。しかし凍てつき血は出しない。代わりに魔物の目から精気が消えていく。


「さっすがドライズッ!」

 僕は勝利を確信して、ドライズに歩み寄った。八天導師に入る前から、こうやってドライズと組んで魔物と戦う事は多かった。その時はまだ学生で子供だったからこんなに大きな魔物を相手にしたのは初めてだけど、やっぱり長年のコンビネーションは変わらない。


 ドライズも同じ事を感じていたようで、

「ああ。良いフォローだった」

 と言って拳を差し出す。


 僕はそれに応じるように拳をコツンと当てようとした、その時だ。

 

 今にも息絶えようとしていた魔物目に、僅かに光が灯る!


「ッ!! まだだドライズッ」


 その事にいち早く気付いた僕はドライズを突き飛ばした。

 そして――

 イノシシ型の魔物はその姿の通り、僕に突進してきた。巨大な物量の暴力。


 鈍痛と共に身体が宙を舞う。


「ファルマァァッ!!」

 ドライズの声が、遠くに聞こえる。だけど、地面に叩き付けられたところで、僕の意識は途絶えてしまった。


     ◇  ◇  ◇


 次に目が覚めた時には、自室のベッドで寝ていた。横にはドライズが居て、僕が起きるなりガタッと立ち上がる。

「目を覚ましたかッ!? 痛みは!? 調子はどうだ!? 異常は無いか!?」

 と捲し立ててくる。


「調子は、まぁまぁ。体中痛い……」

「お前、受け身をとって無かっただろ!? 学園で習った筈だぞ!」

 と、ドライズに責められるが、


「あんな咄嗟に、しかも空中に放り出されて受け身なんて取れないよッ!! 痛っつ!?」

 と反論すると同時に、全身に軋むような痛みが走った。


「っ、すまん。とりみだした。あれは仕留め損なった俺のミスだ。お前を責めるのは門違いだったな。……ただ、心配だったんだ。許してくれ」

「許すに決まってるだろ。あれを喰らったのは僕の意志なんだから。あーでも危なかった。やっぱ僕、前に出るの向いてないな」

 情けなさを誤魔化すように僕は頭を掻くが、ドライズは不安げに続けた。


「……だが、マジックアイテムを使ったファルマの戦闘能力はティアロ様も高く評価している。恐らく、今後お前は前衛・後衛状況に応じて使い分けられる駒として仕事が割り振られるぞ」

「うげぇ、マジか……」

 レンさんに白状したとおり、僕が作るマジックアイテムは大体他人の才能の模倣だ。


 勿論、オリジナルだって幾つかはあるけどそういうのは大した事無い。レンさんの紋章を真似たアイテムやルクシエラさんの〝破滅の光〟をなんとかアイテム化したモノもあり、それらを使用すれば僕みたいな凡人でも平均以上に戦える。


「俺と組む時はできる限りフォローする。安全が確認出来るまでは前に出ようとするな。お前を失っては、師匠に顔向けが出来ないし、俺はもう、二度と立ち直れなくなる自信がある……」

 ドライズの悲壮な表情が、胸に刺さる。


「いや、大事に思ってくれるのは嬉しいけど、僕なんかにそこまで執着しなくても――」

「執着するに決まってるだろ!? お前は俺の、初めての友人で、ここまでずっと一緒に戦って来たかけがえのない兄弟弟子だ!」

 ドライズは僕に詰め寄って訴えかける。中性的で美しい凜々しい顔が勿体なくなるくらい、今にも泣きそうで悲痛な表情だった。


「……ああ、そっか。僕、弟子だって認めちゃったっけ」

「死なせはしない……ッ! 絶対にッ!!」

 ドライズは強い、本当に強い決心をを宿した瞳を僕に向ける

「……ありがとう、ドライズ。頼りにしてるよ。今はちょっと休ませて」

「ああ。何かあったら何でもいえよ。お前の好物で、滋養強壮に効く料理を作ってやる」

 そう言ってドライズは僕の部屋を離れていった。


 僕は後方支援タイプだが、それでも、今後前に出る機会が増えていく可能性が高い。

 アイテムに頼り切った戦闘能力は、身体能力、技術の低さが明確な弱点となる。

 攻撃を受けてたった一撃で戦闘不能になるなんて、足手まといも良い所だ。 

 ドライズが決心したように、僕もまた決心した。


「……〝受け〟の模擬演習をしよう」


  ◇  ◇  ◇

   

  と、言う訳で後日。業務が落ち着いてる所を見計らって廊下を歩くレンさんに話かけた。

「レンさん! ちょっとお願いがあるんだけど、話だけでも聞いてくれないかな?」

 レンさんは呼ばれて、ピタッと立ち止まり。

 くるっとその無表情な顔をこちらに向ける。そして。


『……レンで良い』

 と、魔法で合成された音声で答えた。


「え、で、でも」

 同年代の女性を名前呼び捨てで呼ぶことに慣れていないため戸惑うモノの、レンさんは。


『……要件は?』

 とそんなこちらの心情お構いなしに早く用事を伝えろ、と言外の圧を放つ。


「あーえっと、その。ドライズに迷惑かけたくなくてさ。〝受け〟の練習がしたいんだ」

 まだ少し取り乱しつつ、頭の中で情報を整理して、レンさんに伝える。

 すると。


『……』


 レンさんは珍しく判りやすくきょとん、とした表情を作り。

 視線を宙へ向け、何かを思案したかと思うと、小首を傾げて、言う。


『〝受け〟に練習とか無い』

 と、きっぱり答えた。


「えっ、いや、そんな事無いと思うけど!?」

 事実学園では受け身の授業とかあったし、十分練習で習得できる技能の筈だ。


『〝攻め〟のありのままを受け入れてあげればいい』

 ややにやけた表情でレンさんはそういうが、それはおかしい。


「いやありのままを受けたら血まみれのズタボロなんだけど!?」

 レンさんは僕の言葉が、まるで理解できない様子で、


『ちゃんとほぐせば血はでない筈』

 と言うが。


「ほぐす!? 柔軟体操どうこうでどうにかなる話じゃないよね!?」

 意味のわからない疑問符が尽きない。するとレンさんも、


『柔軟体操??』

 と、疑問符を浮かべ。どうやら会話が噛み合って無い事を僕は悟った。


「なんか、話が噛み合って無いみたいだからもう一回整理するよ」

 レンさんはコクりと頷く。


「僕は、ドライズに迷惑かけたくないから〝受け〟の練習がしたいんだ。それで、お願いできるのがレンさんくらいだから、レンさんに色んな攻撃をして欲しいんだよ。物理でも魔法でも何でも良いから!」

 と、僕の要望をきちんと伝えた。


 すると――


『……』


 レンさんは、〝うわぁ……〟と言いたげな嫌悪感マックスの表情で半歩後ずさった。


 僕はそのリアクションに戸惑う。

「えっ、なんでそんな引いてるの!?」


『ドライズと言うモノがありながら私で練習? 見境無いの? しかも、攻撃って真性のマゾヒスト? 性癖歪み過ぎてて流石に私でも引く……良いビジネスパートナーになれそうだったのに、気持ち悪い……』

 とレンさんらしからぬ早口で捲し立てられて罵られてしまった。


「マゾヒスト!? 性癖!? 違う違うッ! やっぱりなんか誤解してるって!」


 僕は少しずつ距離を離そうと後ずさっていくレンさんに必死に詰め寄って、改めて事の成り行きを今度は一から十までちゃんと説明した。

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