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【第二部完結】俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~  作者: 岩重八八十(いわじゅう はやと)
第2部 最弱の八天導師

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??話2 ドライズとルクシエラさんが、来いって言ってくれたから。

 僕は最後に、ティアロ様の座る席へ向かう。円卓になっているから正面には立てない。横まで行って、頭を下げた。


「これから、よろしくお願いします!」

 ティアロ様は僕の師匠であるルクシエラさんの更に師匠。大地の賢者と呼ばれる超凄い魔法使いだ。いくらコネ入社とはいえそんな人が直轄する組織に入れて貰えたなんて今でも信じられない。


「そう肩肘を張らずとも良いぞ。今まで通り、ルーシーを支えてくれればそれで十分じゃ」

「はいっ」

 今まで通りで良い。その言葉を聞いて少し安心した。


「ところでティル爺。今日はもう一人加入して七人になるんじゃありませんでした?」

 ルクシエラさんが頬に指を当てて首を傾げる。この場に居るのは六人。あと一人足りない。というか今日加入するって事は――僕と同期の人が居る!?


 ルクシエラさんの言葉に、ティアロ様は苦笑いを浮かべて答えた。

「もうすぐそこまで来ておるぞ。お主がトビラをぶち壊したせいで廊下が筒抜けじゃからな」

 

 自然と視線が廊下に向かう。

 廊下の中央と、つかつかと歩く少女の姿が見えた。

 二つのリング状に結ばれた藍色の長い髪、海のように鮮やかな青色のローブを纏い、短めでフリフリしたスカートが揺れる。全体的に、可愛らしさを感じる服装なのに、対照的に表情は仮面の様な無表情で少し不気味だった。


 彼女はぶち壊れたドアの事などお構いなしに会議室に入ってきて。

 そのままぺこり、と無言でお辞儀をした。


「水天レン・ウェルテクス。ドライズとファルマと同じ年齢じゃ」

 同期の八天導師がどんな人間がわくわくしていたが、その振る舞いやティアロ様の説明を聞いて少し悲しくなった。


 ――同年代の女子……ッ! もう6年くらいまともに会話してない……。

 魔法学校に編入する前に、初恋がらみで大失敗をやらかしたせいで僕は同年代の女性と会話をするのが怖くなっていた。ルクシエラさんやイルゼルナさんみたいに明らかに年上の人だったり、逆に年齢の低い子供相手なら普通に会話出来るんだけど……。


 折角の同期、仲良くなれそうな人だったら良いなと思ったんだけど一気にハードルが高くなった様に感じられる。


「レンは生まれつき声を出せぬ。魔法によって会話は出来るが簡単なモノでは無いらしくてな。言葉数が少なくなりがちだが、気を遣ってやって欲しい」

『……よろしくお願いします』

 ティアロ様の言葉を肯定する様に、不思議な音が聞こえてきた。確かに僕達の使っている言語なのだが、少しだけ抑揚やアクセントに違和感を覚える、〝作られた声〟。レンさん自身の口元は一切動いていない。


 そして、ここに居る全員が驚いただろう。〝声の出せない魔法使い〟という存在に。

 それは即ち、魔法を発動するための〝詠唱〟が出来ないと言うこと。

 簡単に例えるのならば、魔法を使う時に唱える詠唱は算術をするときの〝計算機〟みたいなモノだ。いちいち自分の頭の中で構成するのが面倒な計算を省略してくれる便利な代物。


 それ無しで魔法を発動するという事は即ち、算術で例えるなら暗算できるレベルの簡単な術式であるか――〝計算機〟無しで高度な計算が出来る程の才能を持っているか、のどちらかである。

 そしてこの組織が〝八天導師〟――ティアロ様が選りすぐりの魔法使いを集めた組織である以上、レンさんは後者に違いない。


「姐さんもティル爺も、おもしれー子ばっか集めてくんじゃん」

 アイルさんは興味深そうに、或いはレンさんを値踏みするようににやけて笑う。


「ウェルテクス――名家の姓ではないか。良くもまぁこんな大雑把な組織に引き抜けたものだな」

 イルゼルナさんも感心していた。どうやら魔法使いの間では有名な家柄みたいだ。僕は一般家庭の出だから、その辺の常識に疎い。


 ……いや、そもそも社会情勢とかに興味無いから魔法使いとか一般とか関係なしに有名人とか全然知らなかったや。ルクシエラさんですらネットで検索するまで〝どっかで聞いた事あるなー〟程度の認識だったし。


「なんじゃイズナ、その言い方じゃとまるでワシが無理矢理レンを連れてきたようではないか。ここに居るのはきちんと本人の意志じゃぞ」

 困った顔を作ったティアロ様の言葉を肯定するように、レンさんは無表情のままコクりと頷いた。


『……研究援助、凄く魅力的』

 硬い表情の中、僅かに口の端が伸びている気がする。


「納得ですわ。ティル爺、お金だけは腐る程持っていますものね」

「だけとはなんじゃ、だけとは。さて、新たな仲間も揃ったところで改めて。〝八天導師〟がどのような組織か確認する。ファルマとレンは正面の席へ。他のメンバーは定位置に着け」

 言われて、僕達は円卓に座った。


 〝八天導師〟はティアロ様が立ち上げた個人事業だ。世界にとって良くない〝悪しき魔導〟を取り締まったり、魔導を悪用する魔法使いを摘発したり、人間社会を著しく脅かす魔物を討伐する事が主な業務になる。


「活動内容はあくまでワシ個人の思想によるモノだ。諸外国の政府と正式に繋がってもいないし、〝悪しき魔導〟というモノの判断もあくまでメンバーの採決によって決定する独善的なものである。我々は決して〝正義の味方〟などではない」

 立場的には自警団が近いだろうか。ティアロ様自身は魔法に関する多くの権利をもっているけれど、あくまで個人経営の団体だ。


「我々の活動に友好的な国もあれば、強く反発する国もある。敵は数多い。そんな組織だ、身の危険は常に付き纏う。その事を改めて認識して欲しい」

 ティアロ様の視線が、新人である僕とレンを真っ直ぐ貫いていた。


「そんなワシのわががまに付き合って貰う対価として払えるものは〝研究援助〟だけじゃ」

 〝八天導師〟として働く事の報酬、それは莫大な給与と研究財産の提供だ。

 ティアロ様は長い時を生きた大地の賢者。資金も、資源も、数多くの権利を持っている。その強大な後ろ盾を以て自分の好きな研究をしてもいい。それが〝八天導師〟に与えられる特権である。


「敢えて、悪い言い方をする。〝八天導師〟に参加すると言う事は、金の為だけにワシに命を預けろと言っている様なものだ。それでも尚、お主達はワシの力になってくれるだろうか?」

 最終確認として、ティアロさまは僕とレンさんへとそれぞれ目を合わせた。


『……問題無し』

 レンさんは表情一つ変えず、そう返答する。


「僕は研究とかお金どうこうより、単にドライズとルクシエラさんの力になりたいだけなので……例え援助とかが無くても、命を賭けるって約束できますよ」

 ちょこっとだけ声を震えさせながら、言った。


 僕みたいなちっぽけな人間に何が出来るのか。僕なんかがこの組織で何の役に立つのか。存在意義が全く見出せないけど。


 ドライズとルクシエラさんが、来いって言ってくれたから。


 こんな僕でも、必要としてくれたから。

 だから僕は戦える。


 命を賭けるって、比喩とか冗談じゃ無い。

 僕は本気で、二人の為なら死んでも良いと思ってる。


 何にも持っていなかった僕に出来た、特別な絆――世界で一番大切なモノが、ここには有るから。


「協力、感謝する。歓迎しよう。炎天ファルマ、水天レンよ」

 最後にティアロ様は。深々と頭を下げた。


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