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【第二部完結】俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~  作者: 岩重八八十(いわじゅう はやと)
第2部 最弱の八天導師

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外伝94.7話 これが『世界の中心たる者』の力か――

ドライズ視点

 僕は剣を振るうと同時に、自分の意志とは関係無く口が勝手にその詠唱を唱え始め。

「『人智の氷は、あらゆる原初を受け入れる――全て凍て付けッ』!!」 

 その魔法を放った。


「『明鏡雪華』ッ!!」

  

 目の前に立ちはだかった暗紫色の魔力へと、巨大な氷の刃を振り下ろす。


 いかなるモノをも阻む筈の暗紫色の魔力が。

 まるで、霧を晴らすかのように綺麗に、鮮やかに。


 氷の刃に切り裂かれた。


 僕達を阻み続けた暗紫色の魔力の壁はあっけなく両断される。

 ダメで元々のつもりで試した氷の魔力だったのに思っていた以上に上手くいって寧ろ拍子抜けしてしまう位だった。


 そして、チラリと闇を切り払った氷の刀身に目を向けてみると、よく見れば透明だった刀身に染み渡る様に暗紫色の魔力が流れ込んで来ている。切り裂いたと言うより、吸い取ったと言うべきか。

 

 そして、切り口から透明な氷がピシピシと音を立てて広がってゆき、暗紫色の魔力を包み込むように凍らせていく!!


 アイルさんと僕達を阻むモノはもう、存在しない。

「何もかも阻む闇の魔力。鎧にも――刃にもなるんだっけ?」

 完全に暗紫色に染まった氷の刀身を見て、僕はニヤリと不適な笑みを浮かべて。

 もう一度、今度は暗紫色の刀身となった剣を振り下ろす。


「『明鏡暗夜』ッ!!」

 氷の刀身がアイルさんをがんじがらめに縛り付ける重々しい金属質の鎖にぶつかると同時に甲高い音を立てて砕け散る。


 すると、中に吸い込まれていた黒紫色の魔力が新たな刀身として顔を出し。あらゆるモノを遮断する闇の魔力が、アイルさんを束縛する鎖を切り裂き、断ち切った。


 アイルさんを縛っていた鎖が解けて落下していく。磔にされた十字架から、アイルさんの身体が放り出され。

「アイルッ!!」

 リーゼが優しく、受け止めた。


「ぅ、あ、リー……ゼ……?」

 寝起きの様なアイルさんの虚な瞳がリーゼの顔を見上げた。

   

「これが『世界の中心たる者』の力か――」

 一部始終を見届けていたイクリプスさんが感嘆の言葉を漏らす。そして。


「二人――いや、三人共離れろ。後は俺の仕事だ」

 改めて、イクリプスさんは太陽と大剣と三日月の曲剣を構える。


「リーゼッよろしくッ!!」

「ええッ!!」

 リーゼはアイルを抱き締めたまま、僕と共にこの空を離れていく。


 空に残ったのは、氷漬けになって固まってしまった暗紫色の魔力と、アイルさんという核をなくした巨大な十字架と西洋鎧が組み合わさったようなイーヴィルの抜けがらと。


 それを見据える、イクリプスさんだけだ。


「ああ。ここまで感情が揺さぶられたのは久しぶりだ。本当に、今日はなんて日なんだろうか。最悪だ。姉貴じゃ無いが、少々、八つ当たりでもしなければやってられない」

 遠のいていくイクリプスさんの声は、らしくも無く怒りに震えていた。


「いや、そもそも元凶はお前なのだから、八つ当たりでは無いな。――正当な抗議だ」

 イクリプスさんの背に浮かぶ日食を模した白円。そして、その陰となる黒円が。

 

 丁度円の半分を埋める程まで広がった。


 今まで、円の四分の一程しか影は差して居なかったのだ。これは、一段階所では無い。イクリプスさんは『数段階』〝破滅の光〟の出力を上げていた。


「ここが空中で良かった。空へ向ければ、他の誰も巻き込まないッ!!」

 明確な憤怒の心を燃やしたイクリプスさんの強い言葉に呼応する様に、強大な〝破滅の光〟を更に増幅していく!


「――消えて無くなれ。何もかも」

 最後に冷たく、そう言い残して。

 イクリプスさんは三日月の曲剣を投げ放った。


「『我が名は凶兆。破滅を告げる厄災の剣』」


 この〝破滅の光〟の出力で、更に唱えられる詠唱。

 それは紛れもなく、破滅の力そのものであり。

 生ける天災――厄災の剣と呼ぶに相応しい一撃。


 投げ放たれた三日月の曲剣が弧を描き十字架の中心を切り裂き駆け抜ける!

 それと反対方向から、イクリプスさんは両手で構えた太陽を大剣を大きく振るうッ!


「『ダイヤモンドリング』ッ!!」


 二つの斬撃が交差すると同時に、暴力的なまでに目映い光が青空を白一色に染め上げた。

 光の暴力は、氷付けになった暗紫色の魔力も、十字架を模したアイルさんのイーヴィルも何もかも飲み込み、崩壊させてゆく。


 光の奔流は天空を貫き、闇の広がる最果てまで届き、その光景はまるで、宇宙空間に白い光の巨塔が突如として現れた様だった、と天体観測者は後に記録した。


 光に照らされた一面の白い空なんて異様な光景、誰が見たことがあろうか。

 それは、眼下の学園で戦う生徒達がみな、嫌でも照らされ気付いてしまう程の光の暴力だった。


 直視なんて出来ない。幸い、戦って居た者達は皆目の前の敵に集中していたのでその時空を仰ぎ見ていた者は居なかったらしいが。もし仮にこの〝白空〟を直視していたら、網膜が焼かれていた可能性が高い。


 後に珍しくイクリプスさんがティアロ校長先生に〝やり過ぎだ〟と叱られてしまったらしい。そういう所は流石は僕の師匠である、ルクシエラの双子の弟だなと少し面白かった。


 空は暫く真っ白に照らされ続けた。空から地上の様子を見る。事件の元凶となったイーヴィル・アイルさんが解放された事で、イーヴィルの発生が止まったらしい。膠着状態だった学園の戦況が、優勢へと傾く。


 更に、まだ鎮圧出来ていなかったイーヴィル化してしまった孤児院の生徒もイーヴィ・アイルさんという力の供給源を断たれ、クラスで言えば1段階下がった位に弱体化し、動きが鈍っていた。


 この事件はもう、大丈夫だ。

 リーゼの飛行速度も少しずつ遅くなっている。

「リーゼ、大丈夫かい?」

 イーヴィルとしてのリーゼの魔力も尽きかけているだろう。


「平気よ。貴方達を送り届けるだけの力は残ってる。それに多分、他の子達も弱ってるだけで手加減した〝破滅の光〟を当てないと元には戻らないと思うわ」

「そっか。なら、まだ僕達の力が必要だね」

 僕とアイルさんを運んでくれたリーゼは、学校の屋上に着陸する。


 そして、アイルさんを寝かせた。

「リーゼ……俺、何してた……?」

 アイルさんは弱々しくも意識があるらしい。その問いかけにリーゼは慈母のように優しい笑顔で答える。


「少しだけ、悪い夢を見ていたのよ。優しいけど不器用な、貴方らしい悪夢を」

「ははは……ひょっとして、なんか……やらかしたかー……?」

 弱々しくアイルさんが顔を歪める。リーゼは首を縦に振りしかし、子供を寝かしつけるようにアイルさんの頭を優しくなで始めた。


「そうね。すっごくやらかしたわ。でも、ドライズと、イクリプスさんが助けてくれた。学園のみんなも、頑張って戦ってたわ。大丈夫、今回は何も、失わずに済んだから、だから今は少しだけ、眠りなさい」

「そっか……後で……謝んないとなー……」

 アイルさんの瞼が、ゆっくり閉じていく。


「でも……その前に……ドライズ、イクス……ありがと…………」

 言葉はそこで途切れて、アイルさんは深い眠りに落ちたのであった。


     ◇  ◇  ◇


 その後は半日も経たずして事件は収束した。

 学園内に発生したイーヴィルは全て討伐され、イーヴィル化してしまった孤児院の生徒達も全員無事に身柄を確保。


 あとは、ファルマの設計したマジックアイテム『フェア・クリスタル』をレンとアーシェが数日がかりで生産して。


 次に破滅の光を持つルクシエラさん、イクリプスさん、僕が、『フェア・クリスタル』へ〝破滅の光〟を注ぐ。


 希釈された〝破滅の光〟、ファルマが開発した魔法『破魔のルクスエクラ』によって孤児院の生徒達は無事に元の姿に戻る事ができた。


「少し時間がかかったけど、やっと全部終わったよ。ファルマ」

 僕は保健室のベットで眠り続ける、ファルマの傍らに花を添えながら伝える。


「お見舞い、遅れてごめんね」

 アイルさんを救出し、保健室へ連れて行った時。同時にファルマも保健室に担ぎ込まれていた。真っ青な表情で心配していたシジアンちゃんとアリシアさんの顔が忘れられない。

 それから数日間、アイルさんは目を覚ましたけれどファルマは未だに目を覚まさない。


「やっぱり君も、戦ってたんだね。大活躍だったらしいじゃないか」

 心配じゃない訳がない。腕を斬り飛ばされたと。かなり無茶をしたとシジアンちゃんとアリシアさんから聞いた。もう二度と目を覚まさないかもしれない、なんて不安な気持ちもある。


 けれど。今眠っているファルマの寝顔は。全てをやりきったとでも言いたそうなとても安らかなモノだった。だからきっと、今は少し疲れてるだけ。


「自慢って訳じゃ無いけどさ。僕も頑張ったよ。君がくれた剣と、思い出を蘇らせてくれた不思議な光のお陰だったけど――少しは、『主人公』らしい事できたかな?」


 僕はファルマの病床から離れ、カーテンを閉めた。

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