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【第二部完結】俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~  作者: 岩重八八十(いわじゅう はやと)
第2部 最弱の八天導師

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外伝94.4話 僕は、何も出来ないのか?

ドライズ視点

「『強度5 範囲タイプB――ルクス・エクラ』ッ!!」

 滴る汗を振り払って。

 焦る心を押さえ込んで。


 奥歯を噛みしめ、眉間に皺を寄せて。僕に出せる最大の出力で『ルクス・エクラ』を放つ。

「『ダイヤモンドリング』ッ!!」

 イクリプスさんも併せて〝破滅の光〟を放ってくれる。


 けれど。


 暗紫色の魔力はこちらの〝破滅の光〟の量に合わせて、ぶわりとその物量を増大させ、魔法を阻む。


 僕達の光は、アイルさんに届かない――


「『エア・バインド』『セレス・ティアル』」

 アイルさんのイーヴィル。アイルさん自身が巨大な十字架に貼り付けられ、太く重質な鎖にがんじがらめに拘束されて。


 十字架の左右先端からは強大な西洋鎧の腕甲の様な金属質の腕。十字架の頭部先端には西洋鎧の兜の様な頭部があり、その口元のカバー部分が可カタカタ動いてくぐもったアイルさんの声で魔法が唱えられる。


 相手は当然、無抵抗などでは無い。

『エア・バインド』は風と暗紫色の魔力をこちらの身体に絡みつかせて束縛する魔法。

『セレス・ティアル』は空の賢者、セレナ先生の襲名魔法で蒼色の竜巻を発生させ、更に竜巻から風の刃を無数に放って攻撃する強大な風属性魔法だ。


『セレス・ティアル』はリーゼが必死に上空を飛行する事でなんとか致命傷を避けて回避しているモノの、使用される度に着実に、リーゼにも僕にも小さな風の刃が傷を残していく。


 そこへ、逃がさないと言わんばかりに『エア・バインド』による妨害。これは暗紫色、未知の原初の魔力を含む魔法であるため〝破滅の光〟を使わなければ対処できない。


 僕に残された〝破滅の光〟はもう底を尽きかけている。この『エア・バインド』は防げない……!


 そう判断し拘束される事前提で、追撃の『セレス・ティアル』如何に凌ぐかを思案していた所に、三日月の曲剣が空を裂き、『エア・バインド』の暗紫色の魔力を切り払ってくれた。


「ありがとうございます、イクリプスさんッ」

 反射的にお礼を言うが、僕は焦燥を抑えられないでいた。


「礼は後で良い! それよりも、ドライズ――もう限界だろう?」

 悲嘆の声色でイクリプスさんの言葉が耳に届く。


「ッ」


 思わず言葉が詰まったが、すぐに否定する。

「まだ、まだやれます!!」

「だが、お前の最大出力、5をもってしてもあの闇は払えなかった! これ以上策はあるまい!? 『セレス・ティアル』を放たれる度に、お前達二人が傷つき消耗しているのは明白だ! これ以上は――看過できん」

 イクリプスさんの言葉の意味。理解出来ない訳が無い。


 僕の〝破滅の光〟を併せて尚、あの闇は払えなかった。もう残された手は。

 イクリプスさんの『トータル・イクリプス』の段階を一つあげ、現段階の十数倍にもなる〝破滅の光〟をぶつける事だけ――。


「お前達はよく戦った! ここまで相手が〝破滅の光〟に耐えられるのは寧ろ喜ばしい想定外だ! これならもしかしたら、もう一段階出力を上げた俺の〝破滅の光〟にも耐えられるかもしれない!」

 未知の原初の魔力。暗紫色の闇はまだまだ余裕と言わんばかりにアイルさんの周囲で大量に漂っている。


 いくら師匠やイクリプスさんに劣るとはいえ僕の〝破滅の光〟だって十分にじゃじゃ馬で、膨大な魔力なんだ。それを凌ぎきったと言う事は、イクリプスさんの言う言葉にも一理あるかもしれない。

 

 けれど。――確定では無い。

 

 僕達が〝破滅の光〟を消耗しているように、相手も魔力を消耗しているはず。

 本当に、アイルさんのイーヴィルが。あの暗紫色の魔力が。イクリプスさんの膨大な魔力に耐えられるなんて保証は、何処にも無い。


「いやぁッやめてッ!!」

 リーゼが悲痛な叫びを上げる。


「情報を得られた事で、アイルが生き残る一か八かの賭けできる事が判ったんだ! お前達の戦いは無駄では無かった。お前達は十二分に奮闘した! ここで無茶を通してお前達まで失う事態になれば、それこそアイルの本意では無い筈だ! ――全ての責任は、俺がとる。賭けるぞッ裏目が出たら、俺を憎め!」


 イクリプスさんはそう言って、三日月の曲剣を手元へと呼び戻し。太陽の大剣と共に二振りの剣を両手に持つ。


 一か八かの賭け?

 裏目が出たら?

 そうしたらアイルさんが――居なくなる?


 イクリプスさんの言葉が胸の中に染みるように広がり、心をじくじく蝕む。

 イクリプスさんが、太陽の大剣と三日月の曲剣を交差させ掲げ、


「『トータル・イクリプス』――」

 その魔力を、解放しようとする。


 本当に、もうこれしか道は無いのか?


「ヤダヤダヤダッ!! 辞めてッ! お願いッ! 失敗したらアイルが死ぬなんて、そんなの、そんなの耐えられないわッ!!」

 僕を上から支えるリーゼの涙がボタボタこぼれ落ちてくる。

 いつも気丈で、僕達のクラスの頼れるリーダーであるリーゼが。子供みたいに取り乱しして、悲しみ、苦しんでいる。


 こんな選択肢が、正しいとでも言うのか?

 ギュッと、僕は悔しさに剣の柄を強く握りしめた。

 賭けに出なければ仲間一人救う事すらできない。

 賭けに勝つ可能性も、決して高いとは言えない。


 そんな事しかできない。


 僕は何の為にココに来た? こんな結末を、こんな結果を導き出すために戦って居たのか?


 何が、主人公だ――?


 悔しい。

 どうしようにも無く悔しい。


 この学園から、誰かが居なくなるかもしれない。そんなの、絶対に嫌だ。


 僕は、そんな世界――〝願っていない〟ッ!!

 

 心がぐちゃぐちゃになる。時間感覚が無くなっていく。イクリプスさんが強硬手段に出るまで、あとどれくらいだ? 僕は、何も出来ないのか? 未来があの暗紫色の闇に閉ざされていく。そんな錯覚が見えた、その瞬間。


「ッ何事だ!?」

 イクリプスさんが驚きの声を発する。

 その声に引きずられて僕の思考も、目の前の現実に引き戻される。

 気がつけば青白い光の球が一直線に。僕の胸めがけて何処からから飛んで来ていた。


「えっ――」

 あまりに突然の事態に、避ける事なんてできない。青白い光の球は僕の胸にぶつかり、そして、優しく――溶けていった。


「ドライズッ!? 敵の攻撃か!? 味方の支援か!? 無事かッドライズ!!」

 魔法を中断させ、第一に僕の安否を確かめようとするイクリプスさんの声が遠くに聞こえる。

 

でも、僕には。

 全く違う光景が。全く違う言葉が、聞こえていた。

  


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