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【第二部完結】俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~  作者: 岩重八八十(いわじゅう はやと)
第2部 最弱の八天導師

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93話 いつもみたいに、笑ってくれよ

 紅くて小さい、丸い光が掌から放たれた。

 それは白い球体の中を漂って、眠るハルカとキータの元へ届く。


 同時に〝拒絶の闇〟が勢いを取り戻し、再び俺と白い球体の間を阻んで、押し返す。

 『星の方舟』が、完全に砕け散った。俺は宙に投げ出され、吹き飛んでいく。


「先輩ッ!!」「ハル君ッ!!」

 強かに地面に叩き付けられ、身体が跳ねる。痛いとか苦しいとか、もう感覚がマヒしてきた。折角アリスに治して貰ったのに、もう一瞬でボロボロだ。


 だけど、戦いはまだ終わっていない。

 よろめきながら、何とが、必死に、立ち上がる。


『何をしよーとしたのかは判りませんがー、惜しかったですねー』

 トーラは勝ち誇った様に言うが。


「いや、十分だったさ」

 俺はもう、役目を果たしていた。

『え?』


 トーラの目が点になった。俺の言葉に戸惑った、というだけでは無いのだろう。自称歴戦の勇者らしいから、状況の変化を敏感に察知したのだと思われる。


「俺は主人公じゃない」

 白く輝く球体を。輝きがどんどん増していく球体を見上げて、一人、呟いて居た。


「誰かを救うとか、世界を守るとか、そんな事、できるような器じゃ無い」


 いつだって、俺が出来る事なんて本当にちっぽけなんだ。

 ハルカ達が眠る白い球体に手を伸ばした俺は、たった一つだけ『マテリアライズ』した。

 紅くて丸い果実を一つ。

 果実は蹲り向かい合って眠るハルカとキータの元へ、漂う様に近づいていった。


「お前達にどんな過去があったのか。お前達がどんな闇を抱えていたのか、俺には判らないし、きっと救ってやる事なんでできない。――でもさ」


 俺が見てきたハルカとキータは。

 過去の闇なんて感じさせない位、どこまでも、どこまでも眩しく笑っていた。


「本当は俺なんかの助けなんて、要らなかったんだ。お前達の笑顔に、曇りなんてなかったんだ。今はただ〝悪い夢〟を見ているだけなんだ」


 眠り、蹲ったまま。ハルカとキータと手がリンゴの上で重なった。


「二人とも、好きだって言ってたよな。もう十分眠ったろ? よく寝たら、次はご飯の時間だろ? 早く起きろよ。そして――」

 二人を包みこんでいた白い球体が、限界に達したように、弾けた。



「いつもみたいに、笑ってくれよ」


 

 強烈な閃光と、魔力の嵐が吹き荒れる。二人を捕らえていた暗紫色の魔力〝拒絶の闇〟が切り裂かれ、払われる。


『どういう事ですかー!? なんで、トーラちゃんの〝拒絶の闇〟が――あっ!!』

 漸くトーラは気付いた様子だった。


「『フェア・クリスタル』は――〝破滅の光〟は、この空間にもう一つだけある」

 いや、初めから〝あった〟んだ。

 この空間、『エンデオブ・ダークゼロ』は黒い魔力が引力と共に世界を囓りとる様に飲み込んでいく魔法だが、この空間に漂う物体にはアイルさんのアスレチックなど『エンデオブ・ダークゼロ』が発動する前にキータが食べたモノも混じっていた。


 俺はキータに『フェア・クリスタル』を一つ食べさせていた。

『破魔のルクスエクラ』は限界まで希釈した〝破滅の光〟。トーラによって対抗する原初の魔力である〝拒絶の闇〟を付与されてしまっていた二人を、それ単体で救う事はできなかった。


 でも、無駄じゃ無かった。


 トーラ曰く、ハルカとキータの融合は予想よりも緩やかだった。余計なモノが混入している、と。その言葉でピンときた。


 二人の融合を食い止めていた余計なモノの正体が『フェア・クリスタル』であると。

 やがて目映い光が収束してゆく。


 二人はそこに、立っていた。

 ハルカは一口囓ったリンゴを、キータに手渡す。


「甘くて、美味しいよ」

 キータはリンゴを受け取り、囓る。

「力が、勇気が、湧いてくるんだよっ!」

 あのリンゴは一種の契約魔術だ。


 二人を包む〝拒絶の闇〟、原初の魔力によって阻まれていた『ドリーム・ディメンション』の効果を二人にも適用させる為の、きっかけに過ぎない。それにあの二人は――好きな食べ物の匂いで、目覚めてくれると思ったからさ。


 ほんのささやかな、橋渡し。

 俺に出来る事なんてその程度だけど。


 こんな時に言うのも無粋かもしれないが、マテリアライズで作った食べ物なんて味の保証は出来ないんだけど。


 それでも二人は――


 笑ってくれた。


「ありがとう、おにーさん」「ありがとうだよっおにーさんっ!」

 いつもの、眩しい笑顔を浮かべる二人へ。


 俺が出来る最後の事。  

「受け取れッハルカ、キータッ!!」

 解放された二人に向かってピンクと黄色、星形の魔石を二つ投げつける。


 言わずとも判ってくれたようだ。ピンクの星をハルカが、黄色の星をキータが受け止め。

 発動する!


 元々二人にプレゼントする予定で作っていた、二人の新しい装備。

 ハルカの頭に、先の折れた夜空色の三角帽子が現れる。帽子の正面と先の折れた先端には、星の飾り。そして、同じく星の意匠が凝らされた魔法のステッキ。


 キータの首に、紅いマフラーが現れる。金色の、王冠をイメージした刺繍が小さく輝いて。彼の四肢には龍の頭をイメージした紅い腕甲と脚甲が装着される。


「『トリプル・スターライト』『ドラゴンズ・クラウン』。お前達への、お返しだ」

 淀んだ空が晴れていく。


『エンデオブ・ダークゼロ』が。飢えた空間が壊れようとしている。

 残る敵は、ただ一人。


「やるよ、キータくん」

「いつでもいけるんだよっお姉ちゃん!」

 幼くも凜々しい双子の魔法使いが煌めく。

 キータは駆け出し、ハルカはステッキを振るう。


「『星のキセキは、春風と共に』」

 ハルカの纏う装備に取り付けられた三つの星が、それぞれ強く輝いて。


「『シューティング・スターライズ』っ!」

 真っ白で巨大な星形の魔力弾が放たれた。


 星形の魔力は走るキータの背に追いついて、キータは小さくジャンプする。

 星の魔力に乗ったキータは拳を引いて。

「『星の息吹は、北風の様に』ッ!」

 龍の頭部を模したキータの腕甲に光の魔力が集まっていく。


 キータを乗せた星の魔力は、一直線にトーラに向かい。

 キータはトーラの目前でジャンプした。華麗なバック宙により乗っていた星形の魔力がキータの前に出る。そして拳を、星形の魔力へと叩き付けるッ!


「『スマッシュ・スターライズ』ッ!!」


 ハルカとキータ、二人の魔法が合わさって星形の魔力弾は更に強く輝きトーラを襲う!


『くっ、まだまだー! トーラちゃんは、諦めの悪さと執念深さには定評があるのでーす!』

 トーラは〝拒絶の闇〟の全てをかき集め、放ち迎え撃つ。


 暗紫色の魔力の塊と、真っ白な星形の魔力の塊が衝突した。

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