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【第二部完結】俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~  作者: 岩重八八十(いわじゅう はやと)
第2部 最弱の八天導師

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87話 お前が〝拒絶の闇〟の正体か!?

 闇を抜けた先には、異様な空間が広がっていた。

 足下は乾いてひび割れて茶色い大地。

 空は絵の具をぐちゃぐちゃに混ぜたように蠢く混沌色。


 キータが食べたと思われる、アイルさんお手製アスレチックや木々、木の葉、土塊、折れたハルベルトがふわふわと所在なく漂って。


 淀んだ空からはぽつり、ぽつりと木が根こそぎ一本現れては漂う。きっと今なお外の黒い球体が永久の森を喰らいつつ膨張しているのだろう。


 表現するなら――飢えた世界だった。


「アリスの『ナイトメア・ダークマインド』に似ている……」

 夢を現実にする空間を展開する魔法『ナイトメア・ダークマインド』に取り込まれた時の事を思い出していた。今のハルカとキータはアリスにとりついていたイーヴィルに近しい存在であると謎の意志が言っていたのでこの空間――『エンデオブ・ダークゼロ』も似たような形式の魔法になっているのだろう。

 

 空間の中心に、巨大な白い球体があった。


「ハルカッ!キータッ!!」

 球体の中では二人が目を閉じ眠ったまま、向かい合わせに蹲って漂っている。

 その白い球体を、撫でるように、舐めるように、黒紫色の魔力が覆っていた。


 間違い無い。あの魔力は〝破滅の光〟を阻んだ、原初の魔力――謎の意志が言っていた〝拒絶の闇〟!


 あれをどうにかしない事には、二人に干渉出来ない。

 ハルベルトをマテリアライズする。そして、思った。


 ――謎の意志さん!! 応援してるとか健闘を祈るとか言うならまず〝拒絶の闇〟の特性教えてくれませんかね!!? うっかりっすか!!?


 あれが原初の魔力であるならば、〝破滅の光〟と同様に魔力そのものになんらかの特性がある筈だ。

 が、情報が無い以上そちらの件は考えるだけ無駄だ。今優先するべき事はハルカとキータの融合を少しでも阻止する事……。


 ――……えっ、どうやって?


 チーンと、高い鐘の音が頭の中に響いた気がした。

 八天導師として、ドライズやルクシエラさんに恥じない魔道士である為にとなけなしの勇気と張りぼての自信を持ってここまで来たが。

 今、この場で、自分に何ができるのか判らなかった。


「と、とりあえず『フレアレッド・クラスター』撃ってみるか……」

『フレアレッド・クラスター』は五芒星状の炎に対象を閉じ込め〝対象の魔力を薪にする〟事で燃え続ける大魔法だ。この魔法は炎による攻撃よりも〝相手の魔力を枯らせる〟事を目的としている。炎を消す事ができない限り、永続的に相手の魔力を奪い続ける、自分で作っておいてなんだが結構掠め手でいやらしい魔法である。


 ただ、発動に必要な魔力量がかなり多い。俺自身の魔力では全然足りない。

 アリスの時はアリスの魔力を干渉マテリアライズで大量に物質化して、それを燃料にして漸く発動出来た。


「まずは燃料を集めないと」

 幸い、ここが『ナイトメア・ダークマインド』と同じような形式の魔法空間であるなら、空間自体が魔力の塊そのもの。適当に干渉マテリアライズするだけで良いはずだ。


 ひび割れた地面に手を付き、集中する。

「『マテリアラ――』」


 その瞬間だった。


 なんでだろ。俺、結構勘がいいのかもしれない。咄嗟の判断で横に転がって受け身を取る。ドスリ、と鈍い音と共に暗紫色の槍のようなモノがさっきまで俺が居た位置に突き立っていた。


 ――明確な攻撃ッ!! ハルカ達か!?

 すぐさま体勢を立て直し、視線を上げる。


 巨大な光る球体の中で、蹲るハルカ達。それを覆い包む暗紫色の魔力。

 その魔力の一部が尾を引いて居た。線となった魔力の先にあったのは。


 暗紫色の人影


 魔力が人の形を取っている。片腕がこちらに差し向けられていた。この人影が敵の正体である事は間違い無い。


「何者だッ!!」

 問う。槍を構え、相手の挙動を観察する事へ神経を注ぐ。

 体格は小さい。暗紫色一色の身体なので細部のパーツはよく判別がつかない。


『何者? んー名前答えればいい?』

 先程の意志の様に、声では無い、音では無い、心に直接言葉が伝わってくる。


『トーラちゃんはトーラって言うんだよ! よろしくね』

 暗紫色の人影は両腕を万歳のようにあげてそう名乗った。


 ――誰だよ!!? こっちは〝第四の賢者〟の出現だけでも手ぇいっぱいなのに!!


 新たなる敵対存在に冷や汗が滲んで奥歯を噛みしめる。

 けれど、この極限状態の中、頭の中で思考が高速回転する。

 状況から考えて、暗紫色の魔力が原初の魔力の〝拒絶の闇〟である事はほぼ間違い無い。その魔力が人の形を取っていると考えるならば、


「お前が〝拒絶の闇〟の正体か!?」


 謎の意志は〝拒絶の闇〟を〝悪辣〟と表現していた筈だ。それは即ち〝拒絶の闇〟には意志がある可能性を示す。


『せいかーい。あ、あの人の口癖移っちゃった。てへ☆』

 無邪気であざとい口調だ。まるで、悪意の一つも感じ取れないほどに。


「ハルカとキータを解放しろッ!!」

 白い球体の中で眠るハルカ達、暗紫色の魔力はその球体に覆い被さって拘束、閉じ込めているように見える。それはきっとこいつの意志だ。


『やーだよ。君ってば、二人の願いの邪魔をしに来たんでしょ? 悪い人だー』

 悪い人だ、と言われて眉をしかめた。


「は? 俺の何が悪いって言うんだよ」

『折角順調にみんなの願いが叶おうとしてるんだよー? 邪魔なんてしちゃ可愛そう』

 トーラは。〝拒絶の闇〟は。二人がイーヴィルとして融合する事を肯定している。


「ふざけるなっイーヴィルは歪んだ願いだ!! あってはならない願いだっ!!」

『えーそんな事ないよー。キミ達がイーヴィルって呼んでる存在だって人間の心の欠片。尊重するべきだとトーラちゃんは思いまーす。なんでこの子達が大きな願いの塊になろうとしてるか知ってる?』


 俺は謎の意志に教えられた考察をそのまま答える。


「ハルカとキータが抱えた願いが、食欲と睡眠欲――誰しもが持つ願いだからだろ」

『せいかーい。つまり、この子達の願いが叶うって事はそれを望んだ人達――飢えたり、眠れなかったりした人たちの願いが叶うって事でーす』

「その結果があの災害みたいな魔法なんだぞ!? 人を、自然を、多くのモノを飲み込み、傷つけて、それで叶う願いが良いものな訳あるか!!」


 そんな俺の訴えを。〝拒絶の闇〟は不思議そうに伝えてきた。


『えーキミ何言ってるの? ちょー矛盾してるー』

「はあ!?」

『キミ、何も食べてないの? 何も傷つけてないの?』


 トーラと名乗る〝拒絶の闇〟は語り始めた。

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